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第13章 リガー海岸上陸戦 第1話 晒(さら)された好餌(挿絵あり)

挿絵(By みてみん)

(アロイスの視点です)


 僕は今、リガー海岸のはじに位置する小高い丘の上から、砂浜と海を見下ろしている。緩い海風が潮の匂いを乗せ、丘の斜面を駆け上がってくる。


 午前8時、朝日が昇った後も海は油を流したように穏やかだ。

(今日が上陸日和)とばかりに、ホランド・マケドニーの連合軍が上陸船から駆け降りて砂浜に殺到している。波打ち際で餌をついばんでいた海鳥たちが迷惑そうに声をあげ、派手に逃げまどっている。


 上陸部隊は、ざっと1万人と少し。うち2000人が騎兵。軍服からすると、今日は全員ホランド兵のようだ。さすがにホランドも、援軍で来てくれたマケドニーのミシェル王子を死なせるわけにはいかないのだろう。それとホランドの将軍が、初日の戦功を独占したいのかも知れないな。


 僕は、右手の海岸に待機している、我がエリトニー軍に眼をやる。1000人の重装騎兵と2000人の歩兵が整然と並んでホランド軍の上陸を見守り、しかし、じっと動かず、なすがままにさせている。


******


 ホランドに潜り込んでいたカンネイから手紙が届いたのが3週間前、8月頭のことだった。ゲルマー商会の船長が、エリトニー城の僕に届けてくれた書簡には、「ホランド軍がマケドニーに移動している。1万5000人くらい。軍船に乗るからだろうが、騎兵は2000人くらいで、残りは歩兵。マケドニー軍と合流してリガー海岸に向かうはずだ。急いでリガーに行け。俺もリガーで合流する」と書かれていた。

 

 エリトニーは国土全体が地中海に突き出た半島になっているが、その西側のスロベニー王国は同盟国なので、ホランドがこちらから来る懸念はない。すると、北側のエレーヌ峠か、東側のリガー海岸しかないが、北の峠はこちらも出口を1万5000人の強兵で固めているから、そうそう攻めては来られない。おそらく、ホランドは、マケドニー軍と合流して海路でリガー海岸に上陸し、リガー港を押さえたうえで、50km先の首都エリトニーを目指すと予想していたが、まさにそのとおりになった。


 もともとリガー港には、3000人の兵士を常駐させていたが、戦闘訓練も十分ではなかったので、港の守りに専念してもらうことにして、僕は、エリトニー城の精鋭7000人を選抜し、急ぎリガーに向かった。首都エリトニーの守りは薄くなるが、スロベニーから強兵1万人が援軍で来てくれたので、彼らに首都の街と港の防衛にあたって貰うことにした。


******


 僕は、以前から、リガー海岸での戦いを想定し、地理的条件を徹底的に分析して、上陸したホランド軍をできるだけ損耗させたうえで撃退する作戦を練っていた。

 ただ、上陸後のホランド軍の進軍方向が予測できないので、パターンをいくつかに分けて、訓練を続けてきたんだ。願わくば、兵士の身体に沁み込むくらい何度も何度も繰り返した、あのパターンAの形に持ち込みたい。

 

 そのため、リガー沖に大船団で現れたホランド・マケドニー連合軍の前に、騎兵と歩兵の合計3000人を無防備にさらし、周りに増援部隊もいないことを明らかにしたうえで、大軍の上陸を誘った。

 しかし、さすがに相手もバカじゃない。こんな、「どうぞ上陸して殲滅して下さい」と言わんばかりの陣形を見て、無策のまま攻めて来るようなことはせず、当然こちらの意図を疑って、両軍は膠着状態に陥った。

 こちらとしても、攻め込んできてくれないとやりようがないので、毎日、海岸線まで出て罵詈雑言を浴びせたり、お尻ペンペンしたりして挑発してみたが(笑)、相手もそんな子供騙しには乗って来ず、3週間が無為に経過することになった。


******


 このままでは、ホランド軍が、リガー海岸の寡兵を放置したまま、リスク承知でリガー港に攻め込んだり、あるいは一足飛びに首都エリトニーに向かう懸念も出て来る。それで、僕が対応策に苦慮していたところ、ある夜の幹部会議において、頼れるあの男が膠着を打破するアイデアを出してくれた。


