第12章 開戦前夜 第1話 新兵器プロトタイプ2
(アロイスの視点です)
ぐっと秋が深まり、朝夕の冷え込みが肌を刺すようになってきたある日、ポルコのエタンさんが改良版のマスケット銃を2丁持って、馬車で首都エリトニーまで来てくれた。
挨拶もそこそこに、二人で演習場に持って行って、お姉ちゃんとステファンら弓隊のめんめんに見せたところ、例によってお姉ちゃんは「カッコいいー! 銃身が細くて長くて素敵ーっ!」と、瞳をキラキラ輝かせて大喜びし、ステファンらも、「おー、すげー。かっけー!」と言い合っていた。ほんとにみんな武器マニアなんだから(笑)。
エタンさんは、皆が新型銃に夢中になっているのを微笑ましく眺め、「鍛造鉄の弾丸に合わせて銃身を細く長くして、飛翔時にジャイロ回転させるために内側に螺旋の溝を刻んでみました。溝2本のものと4本の2パターンを持ってきましたので、試射してみてどちらがいいか確認しましょう」と説明してくれた。
僕が、「なるほど、普通のマスケット銃とはだいぶ違いますね。実にスマートだ。内側のライフリングはどうやってつけたのですか」と尋ねると、
「銃身をガッチリ固定して、先端から刃をドリル状に回転させながら押し込むんです。弾丸はこちらですよ」 そうエタンさんが言って小袋から出したのは、鍛造鉄でできた小指の先ほどの弾丸だった。従来の弾丸は丸い鉛製で、直径2㎝ほどだが、これは1㎝あるかないかくらいで、紡錘形(ドングリ型)でとてもきれいだ。陽光を反射して銀色にピカピカ輝いている。きっと製品誤差が出ないよう、一つ一つ丁寧に作り込んでくれたのだろう。
僕が弾丸を手に取って感触を確かめたあと、エタンさんは、「口径ピッタリに作ってありますよ。ほら」と言いながら、銃口から弾丸を入れ、カチンと底についたところで2丁とも逆さにしてみると、中から「スーっ」っと静かに弾丸が滑る音が聞こえてきた。そのなめらかな響きに皆が息を飲む。いや、これはすごい精度だな。寸分の狂いもないんだ。さすが天才鍛冶師。
見ていると、先に2本溝の弾丸がカランと落ちて、木の床でくるくると回り、次いで4本溝の弾丸が落ちて、こちらはもっと勢いよくぐるぐると回っている。やっぱり4本バージョンの方が回転と摩擦が多いんだ。
******
それじゃ早速試してみようということで、僕は皆を促して、100m先の的に通常程度の厚さの装甲を立てかけて試射を開始した。まずは、比較対象のために、普通のマスケット銃を5発放つことにした。
さあ、エタンさんに、狙撃のために結成されたチームセシル、「ブラックローズ」の妙技をお見せしよう!
お姉ちゃんが木製の射撃台(銃身を置いて安定させる)で一人待機し、その周りに5人のメンバーが散らばって持ち場につき、僕の「それじゃ、始めてー」との合図とともに、
①隊員が銃口から粉火薬をサラサラと充填する、
②そこに別の隊員が弾丸を装填する、
③すぐにもう一人の隊員が銃口から棒を入れ、弾丸と火薬を押し固める、
④ステファンが銃を受け取り、火縄が点いていることを確認し、台にセットする、
⑤お姉ちゃんが狙いを定めて、引き金を引き、「パン!」と発砲する、
⑥すぐに別の隊員が、台の反対側から銃を回収する、
⑦ステファンが次の銃をセットする、
5丁の銃でこの一連の流れ作業を繰り返すため、一人でやると一発一分かかるところ、10秒間隔で連射が可能になる。お姉ちゃんは、狙いを定めてトリガーを引くことに集中するだけ。まさに、お姉ちゃんを最大限「人間狙撃兵器」として活かすシステムだ。
無駄のない、流れるような連係プレーに、エタンさんも驚きの表情で見つめている。
******
5発の弾丸を打ち終わったところで、お姉ちゃんがステファンに「どう?」と声を掛ける。ステファンは目を凝らして的を見つめ、「一発だけ、腹のところに当たってますね。だけど装甲が凹んだだけです」と返してきた。
僕は、辺りに硝煙の匂いが立ち込める中、エタンさんを振り返り、「今のマスケット銃では、このくらいがせいぜいなんです。お姉ちゃんだから一発当たりましたけど、この距離だと、普通の狙撃手ではまず当たらない。それに弾丸が丸くて大きいから貫通もしないんです」と声をかけると、エタンさんは、「なるほど。実際に見てみるとよく分かりますね。ですが、鍛造鉄の弾丸は小さいけれど重量があって、しかも尖っていますから、貫通力は高いはずですよ。試してみましょう」と言って、プロトタイプを差しだしてきた。
まず、ライフリング2本の銃から試射する。
銃口から通常量の火薬と弾丸を詰め、お姉ちゃんが照準を合わせて引き金を引くと、火縄が落ち、「シュー!」と煙を吐いた一瞬後に、「パンっ!」と弾丸が打ち出されたと思ったら、的に「ビシっ!」と当たった音が響いてきた。弾丸が小さくなった分、命中音は小さくなったな。
5発試射して命中は2発。ステファンが目を凝らし、「命中箇所はバラバラですけれども、どちらも貫通していますね。格段に威力が高まっています」とのことだった。やはり弾丸の形状と回転で、命中率と貫通力は大きく向上するようだ。
次に、ライフリング4本の銃を試す。
驚いたことに、今度は5発中4発が命中した。すごい、試作段階でこの精度なら、かなり期待できるぞ!
