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第7章 第2話 先立つもの

(アロイスの視点です)


 僕は今、ゲルマーの大統領府の応接室に来ている。

 さすが超大国。ゲルマーの産品や芸術品、各国からの贈り物が一面に飾られた、豪華絢爛で広い部屋だ。教室くらいありそう。


 身体が沈み込みそうなソファに腰かける僕の右にはお姉ちゃんがいて、左にはエリトニーの外務・内務大臣を兼務するクレマンさん、お誕生席にはそれぞれランドルフ先生とクラウス先生が座っている。

 そして僕の正面に座っているのが、ゲルマーの大統領。もう4期16年も務めている。ランドルフ先生よりちょっと年下くらいか? 還暦過ぎくらいの年配だ。


 今日は、クレマンさんが年に一度の表敬訪問のためにゲルマーに来ているので、内密に僕らと大統領との面会をセッティングしてくれたんだ。


******


 クラウス先生が、大統領に、

「こちらが、エリトニー公国のウォレム王とメラニー女王のお子さん方、双子のセシルさんとアロイスさんです。ご存知のことと思いますが、もうゲルマーで12年も生活され、我がランドルフ私塾の両エースに育っています。今日は丁度クレマン大臣が我が国に来られているので、帰国後の活動のお話も兼ねて、ご挨拶に来られたものです」と紹介してくれた。


 大統領は、大柄で太りじしな身体を揺すって、人懐っこそうな笑顔を向け、

「そうかー、話は前々から聞いているよ。『ランドルフの二天才』と言えばゲルマーの政庁でも有名だからな」って声を掛けてくれるので、僕が、

「いえ、そんな、買いかぶりです。僕なんかまだ全然です」って返すと、

「ははは、謙遜のし過ぎは却って嫌味だぞ。『ありがとうございます』って言っとけばいいんだ。‥‥‥にしても、二人ともメラニー女王にそっくりなんだな。すっごくチャーミングな美女だったんで、よく覚えているよ。舞踏会でダンスのお相手をしてくれたんだ。あ、そういやクラウスも夢中で踊ってたよな。クラウス、そのあとなんかいいことあったか?」と、ニヤリとしながらクラウス先生に顔を向けると、先生は横向いて握り拳を口に当てて、「ケホケホ」とか誤魔化していた。やっぱりー、そんなことだろうと思ってたんだ‥‥‥。


 一通り雑談したあと、いよいよ本題。クレマンさんから、

「大統領。ご存知のとおり、エリトニーはウォレム王とメラニー女王亡き後、ホランドの搾取と圧政にさらされ、国民は疲弊しきっています。主要産業とその利益はみなホランドに収められ、経済の循環が極端に鈍くなっています。生活は困窮し、女たちは身を売り、男たちはホランドやマケドニーに働きに出ています。実際に人口も少しずつ減ってきています。国民の誰もが、ウォレム王の治世の時代を取り戻したいと考えているのです。貧しくても、豊かになりつつあった、経済も文化も上向きで希望を持てたあの時代をです。それで、全国民が、このアロイス王子とセシル王女の帰還を待ち望んでいるのです」という話がなされた。


 そしたら、「うん。話は分かるけれど、まだ二人とも17なんだよな。さすがにもうちょっとかかるんじゃないか」と大統領が疑問を投げかけるが、クレマンさんは「大丈夫です。能力も人間性も、全く問題ありません。一国の王として相応しい資質を既に備えています。それに私が既に下地を整えつつありますから、二人の帰国のタイミングで政庁を把握したいと考えています。もう政庁内も、ホランドから派遣されたダミアン総督には愛想を尽かしていますから、政権の奪還自体はそれほど困難ではありません」と真顔で訴えかけた。

 

 なので、僕からも、

「大統領。問題は、政権を奪還したあとなんです。ホランドとは国力も兵力も全然違いますから、まともに正面から戦っても、いずれは物量で押し切られてしまいます。だから、西隣のスロベニーにも援軍を頼んで、序盤から連勝を重ねて、どこかで講和するほかないんです。僕は3年位を目途に考えています。その講和の際に、超大国のゲルマーに後ろ盾になって欲しいのです」って、お願いしたら、大統領は「ほう?」という顔をしてきた。


 僕は続けて、「幸い、僕はゲルマーで育ち、ゲルマーで沢山の方々とお会いできました。もう第二の故郷というより、故郷のそのものと言ってもいいくらい愛しています。今後の友好を長く繋いでいきたいと思っていますので、どうかお心に留めておいて下さい。もちろん、援軍まで出して下されば、それに勝る幸せはありません」と熱く語りかけた。

 

 大統領は、ほんのちょっとだけど、迷ったような表情を浮かべたあと、穏やかに微笑みつつ、「そうか。話は分かったよ。エリトニーは良質の鉄鋼や鉄製品があるし、エリトニー港は貿易港として最適だ。今後、友好を深めていく価値は十分にある。その時が来たら、前向きに考えさせてくれ。ウチは共和国で議会の承認が必要だから時間がかかるのがなんだけど、俺が何とかするから大丈夫」と言ってくれたあと、

