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第6章 オマケ 恋する乙女たち


その1 ラストダンスの記憶


(セシルの視点です)


 明日は、ランドルフ私塾の学園祭。開塾30周年記念式典も行われることになっている。

 私は家で、翌日のパーティの準備。イボンヌ母さんから借りた一張羅のドレス(濃紺のビロード地)に、ガラスでできた大振りなネックレス。そしてピアスとティアラ。黒髪はおだんごにしてアップにした。


「うっわー、セシル。すっごく綺麗よ。本当にお姫様みたいよ!」って、イボンヌ母さんが眼をまん丸にして褒めてくれる。って、ほんとにお姫様なんだけどね(笑)。


 私、胸もだいぶ大きくなってきたから、寄せて上げるまでもなく、胸ぐりの大きなドレスに綺麗な谷間ができた。ふふふ、無理矢理作ったY字の谷間じゃなくて、巨乳の証、I字よ。

 

 母さんも、「あらー、胸が大きくていいわね。私なんてつるペタだからね……。そういえば、メラニー様もすごかったなあ」ってため息つきつつ、「でも、父さんは『このくらいの方が長持ちしていい』って言ってくれてるわよ。うらやましくないわ。ふん」って、あっち向いて言ってた(笑)。


******


 翌日は、朝イチで、30周年記念式典が行われ、ランドルフ先生と来賓の挨拶のあと、生徒代表でアロイスが祝辞を読み上げた。もう、アロイスは13歳にしてダントツの首席で、誰も疑問を差しはさまない。既にアロイスの論文が何本も塾の論文集に掲載されているくらいだ。


 そのあとは学園祭に突入、私たちのクラスは、幼年クラス向けに白雪姫の寸劇を披露した。クラス唯一の女子の私が白雪姫で、アロイスが小人(笑)。小さな生徒が沢山見に来てくれて、夢中でパチパチ拍手してくれて楽しかった。


 夕方に後片付けして撤収したあと、今日のメインイベント。みんなが講堂に集合する。

 ここのところ毎日特訓を積んできた吹奏楽部の演奏にのって、ダンスパーティの始まり始まり!


 濃紺のドレスに着替えた私が、アロイスに手を引かれて講堂に足を踏み入れると、すぐに、「ええーっ?」とか「うわーっ!」っていう男の子たちのさざめきが広がっていった。ふふふ、素敵なレディぶりに驚いてるわね。気持ちがいいな。


 最初のパートナーはアロイス。この2週間くらい密かに練習してきたんだ。


 さあ、曲が始まった。タンゴからだな。

 私とアロイスは、二拍子の曲にのって、リズミカルに「ピっ、ピっ」っと首を振り、ホールを移動しながら舞う。アロイス上手いな。さすがきょうだい。息もピッタリだ。

 曲のラストで、ピタっと止まったら、うわーっ、男の子が集まってきたぞ。何?

 みんな、「セシル! 次は僕と踊ってよ!」って、口々に言って、手を差し出してくる。10人以上いるわ。ちょ、ちょっと、そんなに沢山お相手できないわよ。


 私は、ニッコリして、皆を眺め渡して両手を合わせ、「ごめんなさいね。次に踊りたい人がいるの。また後でみんなとも踊るからね」って言って、男の子の輪から脱し、あの人のところに向かった。ふふふ、さっきからずっと私のこと見つめていたの、分かってたわよ。


******

 

 私は、堂々と、しかも優雅に歩いて、ホールに並んだ椅子に座って冷たいものを飲んでいるクラウス先生の前に行き、小首をかしげ、飛び切り綺麗な笑顔を向ける。先生が、真っ赤なルージュと白い谷間に眼

