表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/72

第6章 第2話 娘がもう一人?

 

 家までの帰り道、ステラが、小声でボソボソと、エリトニー時代のことを話してくれた。


「私のお父さん。エリトニー軍の重装騎兵だったの。割と位の高い兵士で、小隊長を任されていたの。私、よく、お休みの日に、演習場で馬に乗せて貰ったわ。だから、私、馬に乗るの上手いのよ。馬術も習ってたしね。あの頃は楽しかったなあ……」 そう言って、ステラはちょっと遠くを眺め、でも笑わずに口元を引き締めた。


「……だけど、あるとき、演習中にお父さんが先頭に立ってギャロップしているときに、突然馬が足を折ってしまったの。それで、お父さん、投げ出されて、身体丸めたんだけど、後ろの馬が避けきれなくて、頭を踏まれちゃったの‥‥‥」

 思わず、アロイスが、「そうだったんだ」って、痛そうな顔して眉を寄せる。


「うん。それで、お父さん、頭が凹んで形が変わっちゃって、だけど三日くらい意識があって、生きてたの。……でも、すごく苦しそうで、ずっと死にそうなうめき声をあげて、『もう死なせてくれ! 頼む!』って、しがみついて必死に言ってくるの。それ見てて、お母さんも私も、もう居たたまれなくなって、お医者様に『直らないのなら、楽にしてあげて下さい』ってお願いしたの‥‥‥」 そう言って、ステラは、こらえきれず、白い手で両目を擦った。


 しばらく無言で歩いたあと、ステラがまた話し始めた。

「だけど、本当につらかったのは、それからだった。エリトニーは貧乏だから、死亡の恩給が出るまで半年もかかって、お葬式代も払えなくて、その間、お母さん、夜の街で働き始めたの。お母さん、とても美人だったから、きっと身体売って、お金貰って、それでなんとか食いつないでんだと思うの。私には言わなかったけど、そういう船乗り相手の女の人、港にはすごく沢山いるから」 そう言って、うつむいて瞳を伏せ、


「それで、もう、二人とも疲れ果てちゃって、『これ以上エリトニーで暮らすのは無理』って思って、恩給が出たところで、一緒に船に乗って、ゲルマーの叔母さんのところを頼ってきたの。だけど、叔母さんのところも貧乏だったから、私達が増えたことでさらに苦しくなったの。それで、叔父さんと叔母さんいつも喧嘩ばっかりで、お母さん居づらくなっちゃったみたいで、ある時、叔母さんに残りのお金全部渡して、『必ず働いてお金送るから』って、いなくなっちゃったの‥‥‥。もう、もう生きてないかもしれない……」 そう言って、口をわななかせ、

「私、あんな家に一人残されて、これからどうして生きて行ったらいいか、分からないの。生きて行けるかも、自信ないの‥‥‥」 そう声を絞り出したあと、ステラは、我慢して、声を立てないように「うっ、うっ」と息を漏らしていたけど、でもやっぱり無理で、しゃくりあげながら、ついに「あーーーーっ!」って、両手を眼に当てて、しゃがみ込んで、声をたてて泣き出してしまった。


 私とアロイスは、ステラの肩に手をやって、二人で精一杯優しい気持ちを注ぎ込み、瘦せこけた細い身体に手を添えて、家まで連れて行ってあげた。


******


 アロイスは、家に戻って、

「母さん。今戻りました。遅くなってごめんなさい」と声を掛け、出てきたイボンヌ母さんが、ステラを見て驚いた顔をすると、

「母さん。この子、エリトニーから来た子なんです。ステラって言います。さっきいじめられてて、ほっとけなくて連れてきてしまいました。お風呂に入れて、ご飯を食べさせてあげて下さい」と、お願いした。


 母さんは、無表情のまま顔を傾けて、ちょっとステラの様子を伺い、やがてニッコリすると、何も聞かずに、「そう、そしたら先にお風呂沸かしましょ。ステラは二人の部屋で一緒にいてね」と声を掛けて、お風呂場に入っていった。

 アロイスが、こんなこと言い出すなんて、余程のことだもんね。母さんもよく分かってるんだな。やっぱりイボンヌ母さん、優しいな。


******


 お風呂から上がって、石鹸のいい匂いになったステラが、私の貸してあげたワンピースを着てみたら、やっぱりだいぶ小さかった。完全に極ミニだった(笑)。だけど、見ていた全員が、思わず、「おー、可愛いー。美少女ー」ってため息を漏らすくらい綺麗だった。

 サラサラの淡い金髪に、雪みたいに青みがかった白い肌、長身に長い手足。まさにエリトニー美人で、これは将来が楽しみだな。だけど、デカい。すごくデカい。これ以上は伸びない方が女子的にはいいんじゃないか‥‥‥。


