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第15章 電撃のエレーナ峠戦 第1話 残された時間

(アロイスの視点です)


 エリトニーに帰国して、二度目の年が明けた。

 エリトニー北部は2000m級の山脈で、冬は冷え込みが厳しい。ホランドもリガー海岸戦でだいぶ消耗したので、春までは身動きが取れないだろう。

 ベラと一緒にホランドに潜り込んでいるカンネイからの知らせによると、「ホランド軍は首都に精鋭を集結させて、リクソンが鍛え上げている」ということだった。次戦こそは必勝の気概で来るんだろうな。


 僕は体調のこともあるので、海沿いで比較的暖かい首都エリトニーに残り、軍の訓練に集中させて貰って、エレーナ峠の土木工事はアランの指揮に任せた。本当に彼が我が軍に入ってくれてよかった。今頃、谷間の出口の要塞が着々と構築されていることだろう。


 そして、次戦が終了した後を見越して、予めクレマン大臣をゲルマーに派遣して、大統領とクラウス先生(現在は防衛大臣・副大統領を兼務)と密かに面談して貰い、ついでに不足している黒火薬の買い付けをして貰った。


 面談の狙いは大きく分けて三つだ。

 一つめは、「エレーナ峠戦終了後、中立国ゲルマーで和平交渉の席を設定し、スロベニーとマケドニーも入れ、東ナーロッパの秩序構築を話し合いたい」というもので、二つめは、「その際、超大国ホランドから『戦況有利な方に助力して参戦してもよい』とプレッシャーをかけて欲しい」というものだ。

 三つめは、逆に、「万一、エリトニーがエレーナ峠で敗れることがあれば、ホランドはそのまま進軍して首都攻防戦に入るので、その際には援軍をお願いしたい」と要望することにした。

 

 クレマン大臣を迎えた大統領とクラウス先生は、「アロイスやセシル、マチアスやイワンは元気にしてますか? リガー海岸戦の鮮やかな勝利は、ゲルマーまで鳴り響いてきましたよ」と大歓迎してくれ、「エレーナ峠戦後の交渉テーブルの設定は任せて下さい」と快諾してくれた。

 しかし、大統領は、援軍については、「議会の承認が取れたら派遣するよ。よその国同士の戦いだから、基本、どちらかに味方するという筋ではないけれど、エリトニーは今、目覚ましく発展しているし、ゲルマー商会も絡んでるから、議会も『味方するメリットがある』と判断するんじゃないかな。ダメでも、要人救出の軍船は差し向けるから、また亡命してくればいい」とのことだった。

 いくら僕らと仲が良いと言っても、ゲルマーは中立国だから、援軍まで期待するのはぜいたくというものか。だけど、オブザーバーとして圧力をかけ、万一の時には救出してくれるなら、また再起を図れるし、ありがたい話だ。


 その面談のあと、クレマンは、ゲルマーの各商会を回り、良質の黒火薬を大量に買い付けてくれた。次戦を見据えると、ポルコの職人だけでは到底足りないんだ。足元を見られて、商船2隻分で20億ゴールドもしたけれど、これは仕方ない。お金はこういうときに使うためにあるんだしね。


******


 3月になり、吹く風も少しずつ春めいてきた頃、僕はすっかり造成工事が終わったエレーナ峠を訪れた。


「こちらです。どうぞ」 アランの案内で、要塞の扉を開けて谷間に入ると、左右両方が15mほど、ほぼ垂直に切り立った谷間が視界の果てまで続いていた。谷間の通路は、幅30m、1kmくらいあるな。

「うん。いいね。これなら、谷間から上には登れないね。狭い通路を大軍がひしめき合って通るしかない」 僕は、満足して通路を眺め渡しながら一往復し、壁を足で掘って強度を確認しながら、アランに、「トンネルも掘っておいてくれた?」と聞くと、「もちろんです。地盤が固いし、水も出たので、ずいぶん苦労しましたよ。ホランドに見つかって埋められないことを祈ります(笑)」とのことだった。

 

 次に、谷間の出口を塞ぐ関門となっている要塞の上に上って視察した。

「出口の扉は、鉄のかんぬきが一本か。これもいいね」

「だけど、これではちょっと弱くないですか? 大人数で衝角しょうかく(尖った先端に鉄を付け、揺らしながら扉を破壊する攻城兵器)で攻撃されたら、1時間くらいしかもたないんじゃないでしょうか?」

