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第13章  付録 語り部登場 歴史学者の見たリガー海岸上陸戦

ずいぶん長くなりましたが、これがエリトニーの独立戦争初戦、リガー海岸上陸戦の顛末です。

 ホランド・マケドニー連合軍の半分にも満たないエリトニー軍が、圧倒的な勝利を収めたこの局地戦は、ナーロッパ中に驚きをもって受け止められ、精鋭を指揮した21歳の若き英雄「小悪魔アロイス」の名は、瞬く間にナーロッパ全土に鳴り響くことになりました。


 後世、多くの歴史学者の研究対象となり、「リガーの奇跡」「海辺の惨劇」として語り継がれることになるこの戦いは、単に小国エリトニーが大国ホランドの侵攻を食い止めたという評価にとどまりませんでした。それは、数と伝統に頼った中世的な軍隊が、高度な技術と戦術そして強固な絆で結ばれた近代的軍隊によって粉砕されたという、歴史的な転換点であったとされています。


 アロイス王が指揮したこの戦いが、いかにしてナーロッパの軍事常識を覆したのか、それを後世の歴史学者がどう分析したのか、以下、お話していきましょう。


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 まずこの戦闘の大きな特徴は、大きな兵力差(ホランド・マケドニー連合軍合計20,000人vsエリトニー軍7,000人)を前提として、コンタクトを極力避けた、徹底的な非接触戦が展開された点にあります。

 もともと広い国土を持つ内陸国のホランドは、伝統的に、騎兵の突撃と歩兵の密集陣形による正面衝突を基本とする、オーソドックスな戦法を採用してきました。対するエリトニーのアロイス王は、相手の得意とする正面からの激突を避け、丘や灌木といった死角を利用して、有利な態勢に巧みに誘導し、空中戦で迎撃したのです。


 中でも特に革命的であったのは、ブラックローズによる組織的な狙撃でした。

 従来、騎士道精神を重んじるナーロッパの戦場においては、指揮官は名乗りを上げて一騎打ちをしたり、そののち堂々と全軍が激突するのが常であり、それがクラシカルな戦い方でした。

 しかし、エリトニー軍は、天才的な狙撃能力を有するセシル砲(巨大ボウガン)を活用し、敵が全く想定できない遠方から、一方的に指揮官クラスだけをピンポイントで排除していきました。これは、当時、騎士道への冒涜ぼうとくと見る向きもあったようですが、軍事合理性の観点からは極めて正鵠せいこくを射ています。指揮系統を破壊された大軍は、組織的運用ができず、単なる烏合の衆と化すからです。

 その意味で、アロイス王は、戦争を「双方の信頼に基づいた一大イベント」から「手段を問わない敵戦力の効率的殲滅」という、いわば冷徹な作業と捉え、変容させたわけです。


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 また、本戦闘におけるエリトニー軍の勝因の半分は、その卓越した技術力テクノロジーと、それに基づいて策定された戦術、そしてその両方に適合させる徹底的な鍛錬にもあるとされています。


 まず挙げられるのが、ロングボウの集中運用です。

 イワン率いるロングボウ部隊による「悪夢の雨」は、歩兵の密集陣形に対して、大きなダメージを与えました。特に、初日、エリトニーの騎兵隊と歩兵隊が、偽りの逃走を図り、ホランド歩兵が背中を見せたタイミングでの集中投下は、絶大な威力を発揮しました。

 さらに特筆すべきは、ロングボウ部隊がボディビルによる肉体改造を経ており、通常の4倍とされる40連射が可能だった点です。これは、もはや「人間機関銃」とも呼ぶべき火力の集中投下であり、ホランド歩兵隊を物理的に棄損するだけでなく、その戦意をもへし折ったと言えるでしょう。


 そして、言うまでもなく、今般初めて戦場に投入された巨大ボウガンも、初日と二日目で弾種が転換され、セシル砲の真価が最大限に発揮されました。

 初日は貫通力を重視していた矢が、二日目にジョナタンの重装甲に防がれるや、即座に衝撃を重視した鉄球弾へとスイッチしました。アロイスは、予め対策されることを想定して、まさに「次の矢」を準備していたわけです。

「貫けないなら、中身を破壊してしまえ」という発想の転換は、物理法則を熟知したアロイス王と名匠エタン一門の、経験と科学に基づくアイデアと推測されます。

 これにより、ホランド軍が講じた重装甲化という対策は、かえって機動力を殺す重いかせとなってしまい、セシルによるピンポイントでの狙撃の的になってしまったわけです。


 最後に、ヘラクレス軍団という、いわば人による重戦車の登場も見逃せません。

 最終局面に投入された巨斧と装甲合計100kgの装備をまとった重装歩兵団は、現代で言う戦車タンクの役割を果たしました。

 もともと、ロングボウ部隊は、どの国でも、それ専門に訓練され、利き腕ばかり使うことから、あたかも奇形のように体形がいびつに変化してしまい、異なる兵種には転用できませんでした。歩兵による乱戦のような、弓の使えない場面では、使いどころがなかったのです。そのため、ホランド軍は、エリトニーの戦力を、7000人ではなく、5500人と捉えていました。

 しかし、人的資源に乏しいエリトニーにおいては、アロイスのアイデアで、兵士の全身を均等に鍛え上げることで、ロングボウにおいては左右を替えながらの40連射を可能にし、そして後には重装歩兵にも転じ得るという、ユーティリティ性を持たせることに成功したのです。

