第50話 あれ? ~モールの抹茶ソフト~
次の休みを利用して、市がふたつほど離れたところにある大型ショッピングモールへと訪れていた。
左沢線に乗って寒河江駅まで。
そこからモールの無料送迎バスに揺られてしばらく。
買い物だけでなく、映画館などのアミューズメント施設も一緒になった全国チェーンのモールだが、沢産の生徒にとっては一番近い遊び場だ。
世間的にも週末の休みということもあって、モールの中は家族連れや、同じ学生でごった返していた。
このごちゃごちゃ感も、スッキリした田舎である地元に比べたら、賑やかでいい。
「ありがとう、歌音さんに晴海さん。買い物、手伝って貰っちゃって」
「いいよー。ちょうどプレゼント買わなきゃいけなかったしね」
「同じくです。というか、今日あたり何人か同じ考えの人居そうですね」
クリスマス会の準備を誰かに手伝って貰おう――ということで、私は寮生の一年生たちに協力を仰いだ。
当日の飾りつけなりなんなり、仕事はいっぱいあるけれど、とりあえず今日は買い物だ。
「むしろ買い物だけなら、あたしたちに任せて貰っても良かったのに」
「実は、当日のご飯もどうしようかなって考えてて。実際に食材見たほうがインスピレーション沸きやすいかなって」
「あ、なーる」
晴海さんは、ぽんと手を打って頷く。
「買うのって、飾りつけ用の小物だよね?」
「そう。あんまり予算無いから、凝ったのは無理だけど」
「なら、とりあえず百均で揃えてから、余った分で他のも見てみよっか」
「そうだね」
「私は、こういうのセンス無いのでカゴ持ちしてますね」
すごく偏見交じりだけど、買い出しを晴海さんにお願いしたのは、寮生の一年生の中で一番こういうことに慣れてそうだったからだ。
山形に比べたらずーっと都会に住んでるし、普段の様子からもセンスが良さそう。
対して、歌音さんの枠は完全に荷物持ちだ。
荷物持ちでもうひとりくらい~と声をかけたら、手を挙げてくれたのが彼女だった。
ちなみにすずめちゃんは先約があり、亜利沙さんと星来さんは、農産科の雪かきシフトが入っているという。
提案通り、まずは百均でひとしきりクリスマスらしいグッズを買い漁る。
時期が近いこともあって、店頭に特設コーナーができていたので、歩き回らずに済んだのがありがたい
「お皿とかお箸も、全部使い捨てにしよっか。片付けるの楽だし」
「確かに、芋煮会の時は洗い物だけで大変だったなぁ。使い捨てにすれば良かったんだ」
「そうそう。紙皿なら、他のゴミと一緒に捨てるだけだしね~」
晴海さんの見立てはとても的確で、ものすごく参考になった。
お皿とかを入れ始めるとカゴの中身はどんどんかさ張っていくので、歌音さんはいつの間にか両手にカゴのストロングスタイルになっている。
「重くない? 片方持とうか?」
「見た目ほど重さ無いので大丈夫です」
彼女は、頑なにストロングスタイルを死守した。
荷物持ちにそこまで使命感を持たなくても良いんだけど……まあ、本人が良いと言うなら、このままお願いしよう。
百均での買い物があらかた終わると、雑貨屋さんを中心にモールをぶらっと回りながら、ほかにめぼしいものが無いかを探して回る。
中でもメインで見て回ったのが、ツリーに飾るオーナメントだった。
「ツリー自体は、民宿だったころに使ってたのがあるんですよね?」
「うん。先生が言ってた。でも古いから、木と電飾くらいしか使い物にならないって」
「見て見て、駄菓子のキーホルダーだって! こういうの吊るしても面白くない?」
両手に大きな買い物袋を提げた歌音さんに対して、晴海さんはガシャポンコーナーにご執心だ。
久しぶりにモールに来たのもあって、やや疲れ気味の私は、自然とベンチか何かを探して視線が泳ぐ。
「おっきいとこ買ったし、ちょっと休憩しない?」
「そーだね。どっか、いいとこある? ウチらアウェイだし」
「ううん……まだ買い物残ってるし、ちょっと休むくらいならあそこかなぁ」
ふたりを連れて行ったのは、銘店コーナーにあるお茶屋さんだった。
小さなイートインスペースがついて、文字通り「ちょっとお茶」ができるようなところで、家族で来た時はよく利用する。
そして、ここで頼むものと言えば、定番は抹茶ソフトである。
ツンと角の立つ新緑のソフトクリームに、クッキーと半分に切られた大福が乗った、ミニサンデー風のスイーツだ。
「おいしそー! お茶屋さんの抹茶ソフトって、無条件で美味しいの約束されてる感じでいいよね」
「この大福も、もしかして抹茶ですか?」
「そう。それも、お店の売りの抹茶大福。私、これ好き」
どんなに冬が寒くてもソフトクリームは美味しい。
スプーンで口に運ぶと、豊かな牛乳味の向こうに、ふわりと甘い抹茶の香りと、程よい苦みが広がる。
この甘苦さが抹茶ソフトの何よりの魅力だ。
じっくりと舌の上で味わうのも良し。
クッキーと一緒に、スナック感覚でサクサクやるのもよし。
口の中が冷たくなってきたら、もっちりした抹茶大福を箸休めにすれば死角が無い。
「うま~」
誰からともなく至福の声を漏らして、私たちは抹茶ソフトに舌鼓を打った。
「そう言えば、クリスマスって言ったら安芸先輩の誕生日だね」
ふと、晴海さんがそんなことを口走って、私ははたと顔を上げた。
「え、そうなの?」
「そうそう。十二月二十四日。ドンピシャだから、ハッキリ覚えてる」
「へぇ~」
おっと、それは。
まさか誕生会も一緒にしなきゃいけない流れ……なんてことにはならないよね?
