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11話

 怪しいぞ、この大賢者。偉そうに「試練を与える」などと言ってからのこれは、まるで狙ったようなタイミングじゃないか。


 怪しい、怪しいが……しかし、いやに険しい表情だ。僕たちを(たばか)っているようには見えないが、腐っても大賢者。内心を押し隠すことなど容易いに違いない。


 ……ん? 大賢者の様子がさらに――


「――やっぱりこの魔力。魔族のッ……!」


 おお、顔が大変なことに。鬼の形相じゃないか。


 というか今の発言は。


「トールさまっ。いま大賢者さま、魔族って言いましたよね!? まずくないですかっ」


「あ、ああ。魔族がこの騒ぎを起こしているのなら、たしかにとんでもない大事だが」


 本当に魔族が? ここは魔法国の首都、その中でも特に守りの堅い学園だぞ。


 だが、あの大賢者の様子は……。


「大賢者さま、戦争してたころ魔族にいっぱい仲間をやられたからって、とびっきりの魔族嫌いなんですよ! わたし歴史の教科書で読みましたもん!」


「ああ、それは僕も知っている。あの世代はたいてい魔族嫌いだというが、大賢者さまは格別だそうだな。……あの様子、演技にはとても見えない」


 冷え切った瞳は、外から感じる魔力を辿っているようだ。ゆらゆらと立ち昇る威圧感を肌で感じる。


 もしや、本当に何も知らないのか? だとすると魔族襲来など正真正銘の大事件だ。


 魔族たちは種族として優れた魔法適正と強靭な肉体を持っている。魔王が生きていた頃は、あちこちの国でとんでもない被害を出していた。


 それこそこの襲撃が起きたのも、大賢者がいる今で良かったのかもしれん。


 魔族となど戦ったこともないし、危ない目に遭うのはごめんだ。侯爵家の尊い身だからな!


 そう、思った時だった。


 大賢者が僕たちに向かって言う。


「魔力から感じる限り、強力な魔族が複数来ているみたいだ。幸いこの訓練場の近くに魔族は来ていないし……」


 おっと? 雲行きが怪しくなってきた。


「この学園は、魔法国の未来そのものだ。そして、ボクは力を尽くして魔法国を守らねばならない」


 この場のみなも大賢者が言わんとすることを察したらしい。ざわざわと不安げな声が漏れてくる。


 そうだよな、お前たちも不安だろう……! アザレア嬢とリューはなぜか平気そうな顔で僕を見ているが、それ以外の者は大賢者という万全の護衛を欲しているのだ。


 よし、ならば大賢者の言葉を封じるように――。


「大賢者さま。学園が襲撃され、いつ敵がこちらに来るかも分からない状況……この場の者たちもしっかり保護する必要がありそうですね」


「それは、そうだね。今のところこちらに来る様子はないけれど、魔族どもは狡猾だ。ボクが移動すれば逃げ出す魔族も出てくるはず……。――ッ! ヒイラギくん、まさかキミは……!」


 気づいたか? 僕が言いたいことに。


 そうだ、お前の思っている通りだ大賢者よ。ここにいるのは特級クラスの精鋭生徒、つまりお前の言う魔法国の未来だ! 加えて、僕という極めて貴い身分の貴族までいる。


 つまり、大賢者がすべきはここに残って僕たちを――


「――ヒイラギくんが、この場の護衛を買って出てくれると言うんだね! 本当に助かるよ……!」


 …………は?


「あの、それは……」


「いい、みなまで言わなくとも理解しているよ。これはボクたち大人の理屈で申し訳ないけど……正直、いまの学園教師は頼りない。一部のベテランを除いて、若い子たちは完全に平和ボケしている」


 なに? そ、そうなのか!?


「そんな子たちでは、おそらく魔族の襲撃に対処しきるのは無理だ。あちらにボクが助けにいくことは必須。……となると、さっきヒイラギくんが言ったように、ここの守りが手薄になってしまうけれど。――そこで、キミが一肌脱ぐと言うことだろう」


 全然、ちがう! ヤメロ! みんな僕を見るんじゃない……!


「正直な話、キミの実力は……大半の学園教師を上回っている。四十年前、魔族との大戦のさなか――この国の魔法士がもっとも強かった時代でも上位に入るだろう」


「そ、それは……過大な評価かと」


「いいや、そんなことはない。ボクの目は確かだよ」


 なんだよそれは……。この学園の教師はみな国内トップクラスの魔法士たちだろう!?