だが、ステファンから、「命中箇所はさっきより固まっていますが、一つも貫通していないですね」との報告が入った。
僕がエタンさんに「これは?」と分析を促すと、エタンさんは、ちょっと考えてから、「溝が4本になった分、摩擦力が増して、弾丸のスピードが落ちたんでしょう。ただ、回転量が増した分、命中率は上がったのだと思います」との答えが返ってきた。なるほどね、多分そうなんだろう。
僕が、「エタンさん。同じ4本溝のままで回転量はもっと増やせるんじゃないでしょうか。例えば、硬い鍛造の鉄ではなくて、軟鉄で弾丸を作って、底を叩いてほんの少し口径を大きくすれば、ライフリングの溝に食い込みながら発射されるわけですし」と尋ねると、
「ああ、なるほど。それは考えませんでした。銃身の素材より少し柔らかく、底がわずかに大きい弾丸を使うんですね。ちょっと考えてみます」と返って来たので、
「是非お願いします」と答えた後、頬っぺたに手を当てて少し考え、
「だけど、それだと弾丸の方が大きいから、銃口から弾丸を押し込めないし、さらに摩擦で威力も下がるわけですから、やはりトリガーの上部をスライドで開ける形式にして、そこに2倍量の火薬のタブレットと弾丸をセットする方式にしないとだめですね」と言うと、
「そのとおりですね。すぐ試作に取り掛かります。今日はとりあえず、銃身のライフリングと、鉄の弾丸のバランスを見たということでご容赦下さい」と言うので、
「もちろんです。今日は、大きな進歩が確認できてよかったです。ですが、最終的には、500m先の装甲に命中して貫通するくらいの性能を実現したいと考えていますから、開発ピッチを速めて頂けますよう、お願い致します」と無理を承知で念押しすると、エタンさんは、苦笑いしつつ、
「いやー、500mで正確に狙撃できる性能ですか。実に厳しい注文ですが、うん、でも、頑張ってみますよ。すごく挑戦しがいあります!」と、頼もしい返事が返って来た。
******
その後、僕が、「お姉ちゃんは、エタンさんにお願いしたいことはある?」と聞くと、
「うん、そうね……。私、ステファンみたいに千里眼持ってるわけじゃないから、300m超えるともう的がよく見えないのね。だから、遠距離狙撃用のライフルには、望遠鏡みたいなスコープを付けてほしいな」と要望を出すと、エタンさんは、「なるほど。それはいいアイデアですね! 100mくらいの距離別に数丁ずつスペシャルを作るイメージでやってみましょう」と、力強く答えてくれた。
僕は、「あと、銃身にもトリガー上部のスライドの構造にも、十分な強度を持たせてください。基本的に、このライフルは歩兵が持って走るようなことは想定していないので、重くても構いませんから、火薬量と摩擦に耐えうるガッシリした造りにしてください」と念を押しておいた。
お姉ちゃんは、「えーっ? この細くて長いとこがカッコいいのにー……」って残念そうに口を尖らせたけど、だめだめ安全第一だよ、当たり前じゃないか。そしたら、横でステファンもコクコク頷いていた。
******
そして、最後に、狙撃チーム「ブラックローズ」が、幅5mの巨大ボウガンの連射をエタンさんに披露した。
お姉ちゃんは、3台のボウガンにヒラリヒラリと乗り移り、300m先の鉄板に次々命中させた。ステファンが確かめて「全部貫通、しかも30㎝の範囲に収まっています」と声を発すると、エタンさんは「なっ、これは……」と、目と口を大きく開けて驚愕していた。その顔を見たブラックローズの面々は、「ヘヘっ」と得意げに笑いながら、指で鼻の下を擦っていた。
エタンさんは、「いや、すごい。これはすごい。世の中には本当にこんな天才が潜んでいるんですね」と感嘆の言葉を発し、続けて「でも、これだけ遠方の的に命中できるのなら、ライフルは不要なんじゃないですか?」と言ってきたので、「いや、これは大きすぎて移動が困難なのです。木の枝なんかで偽装して、敵をおびき寄せて使うほかないんです。ライフルなら持ち運べますから、例えば敵の後ろに回り込んで指揮官を狙ったりできます。機動性が全然違いますよ」と返した。
エタンさんは、「ああ、なるほど。確かにそうですね」と言った後、じっと巨大ボウガンを見て、「……矢は、木ではなくて、細い鍛造鉄にした方がいいかも知れません。細くなる分、空気抵抗も減りますから、速度も威力も増すことでしょう。今お使いの矢を何本か預けてくれたら、今度試作品を作ってきますよ」とのことで、お姉ちゃんも、「ああ、それはいいですね。是非そうして下さい!」と喜んで頼み込んでいた。
このとおり、今日は、充実した試射が出来たけれど、ライフル銃に関しては、開発すべき点がまだまだ山積みなのが分かった。これは時間がかりそうだな。
もしホランドと開戦することになったとして、それまでに間に合えばいいのだけれど……。
僕は、5発の試射で温まったプロトタイプの細い銃身を撫でながら、期待と焦りがないまぜになり、思わず口元を引き締めたのだった。