ついでにちょろっとお祝いするくらいなら、いいけど。
「クリスマスが誕生日ってさー、やっぱり誕プレとクリスマスプレゼントが一緒になって、ちょっと損した気分とかになったりするのかな?」
「地元で十二月が誕生日の子は、ちゃんと両方もらえてたみたいですが」
「一日でもズレてたら、ワンチャンありそうじゃん。でも当日ってさ。流石にさ」
確かに、少しだけ気になる……けど、わざわざ直接聞くほどのことでもない、かな。
というか安芸先輩、目の敵にされてるっぽくて話しかけづらいし。
「ところで、この後どうするー?」
誕生日の話題はもう飽きたのか、百八十度話題を転換した晴海さんに、歌音さんがスプーンを咥えながら答えた。
「あの、一旦別れてプレゼント探しにしませんか? 私、今日しか時間なくて」
「あー、そうだった。ひとり千円以下だっけ。何にしようかな?」
クリスマス会のイベントのひとつで、プレゼント交換がある。
よくある、持ち寄ったプレゼントをみんなで手渡して回して、最後に手元に来たやつを貰うという定番のヤツだ。
「なづなちゃんと歌音ちゃんは、目星つけてるの?」
「ううん、まだ全然」
「私は、本にしようかなって思ってます」
「あー、本! 良いね! 値段もちょうど良さそうだしー」
歌音さんの答えに、晴海さんとふたりで大きく頷く。
確かに本は、良いかも。
文庫本なら手ごろだし、絵本とかも結構喜ばれたりするよね。
「私も、参考にしようかな」
「あたしも、ほかに面白いの無かったらそうする!」
面白いものである必要はないと思うけども……まあ、そういう考えもアリか。
みんな本で被るのもアレだし、私も他に良いのが無かった時の第二候補くらいにしておこうかな。
「一時間後に再集合とかでいいですか? クリスマス会用と別に、個別のも買いたいので」
「お? 個別って、安芸先輩?」
「いえ、部長に。お世話になってるので」
さらりと答えた歌音さんに、私はハッとする。
顔に出ていたのか、それとも心を読まれたのか、彼女のまっすぐな瞳が私を捉えた。
「なづなさんは、買わないんですか?」
「え!? 買うって……部長に?」
「はい」
それが、何を意味して私に振られたのか、正直なところ全く分からない。
ただ、見透かされたような問い詰めに、見た目は平静を装っても、心臓はバクバクと高鳴っていた。
「そう、だね。確かに。プレゼント交換用以外に、個別に買うのも自由だよね」
「もちろん、買わないのも自由だと思いますが」
「うん……それはそうだけど」
「そう考えたら、あたしもはー子先輩とかに買ったほう良いのかな。それこそ安芸先輩も」
「思い出してしまった以上は、忘れてましたとも言えないですね」
「そーだよねー。あ~、出費が~! 年始の福袋はおかーさんに買って貰う~!」
「あはは」
ダメだ、やっぱり歌音さんが何を考えているのか全く分からない。
私はとりあえず、精いっぱい話だけ合わせていた。
部長へのプレゼント、か。
確かに用意したほうが良いよね……というか、用意したい。
部長の好みってなんだろう?
何なら、喜んでくれるかな?
せっかくなら喜んで欲しいし、ちゃんと心を込めて用意したいけど。
あれ、私、こんなに一緒にいたのに、部長のことあんまりよく知らない……かも?