 たしかに思い浮かべてみれば、僕の前で手本として魔法を使ってくれた教師はみな歳を重ねた古参教師ばかりだった気はするが……。


「だから。キミからの言ってくれたことでもあるし、大人として申し訳ないことではあるけれど。この場は、キミに任せたいと思う」


「そ……それは……ッ」


 こんな時でなければ、僕が魔法士としてかなりの高みにいると分かったのは喜ばしいことだが。


 しかし……どうする! こいつ、やはり襲撃の手引きとかしていないだろうな!? 僕という国の宝を危険な目にあわせるなど……!


「トールさま、さすがですっ」


「ヒイラギさんなら、正しく私たちを導いてくれる……」


 やめろリュー! アザレア嬢もさっきから言っていることが怖いぞ!


 くっ、他のクラスメイトたちもなぜか乗り気になっているし。


「さすがだね、ヒイラギくん。クラスメイトたちから異論の一つも出ない。ボクもキミになら安心して任せられる」


「……! ッ……ぉ、僕に、任せてください……ッ!」


 断れるか、この流れで! 危ないことはしたくないから大賢者も残れなんて、そんなことを言おうものなら僕のイメージが完全に崩れてしまうだろうがッ!


 クソ、もうこうなっては仕方がない。さっさと大賢者が敵を倒して、こっちには誰もやってこないことを期待するしかない!


 幸いにも、戦闘音や魔力の反応はけっこう遠い。敷地の隅であるこの訓練場まで魔族がやってくることはそうそうないだろう……。


 そんなことを考えながら、高密度で莫大な魔力をまとった大賢者が出ていくのを見送る。


 ――その、わずか数分後のことだった。




「――貴様がトール・ヒイラギか。その首、貰いにきた……」




 僕たちの視線の先には、大穴が開いた訓練場の壁。そして土煙の中から現れる男の姿が。


 頭に生える細い二本の角。縦に割れたような瞳孔が特徴的な黄金の眼。


 初めて実物を見た。これが魔族か……!


 ――というかこっちに来ているじゃないか! 魔族がッ!


「大賢者め……やはりお前の策略かッ?」


 なぜか僕のことを知っていて狙われているし! なぜだ!


「そして、最重要は。――貴様だ、ニア・アザレア……」


「えっ。私……?」


「魔王様を蘇らせる礎となる、その呪われし魔力。貴様にはついてきてもらうぞ……」


 魔族の台詞にざわつき、アザレア嬢に疑わし気な視線を向ける周囲。


 呪いとかいうバカげた話が魔族にまで伝わっているとは。アザレア嬢も明らかに動揺している。


 というか魔王とアザレア嬢に何の関係があるんだ。もう四十年前に死んでいるはずだろう? 死者蘇生の魔法など存在しないはずだが。


 しかし、そんなことよりも。


 今はこの、明らかに上位の魔族を何とかしないと……! 僕を殺すとか言っているんだぞッ。


「みんな、惑わされるな! 魔族が言うことなど真に受けても、相手の思うつぼだ!」


 いまアザレア嬢に精神的な負荷をかけるな! 僕の命を守るため、万全の状態で戦ってもらわないとだろうが!


「アザレア嬢は僕たちのクラスメイト――仲間だろう! 魔族を前に仲間割れしているような余裕はないッ!」


「そうですよみんなっ! ニアさんはなんにも悪いことしてないんですから!」


「ヒイラギさんッ……! あと、リューさんも」


 いや、べつにお前を感激させるために言ってるんじゃないぞ、アザレア嬢! その星神教信者のような目が気持ち悪い……が、僕を守る駒になってくれるなら、いまは許容しよう。


 さあ、早く戦闘の準備を! あの魔族、なにやら魔力を高めているッ!


「では。魔王軍、隠密機動隊が長、キール。参る……」


 ん? き、消えた!?


 ――いやッ! 後ろに!


「くッ」


「ほう。力場による防御と、物質化させた魔力による物理的防御の両立か。何とも器用なことだ……。それに、俺の動きを見切った魔法士は、それこそ大戦時以来」


「このッ、離れろ!」


 無属性魔法で相手を吹き飛ばす力場を作りぶつけるが、キールとやらはまた僕の視界から消え去り、一瞬の後に最初現れた位置で姿を現す。


 この現象、この魔力の動かし方……これはついさっきアザレア嬢が見せたものと近しい技術――。


「第二魔法による【空間転移】か……!」


 こいつ、とんでもない実力者じゃないか! 学生が相手するようなやつじゃない! 恨むぞ大賢者めッ!



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