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第13章 第2話 まさに小悪魔 天才司令官アロイスの戦略が炸裂! (挿絵あり)

マチアスとステラのツートップを先頭に、重装騎兵が4列縦隊を組み、真っすぐに方陣の頂点めがけて突っ込んでいく。ホランド軍はそれを見て、すぐに長槍歩兵を正面に集め、ハリネズミのような槍衾やりぶすまを作って迎撃する。

 エリトニーの騎兵1000人vsホランド軍1万人。普通に考えれば多少のダメージを与えるくらいで、すぐ両サイドから包み込まれてアウトだろう。


 もちろんそんなバカなことはさせず、「さあ、激突だ!」というタイミングで、僕が左手の黄色い旗を振ると、左折のドラが鳴り響き、騎兵隊は瞬時に反応して、槍衾の鼻先をかすめ、左方へと回避した。それはまるで、細長い巨大な蛇が身をくねらせているかのように見えた。


 1000人の騎兵隊はトップスピードを保ったまま、方陣の左手を疾駆し、そこで僕が赤い旗を「ビッ!」と右に突き出すと、巨大な蛇が「ぐっ」と鎌首をもたげて右方に急転回し、1万の方陣の左角に突っ込んでいった。

 ホランドの長槍部隊は正面に集めてしまったから、左角は手薄だ。しかもまだ上陸途中で、しばらくは包み込まれる心配もない。よし、うまくいったぞ。恐れずに突っ込め!


 マチアスとステラは、人馬とも装甲をまとった1tの重量で、時速40kmのハイスピードのまま、短槍しか持たない歩兵隊に激突した。これでは生身の人間はひとたまりもない。

 その瞬間、方陣の角がグシャっと凹み、綺麗だった陣形がゆがんで、兵士に動揺が広がった。そこに後続の重装騎兵も次々と加わり、馬上から長槍で歩兵たちをほふっていく。ステラは血走った赤鬼の形相で歩兵の心臓を突き、マチアスは驚異的な膂力りょりょくで、突き刺した歩兵を空中に放り投げて外している。

 その鬼神のような強さに、ホランド兵が怯み、方陣の穴がどんどん大きくなったところに、追いついてきた2000人の歩兵が切り込んで、次々と敵兵を削っていく。序盤は完全に圧倒している。

 

******


 しかし……、所詮は多勢に無勢。兵力差が3倍以上もあっては、削り切れるはずがない。

 次第に、エリトニーの圧力は弱まり、ホランドも騎兵が集まってきて陣形を整え、穴を開けたエリトニー軍を包みにかかる。完全に包まれてしまうと、殲滅せんめつされてしまうので、タイミングを見計らって包囲から離脱したい。


 でも、ここはまだ我慢だ。ホランドに「行ける!」と思わせないと。

 だから僕は、少し危険な態勢に陥っても、我が精鋭の力を信じて待った。そして、(もう完全に包まれる、歩兵の被害が甚大になる)というタイミングで、黄色旗を振り、それに合わせて退避のドラが鳴り響いた。


 瞬間、エリトニーの騎兵隊が、申し合わせたように、長槍を、「バッ!」と穴の外に向かって突き出し、左方に広がりながら血路を開き、そこに出来た細い退路を歩兵が全力で駆け抜ける。訓練通りの動きが身体に沁みついている。

 歩兵が退避しきったのちに、騎兵が後ろを牽制しながら一緒に後退するが、なにしろ先に歩兵がいるのでスピードが出ない。まごついているように見える。


 さあ、ホランドよ。惜しいところで獲物を逃したぞ。だけど相手は背中を見せてる。今が追撃のチャンスだ。さあ、食いつけ!


 僕がじりじりしながら上から見ていると、そのうちに、将軍なのだろうか、ホランド軍の先頭に立っている立派な兜の騎兵が後ろを振り返り、右腕を大きく振って、追撃の激を飛ばしたのが見えた。よし、いいぞ!

 先にホランドの騎兵が追いかけ、次いで歩兵がそれを追いかける。これまで綺麗な方陣だったホランド軍が、次第に間延びした横陣おうじん(敵を包みやすいが、薄いので守りに弱い)になって、エリトニーを追尾していく。

 

 そして300mほど追撃したところで、海岸奥に防砂用の灌木かんぼくが並んだエリアに入って来た。だけどまだまだ。もっと誘導するんだ!

 そうして、間延びした歩兵隊が僕の正面を通り過ぎ、先頭付近が背中を見せたところで、僕は灌木の陰に向かって、左手の白い旗を大きく振った。


 イワン! 今だ! 悪夢の雨を降らせろ!!