「だけど、クラウスから聞いてた話とちょっと違うなあ」と言ってきたので、お姉ちゃんと二人で「?」という顔になると、「いやさ、この『ランドルフの二天才』を手放したくないって、できればゲルマーに留まって、今の私塾や、それこそ国政の中心になって活躍して欲しいって言ってたけどな……」と、少し困惑顔で言ってきた。


 ランドルフ先生とクラウス先生は、「ハっ!」とした顔になって、クレマンさんの手前、ばつが悪くなったのだろう、「クレマン大臣。すみません。申し訳ありません! でも私達も大事に育てたこの二人を手放したくないんです。できれば、ゲルマーに留まって力になって欲しいと思っているんです。だけど、それは『そうなったらいいなあ』というくらいの願望で、アロイスとセシルさえよければそうして欲しい、というだけなんです!」と、必死に言い訳していた。


 クレマンさんも大人だから、特に荒立てたりはせず、「ははは、そうですか。このお二人ならどこも欲しがるのは当然です。ですが、時期や方法は別として、私はお二人にエリトニーのために尽くして欲しいと思っていますし、これまでそのために活動してきたわけですから、おいそれと応ずるわけにはいきません。まあ、でも、それはアロイス様とセシル様次第ですね。いくら待望されてるからと言って、国家に個人を捧げるわけにはいきませんから」と、穏やかに返してきた。さすがクレマンさん。大人の対応だ。


******


 大統領との面談を和やかに終え、次に皆で「ゲルマー商会」に向かった。

 創業200年、ゲルマー最大の商社で、その売上高はゲルマーの国家予算の30%にも上る巨大コンツェルンだ。ライバルの「新ゲルマー総合商会」(作者注 電〇と博〇堂みたいなもんですw)にも大きく水をあけている。


 なんと、先ほどの応接室の3倍はあろうかという大きな部屋で、ゲルマー商会の会頭が迎えてくれた。齢の頃、まだ45くらいだろうか。数年前に代替わりして、名誉会頭は、週1回くらいしか出てこないそうだ。

 

 クラウス先生が紹介してくれて、簡単に挨拶を交わしたあと、僕は、単刀直入に、「僕たちがエリトニーに帰国して、政権を奪還した後、独立戦争を遂行する際の資金援助をお願いしたいのです」と切り出した。

 当然だが、会頭はそれには明確に答えることはせず、「そうでございますねえ……」と視線を逸らせて、紙巻タバコに火をつけた。僕が若すぎるので、値踏みをしているんだな。


 そしたら、

「どのような使い道を考えらておられますか? 私どもは商社ですから、リターンのない投資は難しいのはお分かりと思いますが」と、あちらも正直に返してきたので、

「はい、もちろん武器を買ったり、傭兵を頼んだりするお金は必要ですが、それはただ使えば消えてしまうお金です。僕は、それだけではなく、経済を自分たちで回していく、そのためのインフラ整備に使いたいのです。幸い、エリトニーには西側にポルコ港、半島の突端にエリトニー港、東側にリガー港という、3つの良港がありますから、これらをフル活用したいと思っています」と答えると、「ほう、具体的にはどのような?」と聞いてきたので、


「ポルコ港は、鉄鉱石の採掘現場から近いので、鉄製品の市場を作りたいと考えています。これからは鉄鉱石そのものを輸出するような愚はやめて、ポルコに鉄鉱の精製工場を建てて、エリトニー産の高級な鉄素材として輸出したいと考えています。そのためには潤沢に資金を使って、最先端の精密な工場を建てる必要があります。また、せっかく良い鉄素材があるのですから、ポルコに熟練した腕のいい鍛冶職人を集めて、『エリトニー製』の印を入れたぜいたく品として輸出したいのです。刀剣もそうですし、食器やハサミ、包丁とか、必ずどこの国でも需要がありますから。幸い、古のエタンを始めとして、伝統的に優秀な職人が揃っていますから、それを国家の財産としてフル活用したいと考えています。ほら、これですよ」と、僕が言って、腰から抜いたエタンのサファイヤを手渡したら、会頭の顔色が一瞬で変わった。ふふ、そうだろうな。


「こ、これが伝説の名工、エタンの打ったダガーですか‥‥‥。これは素晴らしい……本当に素晴らしいとしか言いようがない。細身で鋭利。繊細だが硬質。そしてこの華やかだが落ち着いた装飾。アロイスさん、失礼ですが、これはいかほどになりますか?」

