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第13章 第3話 衰亡のマケドニー ミシェル王子の葛藤

~ このエピソードの登場人物 ~


・ミシェル

→ プロローグの語り手。マケドニーの第4王子で、水軍の大将軍。王子の中で唯一王たるに相応しい資質を持つが、ホランドの搾取で経済危機にある自国を背負うのを嫌い、軍人になった。同盟国でありながらホランドには良い感情を持っていない一方で、エリトニーの用兵の見事さとセシルの美貌に魅了され、親近感を抱く。独立戦争初戦である、リガー海岸上陸戦の二日目の鍵を握る人物。美男子。185㎝ 31歳


・アラン

→ ミシェルの参謀。マケドニーの水軍副将軍。幼いころからミシェルと兄弟のように育つ。 175㎝ 31歳


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(以下、本文。ミシェルの視点です)


 俺と参謀のアランは、今、ホランド王国の旗艦に呼ばれている。

 初日の記録的な惨敗を受けて、明日の作戦会議が開かれているんだ。

 ホランドの指揮官だった大将軍は、今日、鉄の矢に射抜かれて戦死したうえ、他にも将軍が一人、副将軍も二人命を落としたので、残った年かさの将軍が全体を統括することになった。


 会議の冒頭で、ホランドの軍師団より、「今日の敗北は、冷静さを失い、陣形を崩して暴走した、大将軍の浅慮せんりょが原因である」と報告があり、ていよく死人に責任が押しつけられた後、明日の作戦について討議された。

 

 突如大軍を統括することになったベテラン将軍は、身の丈に合わない責任の重さに終始イライラし、議論はなかなかまとまらず、延々と夜中まで続いた。が、結局、「エリトニーは、ロングボウ部隊を除けば5000人と少し。こちらはマケドニーを加えて12000人。2倍以上の戦力があるのだから、多少の損耗は承知で、正面から当たって押し切ろう」ということになった。また、「エリトニーには、ロングボウと強力な新兵器があるようだから、歩兵の盾は最大のもの、騎兵の甲冑は一番厚いものを着用すること」との通達もあった。重くて動きが制約されるし、体力の消耗も早いが、飛び道具で狙い撃ちされるよりはいい。

 

 これに対しては、リクソンという末席の若い軍師が、「確かに、兵力差がこれだけあるのですから、全軍で正面から当たるのは理にかなっています。ですが、今日見ていた限りでは、右手の丘の上から誰か、おそらくアロイス王だと思いますが、戦場を俯瞰ふかんしながら軍を操っていました。噂どおり、その用兵の巧みさは悪魔のようでした。彼がいる限り、エリトニー軍は最強であり続けると思います。なので、12000人のうち、1000人でいいですから、丘を急襲したいのです。アロイスを殺せないまでも、丘から追い出せたら、用兵が難しくなりますから、モロに戦力差が出てくるはずです」との意見を述べた。軍師と将軍たちは腕を組み、目をつぶって聞いている。

 リクソンは、続けて、「また、出陣するマケドニー軍4000人は、左翼に配置し、正面に当たるふりをして、リガーの街と港に向かって進軍して欲しい。そちらは守りが手薄なはずですから、必ずエリトニー軍は追ってきます。そこをホランドの本体と挟撃したいんです」と、海岸の配置図を棒で指しながら、熱っぽく語りかけた。


 なるほど、それはいい。このリクソンという軍師はキレるな。ホランド軍で唯一、今日、アロイスが丘の上にいたことを見抜いている。世襲が基本の凡庸なホランド軍人の中で、一人だけ光っている印象だ。東洋系の顔立ちだから、旧来の貴族じゃない。能力だけでここまで出世してきたのだろう。

 ところが、そのリクソンの意見は、主席の軍師から、薄ら笑いとともに、「いやあ、リクソン君も若いね。この兵力差なんだから、それこそフラフラしないで正面に当たればいいんだよ。乱戦になってしまえば、用兵もへったくれもないだろう? だから兵を分けて精力分散するようなことはしないで、一気につぶしてしまおう。そのあとリガーに進軍したっていいんだから」と冷たくあしらわれ、却下されてしまった。

 リクソンは、苦虫を嚙み潰したような表情を見せ、無言で着座したが、このやり取りが、そのまま彼のホランド軍での立ち位置を象徴しているように思えた。要は、優秀すぎて、上から煙たがられているんだろう。