 彼らは、その重さとパワーで、敵の攻撃を無効化しつつ、一方的に戦線を押し上げることができました。スタミナという弱点はあったものの、投入タイミングを、敵が疲弊しきった終盤クローザーに限定することで、その欠点を隠蔽し、かつ長所を最大化したこの用兵は、見事と言うほかありません。


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 戦場外での戦いにおいても、エリトニーはホランドを圧倒していました。

 カンネイらゲリラ部隊による敵船団への二度にわたる破壊工作は、敵の兵站を脅かすだけでなく、(何をやってくるか分からない)と、兵士の夜間の休息を奪い、疑心暗鬼を生ませる心理戦としても機能しました。

 これにより、ホランドは、リガー海岸以外どこにも行けず、短期間で勝負を決するために、全軍で上陸して雌雄を決するほかなくなったのです。まさにアロイスのたなごころで踊らされているように感じつつも、ゲルンハルトの報復を恐れて後に引けない状況に追い込まれたわけです。


 そしてこの戦いが、ここまでワンサイドゲームになった要因は、マケドニーのミシェル王子に対する調略にもありました。

 アロイス王は、敵将を武力で屈服させるのではなく、経済的・政治的利害の共有を説いて味方に引き入れたのです。マケドニーに対する、ホランドの圧政と搾取の実態を正確に見抜き、「どちらに付くことが国益か」を説くアロイスの姿は、司令官というより老練な外交官のようであったとも言えるでしょう。このミシェルの寝返りによって発生した前後の挟撃が、一気に戦力差を逆転し、ホランド軍崩壊のトリガーとなったことは論を待ちません。


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 最後に、両軍の指導者たちの資質も比較してみましょう。

 まず、ホランド軍の将軍や軍師たちは、中世的な前例踏襲と、保身のための面子に縛られていたと言えます。初日の戦略的敗北を「大将軍の暴走」として片付け、根本的な戦術見直しを怠って、二日目も漫然と正面攻撃を繰り返しました。唯一の慧眼の持ち主であったリクソンの進言も、封建的なヒエラルキーによって黙殺されてしまいました。


 対してアロイスは、目的のためには手段を選ばない冷徹さとあわせ、思考の柔軟性も有していました。

 彼は、味方の軍隊をあえておとりとして、敵の眼前にさらすことも厭わず、それによっていったん戦況が有利となれば、冷酷とも言える峻烈な打撃を与えていきます。他方で、戦いが終焉に向かえば、無駄な殺戮を避けるために降伏を呼び掛け、敵兵でも寛容に受け容れました。

 アロイスの用兵で特筆すべき点は、彼が徹底して個の特性と能力を信頼し、尊重している点にあるとも言えます。姉セシルの狙撃能力(と美貌w)、マチアスの武勇、イワンの怪力、カンネイの諜報とゲリラ能力。それぞれ多彩な才能を適材適所に配置することで、全体を一つのシステムとして有機的に機能させています。

 特に、カンネイなどは、もと海賊であるという、いわばいやしい出自ではありますが、アロイスは、その能力と人柄さえ評価できれば、誰であれ喜んで採用しています。これら柔軟な人事の判断が、貴族の世襲を中心として配置されるホランド軍との大きな違いでした。その意味で、高い能力を持ちながら、移民の子孫であるために大役に登用されないリクソンは、ホランドにとってまさに「宝の持ち腐れ」であったと言えるでしょう。


 つまるところ、エリトニー軍に人材が集まり、固い結束を誇るのは、民族独立の気概に燃えていることもありますが、やはりアロイスのキャラクターによるところが大きいのです。彼は、過去に例のない天才的頭脳を有するだけではなく、優しく寛容で、朗らかでユーモアがある。それが、必要となれば、悪魔のように冷徹で冷酷な判断も迷いなく下せる。そういった多面的な人間性に、関わる皆が魅了されてしまう、それが「英雄王ウォレムの再来」と称されるゆえんなのです。

 それは、彼が、王族でありながら、愛する人々の犠牲のもと、幼少時にゲルマーに亡命し、経済的にも苦労しながら、沢山の人々に支えられて成長したという、その生い立ちによって培われたものなのでしょう。

 

****** 


 リガー海岸上陸戦における死傷者比率(ホランド側8000名以上に対し、エリトニー側約400名)は、戦史上でもまれに見る大差ですが、これは過去に存在しなかった戦術と技術の格差がもたらした、必然の結果であるとも言えます。

 この戦いは、ナーロッパにおいて騎士の武勇や兵の数だけで勝敗が決する時代が終わり告げ、今後は、情報や兵站、科学技術、そして他国との政治経済的連携を複合した近代戦に移行していく、その転換点になったと評価してよいでしょう。


 アロイスという稀代の英雄の登場は、ナーロッパ中に驚きを持って迎えられました。しかし、それは斜陽の大国ホランドにとっての終わりの始まりであり、同時にナーロッパ全土に吹き荒れる革命の嵐の予兆でもありました。


 この戦いのあと、ホランドは、膨大な戦費の消費、死傷者への補償や年金と言った、負の遺産に苦しむことになり、しばらくは次の戦いに臨むことができませんでした。

 その間も、アロイスは粘り強く講和の交渉に乗り出し、また着々とエリトニーの国内産業を発展させていくことになります。


 ですが、だいぶ長くお話しましたので、そのお話はまた明日以降に致しましょう。


 それではまた。


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