「アロイス。俺にやらせてくれよ。マケドニーの港で見た兵糧船は5隻。全部覚えてるから、今夜火をつけて来る」

「ああ、やってくれるのか、カンネイ。ありがたい。だけど気を付けてくれよ」

「はは、大丈夫だ。いざとなったら飛び込んで帰ってくるさ。夏でよかったぜ。ヘタ打っても死ぬことはないだろう(笑)」


 そうして、その夜のうちに、カンネイとベラ、そして数名のゲリラ部隊が夜陰に紛れ、小さな手漕ぎボート3艘で大船団の中に忍び込んで行った。

 僕とお姉ちゃん、マチアス、ステラ、イワン、ステファンらが、海岸からドキドキしながら見守っていると、カンネイが油を含んだ火矢をマストと船体に打ち込んだのだろう、何十という船団のうち3隻からポっと火が上がり、折からの海風にあおられ、すぐに赤々と燃え上がった。泡を食ったホランド兵が、総出で消火に当たっているのが遠目でも確認できる。ははは、見たか。これがエリトニーの戦い方だ!


 ほどなく、大仕事を終えたカンネイ率いるゲリラ部隊が帰ってきてボートを海岸に着けたので、「やったぞ! よくやった!」って皆で出迎えたら、カンネイは、さも当然のような顔をして、「敵さんも3週間たって規律が緩んでたな。警備がユルユルだったぜ。5隻全部は無理だったが、3隻は焼いたぞ」と言うので、「ありがとう、さすがカンネイだ! 意外なことに、この戦争の一番槍はカンネイだったね。戦争終わったら、勲章ものだよ!」って、口を極めて褒めたんだけど、「ははは、そんなものいらねーよ。俺は少しの金とヒリヒリしたスリルだけで十分だ。それよか、戦闘の準備をしろ。2、3日で始まるぞ」って、ニヒルに笑って返してきた。いやー、カッコいいねー。だけど、一番槍を逃したマチアスとステラはブスっとしてた(笑)。

 

 翌朝になって望遠鏡で確認すると、兵糧船3隻のうち1隻は全焼し、2隻は半焼していた。持ち込んだ兵糧は概ね半分になったと思っていい。大軍の泣き所は、いつの時代も食料と水。陸路と違って補給も困難だから、おそらくあと2~3週間しか戦闘を維持できないはずだ。かといって、兵糧を焼かれて一戦もせずに帰国したら、あのゲルンハルトのことだ、将軍の首が飛びかねない。

 だから、どんなに気味が悪くても、ホランド軍は、この海岸に上陸して雌雄を決するほかにみちはなくなった。


******


 それから3日たって、ようやく今日、肚をくくったホランド軍が上陸を開始した。騎兵と歩兵が上陸船から次々と海岸に降り、徐々に陣形を整えている。

 本来は、高低差のあるここが迎撃のチャンスだが、我が軍は海岸の奥、500mくらいのところに待機し、じっと動かない。見える範囲に援軍もいない、丸裸も同然の3000人が、大軍の前に好餌のようにぶら下がっている。 

 ホランドは次第に陣形を方陣(四角に密集した陣形。攻めにも守りにも強い)にとり、菱形の頂点をこちら向けている。

 

 しかし、まだまだ。チャンスは一度きりだ。僕はじりじりする気持ちを押さえて、じっと我慢する。

 それは騎兵隊も同じ。僕が右方のわが軍に眼をやると、まるで全体に赤い光が点滅しているかのように、眼前のホランド兵に向けて闘志をみなぎらせているのが伝わってくる。兵士全員の、「早くゴーサインを!」という、心の叫びが聞こえてくる。


 そうして、鼓動の高鳴りを抑えながら、なお我慢して20ばかり数え、ホランド軍の半分が上陸した刹那、ようやくその時がやってきた。


 僕は、その瞬間、「ガッ」と兵士たちに顔を向け、

「来たぞ!! 我らが愛するエリトニーの興亡、この初戦にありと心得よ!!」と、大音声だいおんじょうで叫び、すぐさま朝日で光る海に向かって、赤い旗を大きく振り、

「恐れるな!! いざけーーーーーーーーっ!!!!」と声の限りに叫ぶと、それに呼応して、突撃のドラがジャンジャンと鳴り、地を揺るがすような太い「「「「「ウォーーーーーーーーー!!!!」」」」」という雄たけびと共に、騎兵隊とその後ろに待機した歩兵隊が一斉に駆け出した。


 先頭は、エリトニーのツートップ、史上最強騎兵のマチアス、そしてステラ。

 二人ともエタンさんに打って貰った銀色にきらめく超硬の鎧に身を固め、黒と赤の長槍を構え、瞬く間にトップスピードまで加速して、槍衾やりぶすまを構えるホランド軍に突っ込んでいく。


 さあいよいよ始まった。マチアス、ステラ、頼んだぞ!


 そして、絶対に死ぬなよ!

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