をやって、赤くなってどぎまぎしているのが分かる。

 私が、すっと手を差し出すと、クラウス先生は指を自分に向けて「僕になに?」って、全然空気読めないこと言ってきたので、私、思わず眉根を寄せて腰に手をやり、人差し指立てて、「もう! 見ればわかるでしょ! レディに恥かかせないの! 早く誘って!」ってプリプリしたら、先生は「あっ!」って状況をようやく理解した。

 

 そして、ニッコリしながら立ち上がり、片膝をついて手をとり、

「大変失礼致しました。お綺麗なセシル様。私と一曲踊って頂けませんか?」と声を掛けてくれた。おお、なんか、さっきと違って、やけに堂々としているぞ。


 私は、満面の笑顔で「喜んで!」と応え、クラウス先生と見つめあいながら手を繋いて、ホールの中央に進む。つるつるしてちょっとひんやりした、素敵な手だな。


 って、あれれ、先生が出てきたからみんな遠慮したのかな? ほかに踊る子がいない。こ、これは責任重大だぞ……。

 って思ってたら、先生が、「大丈夫。僕の言う通りに踊ってくれればいい。全部僕がサポートするよ」って、言ってくれた。え、そうなんだ。でもなんか、すごく頼もしいぞ。

 そしたら先生が、「はじまりは少し離れよう」と言うので、10mくらい離れて、胸に両手を交差させたところで曲が始まった。「ロミオとジュリエット」だ。ああ、ワルツだな。これ大好き。シンプルなピアノの音色と、バイオリンの響き。愛のために死にゆく男女を描いた、もの悲しい、美しい曲。


 私と先生は、切ない旋律に乗って、身体を揺らしながら少しずつ近づき、私がクルっと2回転したところで左手を繋ぎ、先生の手が私の開いた背中を支える。あ、温かくなってる。


 最初は息を合わせるように、ゆっくりと回りながら、ロア、ライズを繰り返す(以下、用語は分かんなくていいです)。

 先生が小声で、「ワン・ツー・スリー。ワン・ツー・エン・スリー。‥‥‥ホイスク。そこでシャッセロール!」って囁き、私がその通りに踊ると、全部先生がついてきてくれる。驚いた! 先生すごくダンスが上手なんだ。全然知らなかった。


「2回転。後ろ向いて足上げる」 私が手を放してくるっと回転して、後ろを向き、手を伸ばして片足を後ろに上げると、先生が後ろから私の腿と腰をもってリフトアップ、そして何回転もターン。息の合った華やかな力技に、場内からは「ほーっ!」って感嘆のため息が漏れる。

 

 再び向き合って、ワルツの見せ場、高速回転。ドレスの裾がふわりと広がり、二人が優雅にフロアを舞う。ほんとに楽しい。夢中になって、気持ちが高揚してくる。


「楽しいわねーっ! 先生ー!」

「はは、そうだな!」

「先生上手ねー! 感心しちゃった!」

「セシルも上手だぞ! お母様もお上手だった!」

「なによもうー! よその女思い出さないの!」

「はは、ごめんごめん!」


******


 曲がラストに向かうタイミングで、また離れて、切ない表情で手を伸ばしあう。

 そして、回転しながら近づいたとき、「コントラ・チェック」と声がかかり、私は先生を信頼してグっと背中を反らせながら体重をかけ、倒れこむ。

 「そのまま両手を伸ばす」と言うので、私が手を伸ばすと、先生は私を支えたまま、倒してくる。もう床に着きそう。そして、先生の顔が私の顔に近づいてきた。


 え? 近くない? ちょ、ちょっとまさか、口づけ? 先生!


