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第13章 第6話 裏切りも戦の華か? (動画&ファンソングあり)

最強騎兵ジョナタンが、マチアスの老獪な作戦にはまって生け捕られ、再びホランド軍の士気は地に落ちることとなった。

 しかし、ジョナタンの蛮勇も全く意味がなかったわけではない。セシル砲も全能ではなく、最厚の装甲には通用しないと分かったのは収穫だった。それが、ホランド騎兵たちの気持ちを、(今日は、思い切って前線で戦える!)と高揚させることになった。


 そこに、ホランド軍の闘志をあおるように、突撃のドラが鳴り響き、それに「オーっ!」と呼応して、右翼と中段の重装騎兵1000人強が、一斉にエリトニー軍に向かって出撃し、それを歩兵の大軍が追従していく。

 対するエリトニーの1000人の騎士団は、全員が馬から降り、重装歩兵として出撃し、4000人強の歩兵団と共に長槍をびっしりと揃えて迎撃する。


 ホランドの騎兵隊が、まさに剣山のように揃った槍衾やりぶすまに高速で激突せんとしたとき、5500人のエリトニー軍が一斉に「ウオオーっ!」と地を揺るがす威嚇の声を発し、それに恐れをなしたホランドの軍馬が急激にストップして、いなないて立ち上がる。普段、ホランドでは、ここまで殺気をはらんだ訓練をしていないため、軍馬でも本能的に怯んでしまう。


 そのため、両軍はやや距離を取りながら、馬上のホランド騎兵と地上のエリトニー歩兵が、長槍でつつき合う小競り合いとなり、展開がやや膠着した。

 エリトニー陣から見ると、昨日に引続き、戦場にホランドの指揮官がぽっかりと的となって浮かび上がったが、ボウガンが通じないことが分かっているので、ホランドの騎兵は、懸念無くエリトニーの歩兵を切り崩しにかかる。


 このままだと、じきに連合軍の1万人の歩兵団が合流して、エリトニー全軍を両側から包み込んでしまう。そうなると殲滅戦だ。


*******


 そこに、丘の上から戦場を眺めていたアロイスが、ボウガン上で待機する美女狙撃手(スナイパー)に向かって、(お姉ちゃん、今だよ)と、会心の笑みとともに、赤い旗を振ってきた。


 それを視界の隅に捉えたセシルは、「まったくアロイス。あんたってほんとに悪魔みたいな男ね。敵じゃなくてよかったわ……」と呟き、片目をつぶって照準を覗き込んだ。狙うのは、真正面200mの距離で戦っている、今日の指揮官と思しき、赤い羽根を兜につけた騎士だ。

 セシルは、照準の山と谷を重ねながら、「私もさすがにこれは怖いけどね。悪く思わないでよ。……エル・ディナス(全て神の心の内)!」と祈りを捧げ、静かにトリガーを引くと、先程と異なる「ヒュルルー!」という風切り音を放ちながら、重そうな鋼鉄の矢が、わずかに山なりになって高速で飛行していった。


 その先にいたのは、昨夜の会議で嫌々総指揮官に任命されたベテラン将軍で、風切り音には気付かず、夢中で眼下の歩兵を槍で突いていた。そこに、放たれた矢が「ガギンっ!」という重い衝突音を立てて頭に命中し、その瞬間、兜が大きく凹んで中の頭蓋が破壊され、首もあらぬ方向にひしゃげ、指揮官は声もなく宙に放り出されて、そのままドサリと落馬した。ああ哀れ、即死したことは明白で、もはやエリトニーの雑兵も群がったりせず、次の騎兵に襲い掛かっている。

 

 指揮官の隣で戦っていたホランドの副将軍は、それを見て「……!」と戦慄するが、突き止める間もなく、次の瞬間、胸に「ドゴっ!」っと矢が激突した。分厚い装甲は無事だったが、内部は肋骨ごと肺を潰され、副将軍は、「ぐはあーっ!」と断末魔の声をあげて、口から血を吐きながら落馬した。


(これは……、一体何が起きているのか?) 近くの下士官が、副将軍を直撃した矢を確認すると、それはジョナタンが受け止めたものと全く異なる、先端に5㎝ほどの鉄球を取り付けた鋼鉄の矢だった。