「ははは、これは形見の品なので、売り物ではないのです。多分、値段はつけられないほどの名品なのではないかと思っています」

「さぞかしそうでしょうねえ……。ただ、このような製品でブランド価値を高めれば、鉄鉱石の何千倍という利益を生み出すことができそうですね」 会頭は、エタンをしげしげと眺めながら、感心したように呟いた。


 いい感じだ。畳みかけよう。

「はい、ポルコ港は鉄の市場を展開したいのですが、首都のエリトニー港は、経済の集積地にしたいと考えています。幸い、半島の突端に突き出ており、地中海の丁度真ん中にありますから、西ナーロッパからくる商船が鉄鉱石を積んで帰るようなことはさせず、エリトニーで融資をして中東に向かわせて、ペルシャ絨毯や、ランプ用の重油などを仕入れさせて、エリトニーの市場で売買するという循環を作りたいのです。要するにナーロッパ全体の海運貿易の拠点を作りたいのです」


「でも、貿易港はほかにもありますね。それとの優位性は?」

「地理的な優位が一つありますし、港の係留料を安く抑えることと、融資を低利で行うことで、船舶は寄り付くようになると思います。それと、こんなこと僕が言うのは憚られるのですが、エリトニーは美人が多くて有名ですから、船舶が集まれば、船員の落としていくお金もまた、国を潤すことになると思います」 僕はチラっとお姉ちゃんを見て話したところ、会頭も、(ああ、そうだろうな)という面持ちで頷いていた(笑)。


「アロイスさん。とても面白いお話です。ただ、初期のインフラ整備は大変でしょうね」

「そうです。港湾の拡充は必須ですし、中東製品の市場のための倉庫やセリ会場の建設、銀行の設立とその貸付金の用意、お金はいくらあっても足りません」


「アロイスさんは、いかほどと踏んでいますか?」

「この間、ざっと試算してみたところ、最初の一年で7000億ゴールドが必要になると出ました。インフラ整備後はランニングコストと保守料が中心になりますが、それでも年間2000億ゴールド程度のお金が要りようになりますね」


「7000億! それはナーロッパ一の我が商会でも、一年分の利益に匹敵しますよ。途方もない金額です。それを融資せよと? 利息だけでも大変なのでは?」

「いえ、融資ではありません。頂くのです」

「は?」

「会頭、私も全能ではないのです。経済はとても大事ですから、最初は経済の立て直しにかかり切りになると思いますが、独立戦争を遂行するためには、いずれ政治と軍事にシフトせざるを得なくなると思います。そのときに経済は誰かに任せなければならないのです」

「と言うと?」

「御社、ゲルマー商会に、港湾の市場と銀行の管理を任せたい。差し当たっては5年間。そこから上がる利益は全て差し上げます。その変わり、年間の利益の3割を収めて頂きたい。私が自由に動けるように、一国家の経済の運用をあなたに任せたい。そう考えています」


「なるほど。にしても7000億ですか‥‥‥。独立が失敗したら紙屑になるわけですよね」

「そのとおり。ですが会頭、やるならば私も命がけなのです。だから、これは私の命の値段なのです。決して高くないと思いますよ。5年で十分元は取れるはずです。そこから先は、お互いどうメリットがあるのか考えて進めて行きましょう」

「‥‥‥もしお断りした場合には?」

「今、この足で、『新ゲルマー総合商会』に向かいます。ご縁がなかったのであれば、新しいスポンサーを探すのは当然ですよ」 僕はニヤって笑って締めの一言を投げた。


 会頭は、ほんの少しの間、俯いて考えたが、すぐにスッと僕の眼を見つめ返して、

「ふふ、わくわくするお話ですね。もっと詳しく聞かせて頂けませんか。アロイス様」と、笑顔で膝を乗り出してきた。


******


 帰り道、お姉ちゃんが、

「あんた、よくあんな大風呂敷広げたわねー。7000億って、ビックリしたわ!」って言ってきたので、

「あはは、まあハッタリだよ。インフラ整備は3000億で足りるんじゃないかな? まあ、でもハッタリなんて大仰な方がそれらしく見えるんだよ(笑)」って、答えたら、

「はは、そうか。あんたらしいわねえ。そしたら私もくっついて行くわよ」って言ってきたので、


「いや、それなんだけどさ。なんだか僕が王様になるような話になってるけど、お姉ちゃんが女王様になって僕が支えるっていうのでもいいんだよ。そういうお家騒動で国がガタガタするの嫌なんだ。僕は独立戦争を遂行できたらそれでいいんだから」って返したら、


「んな! バカなこと言ってんじゃないのよ! あんた以外、誰が王様やるっていうの? 私、あんたにずっと着いていくから、私も、人民も導いてよ。頼んだわよ、小悪魔アロイスさん!」って、熱く語りかけてきた。はは、そうか、お姉ちゃんもそう思ってくれてるのか。それじゃ、謹んで受けるほかないな。


 ランドルフ先生も、クラウス先生も、クレマンさんも、何も言わず「ウンウン」って頷いていた。




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