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エピローグ1 アロイスの歌声が響く丘


 1452年8月。アロイス王が没してから6年の時が流れた。


 今は「ゲルマー共和国連邦」の一つになった、エリトニー州。

 その州都エリトニーの港の奥に広がる霊園に、アロイス王とステラ王妃が静かに眠っている。


 小高い丘に秋の気配を含んだ風が吹き渡る中、セシルが花束を胸に抱え、アロイスの墓参りのために上ってくる。濡れたような長い黒髪と白い肌。喪服姿だが、相変わらず匂い立つような美しさだ。

 同行したのは、ゲルマー共和国連邦大統領のクラウス、同国の大元帥リクソン、マケドニー州総督のミシェル、その参謀アラン、エリトニー州内外務大臣クレマンのほか、イワン、ジョナタン、ステファン、エタン、そしてカンネイとベラだった。


 よく見ると、5歳くらいの男の子が一人、セシルのスカートに掴まって、「るーるるー」と、習ったばかりの歌を歌っている。小さな子どもなので、大人の法事は退屈なのだろう。

 そのうち、目の前を白い蝶々がはためいて横切り、男の子は顔を上げて、「らーららー、らんらん」と歌いながら、フラフラ追いかけて行こうとする。


 すぐに、セシルが、美しい眉を寄せ、「もう、アロイス。なにやってるの? 今日はアロイスおじさんの大事な命日なのよ。いい子にしてなさい」と指を立ててたしなめ、アロイスと呼ばれた金髪の少年は、「ちぇっ。はーい」と言いながら、またセシルのスカートに掴まり、同行の皆がクスクス笑う。

 セシルは、苦笑いしながら、「アロイスおじさんはね、あなたと同じ5つの時には、もうクラウス先生と政治談議をしてたわよ。まったく誰に似たのかしら?」と言って、ミシェルをチラと睨んだが、ミシェルはちょっと肩をすくめて、ニコっと返すだけだった。


******


 一行は霊園の区画の中を進み、そのうちセシルが「ここよ」と指差すと、特に華美でもない、周りと同じ大きさの墓石が、しかし国民の供えた無数の花束で埋まっていた。ステファンが花をかき分けて、墓石の銘が見えるようにすると、表面にはシンプルに「アロイス王 1424~1446 歿年22歳 ステラ王妃 1425~1446 歿年21歳 」と掘り込まれていた。


 セシルは、二人にお辞儀をして花束を置き、手を合わせて、

「アロイス、ステラ。天上で幸せにしてる? ……あのね、この7月にね、ゲルマーと東ナーロッパ3国の連合軍が、ホランドの首都を落として、ついにホランドが降伏したの。開戦から1年以上かかったけど、みんなで団結して二人のかたきは取ったわよ」と話しかけ、グスっとハンカチを鼻に当て、「それで、東ナーロッパは、全てゲルマーの傘下に入って、エリトニーもゲルマー共和国連邦の州になったんだよ。国民投票をやって、9割近い国民が『ゲルマーなら、共に未来へ進みたい』って賛成して、私が初代のエリトニー州総督に選ばれたの。ミシェルがマケドニー州の総督だよ」と言い、ミシェルをチラっと見上げて笑顔になる。


 セシルは、「私ね、アロイスみたいな天才じゃないから、上手くできるか不安で一杯だけど、クレマンさんがまだ頑張ってくれてるから、エリトニーのみんなが幸せになれるように、一生懸命やってみるね」と続けたあと、アロイスを抱き寄せ、

「ほら、これが長男のアロイスだよ。国民の皆が忘れないように、同じ名前を付けたんだ。アロイス、叔父さんにご挨拶なさい」と言うと、アロイスは、墓石にペコリと頭を下げ、「アロイス叔父さん。ステラ叔母さん。初めまして、僕がアロイスです! 今日はエリトニーの州歌を歌います!」と言うので、またみんながクスクス笑い、「うん、元気にご挨拶できたね。お歌はまた後でね」と、セシルがアロイスの頭を撫でてあげている。 

 セシルは、少しふくよかに膨らんだお腹をさすって、「今、二人目がお腹にいるの。もし女の子だったら、『ステラ』っていう名前にするからね。だから二人で赤ちゃんの無事を願っていてね」と話しかけ、周りを見渡して、「さあ、じゃあ、皆さんも」と促し、クラウス大統領、大元帥リクソン、クレマン大臣らが、それぞれ花を一本ずつ置きながら、一言ずつ挨拶した。


 クラウスは、「アロイス、僕だよ、クラウスだよ。ついに僕たちが力を合わせて東ナーロッパを統合したよ。これでエリトニーもひと安心だ。だけど、もう一度でいいからアロイスと会って、ナーロッパの将来を話し合いたかったなあ。……今は安らかに眠ってくれ」と話し、リクソンは、

「尊敬する、そして敬愛するアロイス様、リクソンです。私はずっとアロイス様を目標に努力してきました。ホランドと戦っているときも、『アロイス様ならどうするだろう?』と常に思っていました。東ナーロッパを統合して少し近づけたかも知れませんが、まだまだです。私も努力を続けますから、見ていて下さい」と頭を下げ、それぞれが思い思いに心の内を話した。


******


「さ、それじゃ、最後にアロイス、大役よ」 そうセシルが声をかけ、アロイスは「うん!」と元気に答えて墓前に出る。

 そして、静かに打ち寄せる波の音を伴奏に、英雄王ウォレムの時代に作られた国歌であり、今は州歌となった、「我らエリトニーの大地に捧ぐ」を歌い出す。その天使のようなボーイソプラノに、皆が手を胸に当ててじっと聞き入っている。


~ あおき海原 みどり山河さんが 皆で育むほまれの大地  凍てつく嵐にはがねを鍛え  冬を越えゆく不屈の心 ~ 


~ 愛する大地に、命捧げて散った君 永遠とわに忘れじ気高き誓い 胸に刻みて共につながん 天に昇りし君の御志みこころ ~

 

 歌詞の意味などまるで理解していない、しかし無垢で純真な歌声に、皆がアロイスやステラの優しい笑顔を、そしてマチアスの雄姿を思い浮かべ、セシルやクレマンがハンカチを手に涙をこらえ、イワンやステファン、そしてベラが、たまらずに「くうーっ」と声を立てて涙を流している。


~ 自由の調べを風に乗せ  愛しき子らへ未来あしたを贈らん  ああ母なるエリトニー 我らが故郷ふるさとエリトニー  久遠くおんに輝け光の地平……光の地平 ~


 アロイスがその美声で州歌を歌い終わると、全員からパチパチと大きな拍手が湧きあがり、セシルが「ううっ」と声を漏らし、思わず駆け寄って抱きしめる。アロイスは訳も分からず、「えへへ」と嬉しそうに満面の笑顔で応えていた。


 海から丘を昇って来る涼しい風が、潮の香りと秋の気配を運んでくる。


 それはまるで、アロイス王とステラ王妃が天から見守っているかのように、褒めてくれているかのように、アロイスの細い金髪を優しく撫でて行った。


 読者のsabamisonyサバミソニイさんが、本話で小アロイスが歌っている、国歌「我らエリトニーの大地に捧ぐ」の曲を作って下さいました。荘厳で心に残るメロディラインとなっております。アートもついていますので、是非ご覧ください。

https://suno.com/s/AXPjlevmgIQVz1vV

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