「はは、そこがいいんじゃないか。ホランド軍が『あと一押しで突破できる!』と血眼ちまなこになって殺到する、その瞬間が最大のチャンスさ。この要塞は防護壁じゃなくて、兵士を密集させるための道具だよ」 そう僕は笑いながら、アランを促して要塞から降りた。


 そして要塞の外には、ポルコの大工を総動員して新た作成した、5台の巨大ボウガンが並んでいた。首都エリトニーにある3台も含めて、合計8台。弓隊を訓練しているミシェルが指揮を執ることになっている。狙撃目的で使うのでなければ、必ずしも、お姉ちゃんである必要はないからね。


 そうそう、お姉ちゃんで思い出した。ミシェルとお姉ちゃんの交際も順調に進んでいるようだ。

 同じ弓隊だからということもあるが、いつも一緒に行動して、訓練の後も、お城の一室で共に過ごしている。……ということは? ……コホン、まあそういうことだ。おめでたいじゃないか(笑)。

 お休みの時には、二人で手を繋いで、エリトニーの街でデートをしているようだ。街の人たちも、ビックカップルの仲睦まじい様子を、暖かく見守っている。きっと戦争が終わったら結婚するつもりでいるのだろう。まだ戦いの最中だけど、こういう明るい話題があると嬉しくなるね。 


******


 4月に入り、僕とお姉ちゃんは、22歳の誕生日を迎えた。

 暖かくなって、僕の体調は小康状態となっているが、それでも病気の進行は止まらないようで、去年より食欲は衰え、トレーニングもできず、体重は48㎏になってしまった。家臣たちには、「激務で痩せてしまった。心配は要らないから」と笑って答えてはいるが、自分に残された時間が少ないことは、この痛む右のお腹から嫌というほど伝わってくる。

 

 そうしているうちに、ゲルマー商会の早船でカンネイからの手紙が届いた。

 それによると、「首都のホランド軍の訓練が5日間休みになって、いったん家族のもとに帰された。その後再び集合することになっているから、いよいよ進軍を開始するようだ。兵士は総勢2万人。うち騎兵が2000人。兵士はまだまだいるが、軍費と兵站が負担で、これ以上戦力を投入できないそうだ。なお、リクソンは懲罰人事で、今回は首都に残されるらしい。ラッキーだったな(笑)」とのことだった。これを読む限り、ホランドもいよいよ国力が衰えているようだ。

 それにしても、リクソンは、こんな時こそ活用すべき人材なのに、仕えた国が悪かったとしか言いようがない。


 続けて、カンネイは、「今回はマケドニーの援軍は出ないと思う。もともと水軍が主で陸戦は弱いしな。だから、ホランド軍が東に向かわず、真っすぐ南に進軍するなら、単体でエレーナ峠に来ると見ていいだろう。首都から峠まで250km、ふもとのエレーナ村から峠越えに3日はかかるから、おそらく最速10日くらいの進軍だ。俺も進軍の方向だけ確認して、すぐ移動する。お前もなるべく早くエリトニーを発て。また会おう!」とのことだった。

 相変わらずの凄腕スパイ。いやあ、カッコいいねー。


******


 僕は早速、首都エリトニーの全軍に指令を出し、精鋭7500人を選抜した。

 マチアス、ステラ、ジョナタン率いる装甲騎兵が1000人。イワン率いるロングボウ兼ヘラクレス軍団が1500人。お姉ちゃんとミシェル率いる弓隊を含む歩兵が5000人。これに、もともとエレーナ峠の守備をしていた15000人が加わるので、総勢2万人以上になる。だが、守備隊は練度が低いので、万一突破された時の守りに就いて貰うことにして、戦うのは今回も7500人とした。

 油断は禁物だが、多分、それで十分だろう。


 そして、その二日後、僕たちは広場に鈴なりになった市民の声援に見送られ、首都エリトニーを出発して、北へと向かった。

 

 僕に残された時間は短い。できればこれが最後の戦いにしたい。

 そのための準備は周到に進めてきたんだ。短時間で一気に勝負を決めるぞ。


 そう思いながら、僕は、遠ざかるエリトニーの街を振り返った。

 遠くで市民たちがいつまでも手を振ってい

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