 ******


 その瞬間、灌木の陰から、1500羽の鳥の群れが一斉に青空に放たれた。真っすぐ30度の角度で昇っていく。やがて少し速度が衰えたと思ったら、頂点から綺麗な放物線を描き、まるで水流のように、ザーッと歩兵隊の先頭に吸い込まれていく。

 その飛距離350m。ホランド軍が全く想定できない死角から放たれたロングボウが、無防備な歩兵の背中に降り注いだとたん、いきなり先頭の歩兵が大勢倒れ込んだ。

 もちろん全軍は全力で走っているから、すぐ止まれるはずもなく、ドミノ倒しのように、混乱が波になって全軍に広がり、歩兵隊は恐慌状態に陥った。

 

 さあ、ここだ。ホランドの兵士に恨みはないが、削れるだけ削らせて貰うよ。

 通常、ロングボウは10連射が限界だが、我がエリトニーのロングボウ部隊はボディビルで全身を鍛え上げているから、左右を替えながら驚異の40連射が可能だ。各人7~8秒おきに放てるので、勢いが全く鈍らず、空を覆うような密度のまま、重たい矢の雨が歩兵の頭上に降り注ぐ。

 僕は、ホランド軍の被害状況を見ながら旗で合図を出して、横陣の上を少しずつ移動させ、くまなく悪夢の雨を降らせていく。

 そして、その間に、さらに左手で合図を出し、灌木の陰に隠れていた2000人の歩兵部隊を出撃させた。


******


 このロングボウの雨が止んだときに、眼前に広がっていたのは、完全に機能停止に陥ったホランド歩兵隊の姿だった。おそらく3000人程度は戦闘不能になっただろう。

 そして、そこに新たな2000人の歩兵が突っ込み、戦場を飛び回って、すでに戦意を喪失しつつある敵兵に次々と止めを刺した。既に戦いは一方的になりつつある。


 しかし、そこでホランドの騎兵隊が戻ってきた。仲間を救おうと、エリトニーの歩兵を上から槍で突き、少しでも形勢を挽回しようと、幹部将校が激を飛ばしている。

 ふふふ、いいね。そうだ、これを待ってたんだ。両軍入り乱れた歩兵の群れの中に、馬に乗った敵の大物将校が、ぽっかりと的になって浮かびあがった。


 さあ、お姉ちゃん、今だよ! 史上初の新兵器のお披露目だ!


 僕が左手の青い旗を振ると、灌木の陰に設置した、木の枝で偽装した幅5mの巨大ボウガンが、「ズドンっ!」と鳴り、200m先で槍を振るう馬上の将校に向かって一直線に放たれた。地を這うような重い鉄の矢は、やがて「ガシャン!」と大きな衝撃音を立てて命中し、将校の鎧を易々《やすやす》と貫通してしまった。将校は串刺しになったまま、「ガハっ!」っと胸から血を噴出して落馬し、そこに雑兵が群がって、鎧の隙間に剣を「サクっ」と差し込んでいる。今のは、さっきの追撃戦で先頭に立っていた将軍だな。お姉ちゃん、大将を討ち取ったぞ。大殊勲だ!


 巨大ボウガンは3台あるので、次々とお姉ちゃんが乗り換えて、10秒に一本発射している。この距離ならば、まず外すことはない。ホランドの将校は、どこから狙っているのか、なぜ分厚い装甲が無力なのか、訳が分からないうちに次々と命を落とし、わずか5分の間に20人近い幹部将校が命を落とした。

 まさに人間狙撃兵器「セシル砲」。そしてそれを可能にする、ステファン率いる「ブラックローズ」のチームワーク。


 これでもうホランドの指揮系統は完全に崩壊した。もはや、個々の判断で目の前の敵と戦うだけになっている。もともと同胞との戦いで戦意の上がらないホランド軍だ、独立の気概に燃えるエリトニーとは、兵の練度も士気も全く比較にならない。

 さらに、そこにダメを押すように、退避を装っていたエリトニーの騎兵と歩兵が戻って、ホランドの残兵を突き崩しにかかった。まだ少しホランド軍の方が多いかも知れないが、どんどん波打ち際に追い詰め、高低差を利用して、無慈悲に敵兵を刈り取っていく。リガー海岸の波が朱に染まっていく。


 そうして、ホランド兵の眼に虚ろな諦めの色が浮かび、抵抗が止んだところで、僕が合図を送って短弓隊にずらりと包囲させ、いつでも止めを刺せる状況を整えたうえで、マチアスとステラが進み出て、