******


 作戦会議が終了し、俺とアランは、マケドニーの旗艦に戻るため、手漕ぎボートに乗り込んだ。


「アラン。明日は4000人の方陣を3つ作って上陸。マケドニーは一番左の担当だな」

「そうですね。大きな方陣3つなら、正面から当たっても両翼から包み込めますし、展開によっては一つが離脱して単独で行動したり、いろいろ自由が利くんじゃないですか。決して間違っちゃいませんよ」

「俺もそう思う。ただ、エリトニー軍は個々の兵士が強いうえに、アロイスの用兵も見事だからなあ。最後は人数で押し切るとしても、こちらの損害も大きそうだぜ」 そう話して、二人で嘆息したとき、

「あっ! ミシェル様。あれ!」とアランが驚いて指差した先を見ると、何だあれ? ホランドの軍船のうち4隻から火の手があがっていた。


 軍船は、やがて大きな炎に包まれ、海面は赤く照らされて昼間のように明るくなり、兵士たちが次々と海に飛び込んで脱出しているのが見える。

 そのうちに、武器庫の火薬に引火したのか、一番大きな船の横腹から、「スドーン!」と火柱が吹き出し、大勢の兵士を載せたまま海面に倒立して、やがて静かに海中に没していった。

 

「……なんてこった……アラン。これは?」

「おそらく……先ほど回収された怪我人に交じって、ゲリラ部隊がもぐりこんだのでしょう」

「そうだな、きっとそうなんだろう……。いや、しかし、エリトニーは、人数こそ少ないが、優秀な人材が揃っているんだな。まったく容赦ない。恐ろしい連中だ」

「本当ですね。皆大胆で、恐れを知らない。……ああ、ホランドが賊を追って船を出しましたよ」

「はは、間に合うもんか。もうとっくに泳いで帰ってるさ。まあ、でも、マケドニーが助かってよかったよ」


 俺とアランは、そう言い合って、エリトニーの深謀遠慮に舌を巻いた。


 が、しかし、今夜の驚きは、これだけでは終わらなかったんだ。


******


 俺たちが、マケドニーの旗艦に近づくにつれ、舷側に見慣れない中型のボートが横付けされているのが見えてきた。

「誰だ?」と不審に思って、船上に眼をやると、そこには、金髪の小男、槍を構えたツインタワーのような男女、そして、青いドレスをまとった、眼の覚めるような美女が微笑んで立っていた。昼間の連中だ。なぜ? どうして?


 軍服の小男は、まるで少女のような美しい顔に涼やかな笑みをたたえ、「やあ、お待ちしていました。初めまして、ミシェル王子様。私はエリトニー国王のアロイスです」と声を掛け、後ろの美女も、「私は姉のセシルです。……ふふ、昼間は驚かせてごめんなさい」と、少し頬を上気させ、あでやかに微笑みかけてきた。雪のように真っ白な肌、濡れたような漆黒の長い髪。細い手足に豊かな胸。ひと目見ただけで、吸い込まれそうな美しさだ。


「ちょ、ちょっと待って下さい。訳が分からず、戸惑うばかりですが、アロイス王様は、どうして敵である私に会いに来られたのでしょうか?」 俺が、そう当然の疑問を投げかけると、アロイス王は、ちょっと意外そうに眼を見開き、

「敵? 敵ではないですよ(笑)。むしろ味方です。私は前々からあなたを高く買っていたんです。そして、今、マケドニーとあなたが、苦境に喘いでいることも知っています。だから、その才能を惜しみ、明日矛ほこを交える前にお話をしたく、こうして参上したんです」と、ニコっと返してきた。


「しかし、私があなたを捕まえてホランドに突き出す心配はしなかったのですか?」

「まさか。あなたはそんな事はしないと確信していましたよ。私は、今のあなたのお心をよく知っていますから。それに捕まえようとしても、このツートップがいますからね。そちらも被害甚大になることでしょう」 そうアロイス王は、サラリと言ってきた。なんだ? この自信と信頼は、一体どこから?


 俺は、混乱して、瞬時に判断はできず、アランを見て表情を伺った。

 てっきり、アランは、「とんでもない。捕らえるか、追い返しましょう」と言うと思ったら、意外なことに俺の顔を見て、一つ「ウン」と頷いて、同意のサインを送って来た。そうなのか。それでいいのか?


 俺は、アロイス王とセシル王女を見つめたまま、一つ当惑のため息をつき、そして肚をくくって、

「……分かりました。お話だけはお伺いしましょう。ここでは兵士に聞かれてよくありませんから、どうぞ、おあがりください」と一言かけ、舷側に下ろされた縄梯子を手で指した。


 どうも、この戦いが始まってから、エリトニーには驚かされてばかりだ。


 でも、まだまだ続きがありそうだな。 

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