 って思ったらそんなことはなく、最後に見つめあったところで、ピアノの旋律が静かに止まった……。

 美しい演技に、場内が魅了され、「うわーっ!」「セシルとクラウス先生、素敵!」「すっごい綺麗! まさに黒薔薇!」っていう歓声が上がって、大きな拍手が巻き起こる。


 先生が私を起こして、二人で手を繋ぎ、場内の観客に優雅にお辞儀をして演技終了。

 ああ、楽しかったのに、もう終わっちゃったのか……。


 次の曲が始まったけど、私、すっごく集中して疲れたので、一旦お休みにして、先生の隣の椅子に座って、二人で冷たい飲み物を飲む。


 でも、先生の最後のあれ、なんだったの。すごくドキドキした。


 ……あー。分かったー。母様のこと思い出してたんだ。もうー。


 そう思ったら私、なんか急に胸が苦しくなっちゃって、手を当てて、あれ? 何? 嫌だ。何? つーって、涙がこぼれてる。私、どうしちゃったの。


 うん、でも、実は分かってるの。もう、自分の気持ちはごまかせない。


 私は、そっと先生に手を伸ばし、うつむいて、おずおずと手を繋ぐ。

「!」って、先生はちょっとびっくりした様子だったけど、ダンスホールを眺めたまま、キュって握り返してくれた。


 私は、俯いたまま、繋いだ手を通して、気持ちを送り込む。


 先生、私ね……、やっぱり、先生が好きなの……。




その2 疑惑と決意(ステラの視点です)


 今日もまたアロイスと手を繋いで、叔母さんの家に帰る。

 いつまでも着かなければいいのに。ずっと一緒にいられたらいいのに。


 家について一人になると、またすぐアロイスに会いたくなる。

 こんな気持ち今まで知らなかったから、戸惑うばかりだけど、私、きっと、アロイスが大好きなんだわ。

 だけど、アロイスもそう思ってくれてるのよね。そうよね。私、こんな大女なのに、アロイスは小っちゃいのに、愛してくれているのよね。


 お母さんと一緒にゲルマーに逃げて来た時は、こんな日々が来るなんて夢にも思ってなかったけど、今、私、とっても幸せだな。


******


 だけど、私、アロイスのこと、まだまだ知らない。

 アロイスだけじゃない、セシルも、イボンヌさんも、マチアスさんもだわ。あの一家は、何かを隠して、息を潜めて生きているように思う。


 だって、イボンヌさん、どう見たって20代半ばくらいでしょう? 30には全然なっていないでしょう? アロイスがもうすぐ14歳だから、本当の子供なら、14~5歳で双子生んだってことよね。そんなのおかしいでしょう?


 うん、だけど、私、薄々感じてたの。実は分かってるの。

 

 エリトニーにいた頃、お父さんが言ってた。

「今、エリトニーはホランドに支配されて、圧政で虐げられているけど、何年か我慢すれば、英雄が帰ってくる。メラニー女王様に逃がされた双子、セシル様とアロイス様が、必ずこの国を救ってくれると信じている。だからそれまでみんなで我慢して耐えるんだ」って。

 セシル様は黒い髪で、アロイス様は金髪だって言ってたわ。


 間違いない。もう疑いようがない。あの二人が、双子の英雄なんだわ。


******


 でも……と、私は、行く末に不安を覚える。胸がトクンと鳴る。

 それって、時期が来たら、みんなエリトニーに帰っちゃうのよね。そして、生死をかけてホランドと戦うことになるのよね。


 そしたら私、置いていかれちゃうのよね。あんな家に残されたままで。

 私、抜け殻になっちゃうわ。もう生きていけないわ。


 そんなの絶対嫌! 絶対ついていく! 「置いていったら、私、死ぬから!」って座り込んで泣きわめくんだから。


 私、アロイスがいれば、ほかには何もいらない。

 アロイスさえいれば、私の全てが満たされた思いで一杯になる。


 だから私、地獄でもどこでも、アロイスに着いていく。

 

 ほかにあげられるものなんて何もないけれど、愛するアロイスに、この身体と命を捧げたい。


 生きていく証が見つかって、私、今、本当に幸せよ。


 読者の方が、ファンアートを作ってくださいました。ダンスパーティーの時のセシルですね。とても13歳と思われない色気ですことW


 挿絵(By みてみん)

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