「もう勝負は決した! 無駄な抵抗はやめろ! 降るものは助ける! 我がアロイス王は慈悲深いお方だから、安心して投降せよ!」と呼び掛けた。

 すると、その声に応じて……って、うわ、あんなにいるのか! 次々とホランド兵が手を挙げて前に出て、投降している。ざっと1000人はいるぞ。そりゃ、ここで射殺いころされるより、投降して助けてくれるなら、すがりたくなるのが人情だろう。これは貴重な戦力を手に入れた。大事に使わせて貰おう。


 鮮血に染まり、死体で埋まった浜辺では、ホランドの上陸船が乗り上げ、幹部クラスの将校が我先に乗り込んで退避している。残兵のうち投降しないものは、仕方なく泳いで戦場を離脱していくが、背中に矢を打ち込まれ、次々と倒れていく。敗残兵の姿とは哀れなものだ。


******


 と思っていたら、狙う的がなくなって、お姉ちゃんが手持無沙汰になったのか、巨大ボウガンが沖の方を向いたと思ったら、「ズドン!」と鋼鉄の矢が放たれ、500m以上のとんでもない距離なのに、マケドニーの旗艦のメインマストに「ダンっ!」と突き立った。鐘楼しょうろう(マストの上の立ち台)に立っていた2人の人物は、すんでのところで倒れ込んで助かったが、起き上がってこちらを見て、「なんだ今の?」って首を振っていた(笑)。あはは、まあ、挨拶がわりだね。


******


 戦いが終わり、浜辺には、何千人もの負傷兵と死体が残された。ほぼ全てホランド兵だ。

 ざっと見たところ、1万人いたホランド軍は、死者2000名、負傷者2000名、投降者1000名で、明日戦えるものは5000人程度になった。幹部将校クラスも大きく棄損された。パターンAがうまくはまったこともあるが、これはもう記録的な圧勝と言っていい。向こうにしてみれば「海辺の惨劇」と言ったところだろう。

 

 ホランドには、今日参加していない兵士が5000人ばかり残っているのと、マケドニーの援軍が5000人いるから、合計1万5000人。ウチが7000人弱だから、正面から当たっても勝機は出てきたか? いやでも、まだ油断は禁物だな。


 僕は、丘から降り、マチアスとステラ、イワン、お姉ちゃんとステファンと合流して、がっちり握手し、皆で抱き合って祝福した。無事でよかった。


 そして、歩兵隊に指示を出して、死体と投降兵から装備を剥ぎとり、貴重なロングボウの矢も全て回収した。今日は大戦果だね。


 僕は、「死体と負傷兵は、浜辺においたままにしてホランドに回収させよう。船で来てるから、すごい負担感だろうな。だけど、回収しなかったら、士気が地に落ちて、これからもどんどん投降者が出るから、必ず来るだろうね」と言って、ホランドの旗艦らしき船に向かって、手旗信号で(後で回収しに来るように。攻撃はしない)と示して、最後に手を振った。

 そして、カンネイに、「剝ぎ取ったホランドの軍服を着て、あとで回収に来た部隊に紛れて、ひと暴れしてきてくれ。せっかくのチャンスだからね、活かしていこう」と声を掛け、それを聞いたカンネイが、「さすが小悪魔。お前も悪知恵が働くなー(呆)。ま、でも、面白そうだ。いっちょ見ててくれよ」って、ニヤリと返してきた。


******


 そしたら、お姉ちゃんが、さっき矢を打ち込んだ船に向かって、ニッコリしながら胸の前で手を振っているので、

「何してるの?」って聞いたら、

「あの人、ずっと望遠鏡でこっち見てたからね、(なんか感じ悪い)って思って狙ってやったのよ。そしたら、眼を白黒させてびっくりしてたわ。うふふ、面白かったな」って得意そうに言ってきた。


「お姉ちゃん……そういうの勝手にやらないでよ。もし死んでたら大変だったよ」

「え? なんで?」

「言ってなかったけどね、会いに行くんだよ。今夜、彼に」


「えー、何言ってるの? そんなことしたら、捕まって終わりじゃない!」

「ははは、まず大丈夫だよ。だからお姉ちゃんも一緒に来てよ。イボンヌ母さんの青いドレス着てさ」

「あ、それで『持って来い』って言ってたのか。でもなんでドレス?」

「そりゃ、エリトニーのお姫様だからさ。失礼のないようにだよ。マケドニーのミシェル王子にね!」


 そう言って、僕は、お姉ちゃんに片目をつぶってみせた。


 そう、戦いは戦闘だけじゃない。

 今夜は、お姉ちゃんの特殊能力「美貌」を活かして貰おう。

挿絵(By みてみん)

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