 下士官は、すぐに「アロイスに騙された! 我らは、むざむざ標的になりに出てきたのか!」と気付いたが、次の瞬間、「ズガンっ!」と腰に鉄球が命中し、背骨が「だるま落とし」のように横滑りし、内臓にも深刻なダメージを負って、「グエーっ!」と声を発して、上司二人の間に落馬した。ワっと雑兵が集まって、装甲の隙間に「ザクっ」っと剣を差し込んでいる。


******


(貫通できないのであれば、衝撃で倒せばいい) それがアロイスの考えであった。

 5㎝の鉄球を付けた鋼鉄の矢は約1kg。それが時速250kmで「バカーンっ!」と衝突した衝撃力は、約700㎏。実に大男7人分の衝撃が一点に集中する。たとえ分厚い装甲は耐えられても、中の柔らかい人間は到底耐えられるものではない。よくて脳震盪、悪ければ骨折や内臓破裂を発症する、まさに悪魔の編み出した戦法。


 矢が重くて飛距離が出ない上、先端が球なので空気抵抗で曲がるのが難だが、敵が近づいてくれさえすれば問題は解決する。それに、分厚い装甲を纏ったホランドの騎兵たちは、戦ううちに、どんどん体力を消耗し、動きが緩慢になっていく。

 馬上に突き出した動かない的など、セシルにとっては、目の前の物に手を伸ばすように容易で、実際、次々と副将軍クラスを葬っていった。


 ホランドの7000人近い歩兵隊が追い付いた頃には、既に指揮系統は完全に崩壊し、大軍を操る者がいなくなってしまった。個々の判断で目の前の敵に向かうだけの烏合の衆では、極限まで鍛え上げられ、かつ戦術が徹底されているエリトニーの敵ではない。


******

 

 その様子を、海上の旗艦から、ホランドの軍師団が望遠鏡で見守っている。

 リクソンは、舌打ちしながら、「くそっ! また指揮官がバタバタ倒れてる……。アロイスの策にかかったな。歩兵隊、早く両翼から包み込んじまえ!」と悪態をつき、望遠鏡で左翼のマケドニー軍を見ると、歩兵の進みがホランドより目に見えて遅かった。


 リクソンは、「軍師団長……」と、主席軍師に声をかけ、「マケドニーの進軍がやけに遅いですね。どうしたのでしょうか?」と聞くと、「ああ、そうだな。マケドニーは水軍が中心だから、陸戦の動きは未熟なのかもしれないな。まあ追いつけば形勢もひっくり返るだろう。何しろ倍もいるんだから」と、のんびりした答えが返ってきて、リクソンは「チっ!」と、心中しんちゅうで舌打ちをした。

 

 しかし、マケドニーの進軍は、なお遅々として進まず、それどころか、微妙に進路を変えて、先行するホランドの歩兵隊の後ろに潜り込んで行くようにも見える。


「!」 そこで、リクソンは直感した。

「団長。マケドニーが裏切りました! できるだけ速やかに全軍撤退の合図を! 挟撃されて壊滅しますよ!」と叫ぶが、団長は、「確かに妙な動きだが……まだ攻撃はしていないぞ。それに戦わずに撤退などしたら、我々の責任問題になりかねないが……」と躊躇している。


 その煮え切らない態度に業を煮やしたリクソンが、ついに激高し、団長の肩を掴んでガクガクと揺らして、

「うるっせーっ、このボンクラがー! 今すぐやれー! やんなきゃ、俺もお前もゲルンハルトに首を飛ばされるんだぞー!! わかってんのかー!!」と叫び、その権幕に押されておののいた団長が手旗で撤退の合図を出そうとすると、リクソンは、

「それと10人でいい! 騎兵を決死隊にして右の丘へ! アロイスを追い散らせ! そのあと投降してもいいから、小悪魔を戦場から排除しろ!」と叫んだ。


 しかし、その時、軍師団の目の前で、およそリクソンが想定した最悪の最終章が、静かに幕を開けたのだった。

 

******

 

