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1話

 レンドーア魔法学園。


 それは世界有数の魔法大国、セルセイレム魔法国でもっとも権威ある魔法学園だ。


 国内の見習い魔法士はみなここへの入学を目指し、日々魔法を研鑽している。魔法が全ての国だから、厳しい貴族家だと子どもがレンドーアに入学できないと廃嫡されることすらあるのだ。


 ヒイラギ侯爵家の次期当主たる僕は、当然レンドーアに入学――どころか首席合格まで果たし、三年次までトップの地位を守り抜いてきた。


 だが、しかし。


「わ、おめでとうございますトールさま! 今回も――――二位ですよ、二位!」


「――そんな……バカな……!? 二位……? 二位だと!?」


 嘘だろう? あれだけ対策に時間を重ね、寝る間を惜しんで魔法の特訓をし…………それで二位!? どうなってるんだ!


「あれ、トールさま。どうかしましたかー? また二位ですよ? なんだか不満げな顔してます?」


「あ、あぁ。いや、そんなことはない。僕の努力が評価されたんだ、嬉しいとも」


「そうですよねー、さすがに! だって、この国で同年代の子たちはたっくさんいる中で、その二番目ですもん! やっぱりトールさまはすごいなあ」


 クソが、嫌味か!? 何がまた二位だ! リューのやつ、僕が万年二番手だとでも言いたいのか!


 クソクソクソ……。僕はどうしても首席にならないといけないのにどうして……!


 どうせ一位はまたアイツだろう? あの……呪われた家とやらの気に食わない女……!


 僕は掲示板に貼り出された順位表、その一番上の名前を睨む。


 くそ、この忌々しい名前……何度僕の上に君臨すれば気が済むんだ。


 許せん、許せんぞ――


「――ニア・アザレアめ……!」


 宿敵の名を呼んだ、その瞬間だった。横合いから視界に入るのは小さな人影。




「――……私のこと、呼んだ?」




「あっ、おま……いや、君は……!」


「……ふん。どうせまた悪口でも言ってたんでしょ。万年二位のヒイラギさん」


 あ、こいつ。言ってはいけないことを、一番言って欲しくないやつが言いやがった!


 許せん。


「……ッや、やあアザレア嬢。悪口なんてそんな、とんでもない」


「……ふん、うそばっかり」


「嘘じゃないさ。それより――また学年一位だな、おめでとう」


 触れないわけにはいかんから言ったが、血管切れそう。


 アザレア嬢は一瞬順位表に目を向けて、大して興味なさげに視線そらすものだから余計に。


 当然のことだから見るまでもないと? クソめ!


「毎回一位だし、べつに……」


「こっ、このっ……ぐぅ。……そ、その毎回を維持するのに、きっと途方もない努力があるのだろう? ッそれは、尊敬に値するさ」


「……ふん。べつに」


 べつにべつにじゃないんだよ! 涼しい顔しやがって、僕に勝つのに努力なんていらないと言いたげだな!


 ほらリュー! お前僕の従者だろ! 主人がバカにされてるぞ、なんか援護射撃したらどうだ!


「わっ。ど、どうかしましたかトールさま? すごい顔してますけどっ」


「……ああ、いや。ただ、僕たちの会話に入ってこないからどうかしたかと思ってな」


「えっ……そ、それはだって……」


 あん? なんだリュー、そんな恐る恐るアザレア嬢を見て。僕に対しては物言いたげだが……って、ああ、アレか。


「ヒイラギさん、それ以上虐めるのやめてあげたら? オリーブさん目で言ってるよ。――呪われるから、私なんかと話したくないって」


「そ、そんな……っ」


「ほう。呪いか」


 アザレア嬢の生家、アザレア子爵家の呪いか。関わるもの全てに災い……特に魔力にまつわる不幸を招くとかいう眉唾な話だ。


 くだらん。そんなものあるわけないし、仮にあったとしてそれは呪いなんて不確かなものじゃなく、何らかの技術によるものだろ。


 魔法において……遺憾ながら極めて優れた才能を持つアザレア嬢が、わざわざ自分より下の相手にそんな小細工をするとも思えん。


 つまり、呪いなんてないし、あったとしても心配無用!


「リューよ。栄えあるヒイラギ侯爵家の従者として、そんな下らない噂話に惑わされないように」


「う……で、でも」


「でもじゃない。ほら、ちゃんとアザレア嬢と目を合わせて言葉を交わすんだ。クラスメイトなんだから」


「は、はい……」


 なんだその情けない表情は。眉を下げて僕を見るな。ほらどうした、なんならにっくきアザレア嬢に直接罵倒でも浴びせてやれ!


 ……おっと? そんなくだらんやり取りをしてるうちに、アザレア嬢がこちらに背を向けた。


「そんな無理強い、しなくていい。迷惑だから」


「えっと、アザレア嬢……気を悪くしたならすまない」


「べつにいつものことだし。ヒイラギさんも、私に呪われたくなかったら……もう私と話さないほうがいいかもね」


「な……」


 スタスタと去っていくアザレア嬢。いつものように、周囲全てに興味なしといった感じだが。


 だが、なぜだろうか。離れていくその小さな背中が、いつもより小さく萎れているように見えて。


 僕を負かした相手が、下らない噂話に肩を落として去っていく姿に……どうにも、腹が立った。


 だから。




「――アザレア嬢!」




「……なに? さっきも言ったよ。あんまり私と話してると――」


「――呪われるって? それが、どうした。ヒイラギ侯爵家嫡男の僕が、そんなものを恐れると? それこそ僕に対する侮辱だ」


「なに、それ」


「いいか、僕が君に言いたいことはただ一つだ」


 アザレア嬢にびしっと指を向け、僕は言った。


「――次の試験こそ、僕が学年一位の座についてみせる。それまでアザレア嬢は……首を洗って待っているといい」


 その言葉を聞いたアザレア嬢は。一瞬何を聞いたか分からないとばかりに、その猫目を丸くして。


 そして、珍しく。本当に珍しいことに。


 ――くすりと。そう、小さな笑みを零した。


「次も、一位は私だから」


 だが、すぐ仏頂面に戻ったアザレア嬢は、それだけ言って背を向ける。そうして、去っていく背中。


 僕とリューは静かにそれを見送って、そして……。


 ――あの女、最後僕のこと笑いやがったな! 一位を奪われることなんてあり得ないって? クソ、舐めやがって!


 次こそ、必ずや一位に……! ヒイラギ侯爵家の家督を失わないためにも、首席で学園を卒業してやる……!


 そのためなら、どんな姑息な手でも使ってやるぞ!


 せいぜい今だけ一位の景色を楽しむがいいさ。


 この、生意気な天才め……!




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