 ホランド歩兵約7000人は、苦戦する同胞を助けようと、指揮する者がいない中でも、全力でエリトニーの精鋭に立ち向かっていた。

 しかし、ようやく援軍に駆け付けたと思われたマケドニー軍が、その背後にピッタリと張り付いたとき、大将軍ミシェルが、全軍に「我らの真の敵はホランドぞ! 今こそ我らの積年の恨みを晴らせーっ!」と激を飛ばし、「オーっ!」と4000本の矢が、中空に向けて一斉に放たれた。


 それを見ていたリクソンが、瞬時に敗北を確信し、「ああ……」と頭を抱えて嘆息し、「小悪魔が……俺の策の逆をやりやがった……」と無念と絶望の声を発する。


 ホランド歩兵隊は、エリトニーのロングボウを跳ね返すため、大きな盾を前方に掲げていたが、その無防備にさらした柔らかな背中に、突如、幾千もの鋭利な刃物が降り注いできた。

 その刹那、大軍の中で、数えきれない程の歩兵が倒れ込み、全軍がつまずいて、さざ波が走るように全体に混乱が広がっていった。「なぜだ! マケドニー!」「この裏切り者!」という悲鳴と共に、前進は急激にストップし、歩兵隊は機能不全に陥ったが、その間も矢は止まることなく、無慈悲に降り注いでくる。

 幸いにも無傷で済んだ歩兵は、当然、これ以上の被害を防ごうと、盾を後ろに向けて防御するが、それがアロイスの狙い目。気づかぬ間に、エリトニーの陣内から、1500本のロングボウが、空を覆い尽くす黒い雨となって降り注いできた。


 命を守るために盾をかざすという歩兵の防御本能が、結果として、エリトニーに背中を見せるという、致命的な隙を作りだしてしまった。

 ホランドの歩兵は前後から容赦なく矢の雨を浴びせかけれ、もはや防御の方途を完全に失くしてしまった。遥か遠方から降り注ぐ殺人兵器になすすべなく、次々と兵士が倒れ、息絶えていく。まさに阿鼻叫喚の世界だ。


 と、そこに海上の軍師団から、(全軍即時退去!)のドラが鳴り響き、それと合わせて右翼に残っているわずかな騎兵に、(右手の小高い丘を急襲するように!)と合図の旗が打ち振られた。

 このドラの音が、死地に陥っていた歩兵にとって救いの福音となり、躊躇なく盾と剣を捨て、地獄の戦場を放棄して、今まさに上陸船が押し寄せんとする海岸に殺到する。


 マケドニー軍も、昨日まで連合軍であったホランドに対しては、さすがに激しい追撃まではしかねたのか、左右を走り抜ける歩兵を見逃してやっている。


******


 小高い丘の上で、5人の兵士と共に戦場を見下ろしていたアロイスは、勇気を奮ってこちらに向かってくる30騎ばかりの騎兵を見て、「おっと、ついにバレちゃったか。それじゃ、これが最後の指令にしよう。さあイワン、頼んだよ!」と叫び、ロングボウ部隊のイワン隊長に向かって旗を振った。

 そして、「さあ、あとはもう因果の流れだね。みんなに任せて、おいとますることにしよう!」と、兵士らに声をかけ、丘の下に繋いであった馬に飛び乗った。


 その時、アロイスの指令に呼応し、「最後の仕上げ」とばかりに、戦場にズシンズシンと重い足音を響かせて出撃したのは、ロングボウ部隊が変じた黒い甲冑の重装歩兵隊だった。

 全員が超重量の巨斧を手にした戦場のクローザー、後に「ヘラクレス軍団」の異名で恐れられることになる、1500名の筋肉軍団であった。


 大男たちは、全く恐れることなく、眼前の重装騎兵に向かい、整然と並んで歩を進めて行く。

 読者のsabamisonyサバミソニイさんが、リガー海岸戦のセシルの動画&ファンソングを作って下さいました。海岸の戦場の緊張感と命を奪っていく少し物悲しい雰囲気が歌詞とメロディから伝わってきます。また動画が素晴らしい! とても美しく、凛々しい、黒薔薇セシル! 巨大ボウガンの矢に貫かれてもんどり打つホランド兵もとてもリアルです。

 是非ご覧になって下さい。


 コチラ https://suno.com/s/QU9XHbtYlg8iF8WG



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