 そのあと、帰ってきたマチアス父さんと一緒に、みんなで夕食。

 ステラは、「‥‥‥美味しい。本当に美味しいです‥‥‥」って、胸が一杯になった様子で、鼻をグスグス言わせながら、でもすっごく沢山食べた(笑)。お腹減ってたんだな。母さんも喜んで、お代わりのパンを山ほど切ってくれた。


 父さんは最初ビックリしていたけど、アロイスがステラのこと話してあげたら(全部覚えてた! さすが)、「……なるほど。それは辛かっただろうなあ」と納得して頷いていた。

 だけど、「ステラのお父さん、騎兵隊の小隊長だったって言うけど、なんて名前?」って聞いたら、

「レオンって言います」

「‥‥‥うーん、知らないなあ。俺は、いつもは近衛隊の方にいたからなあ。残念、仕方ない」ということだった。


 私達、これまで、毎年1回ゲルマーに表敬訪問に来るクレマンさん(内務・外務大臣兼務になった)から、エリトニーの実情はある程度聞いていた。だけど、実際にステラから、ホランドの搾取のせいで経済が極端に低迷して、女の人が歓楽街で身体を売って家族を養っているような、そんな生々しい実態を聞き、全員で改めて故郷を深く憂慮することになった。実際、どんどん混血が進んでいるそうだ。それもこれもエリトニーの総督を続けている、ダミアン王(自称)がやっていることなのね。


******


「それで、マチアス父さん」 アロイスが本題に入る。

「ステラは、僕たちと同じゲルマーで暮らす同郷人ですし、今の家に置いておくのは、ステラのためにも家族のためにもよくないと思うんです」

「そうだけどなあ。一応、よそのご家庭の話だからなあ。口を挟むことではないよなあ……」

「もちろんそうですが、出来るだけステラがあちらの家にいる時間と負担を少なくする方向では考えられませんか? 例えば、毎日、この家に通って貰って、母さんの手伝いをする代わりに、三食のご飯を出して、お風呂にも入れてあげて、夜遅く帰すとか。向こうでは寝るだけ、くらいの感じで」

「うーん……」 そう父さんは渋るけれど、アロイスが畳みかける。


「もう僕たちの学費もかかりませんし、父さんのお給料もだいぶ上がりましたから、食費一人分くらいは大丈夫だと思います。あと、向こうの家族が助かるように、ほんの少し、お小遣い程度のお給料をあげればいいと思うんです。なんとなれば、僕、ランドルフ先生にお願いして、ちょっとお給料出して貰うように頼んでみますよ。もはや嫌とは言えないと思います(笑)」


 とまあ、こんな感じで、結局、勝負ははなから分かっていた。父さんがアロイスに口で敵うはずないものね。

 

 私と母さんも、「父さん、いいんじゃないの。こういうのって、困ってる人、全員を助けることはできないけど、たまたま自分と関係のある人が困っていたら、その限度で力を貸してあげたらいいのよ」って側方支援したら、父さんもその気になっちゃって、

「‥‥‥まあ、そうだな。一人増えたくらいなら大きな影響ないだろ。賑やかになっていいくらいだな。じゃ、ステラ、毎日通って、腹いっぱい飯を食うんだぞ。もっともっと大きくなっていいんだぞ!」って力強く答えてくれた。


 家族全員で、「やったー。さすが父さん。よっ、エリトニー最強の男!」って、思いっきり持ち上げておいた(笑)。父さんが頭に手を回して「エヘヘ」と照れて、ステラも、さっきの涙顔はどこへやら、両手を胸の前で握って、すごく嬉しそうに笑っていた。パっと白い頬が染まって、花が咲いたみたい。満面の笑顔も可愛いな。


******


 食後に、父さんがステラを送って行こうとするのを、アロイスが「僕が言い出したことですから、僕が行ってきます」って止めて、ステラと一緒に、叔母さんの家に行き、両親にきちんと説明して説得したそうだ。おー、男らしい。今日のアロイス、ほんとにカッコいいわよ。

 もちろん、あちらも渡りに船で、「これからステラをお願いします!」ということで快諾。例の男の子二人も喜んで、さっきひどい目にあったことなんてすっかり水に流して、「ありがとうございます。アロイスさん!」と感謝されたそうだ。


******


 翌日から、ステラは、朝6時前に家に通って来て、私達と一緒にお城まで散歩して、体術の訓練をするようになった。

 「私も、お兄ちゃんたちみたいに強くなりたい!」ということだったけど、さすが騎兵の娘、すぐにメキメキ腕を上げて行った。サイズもあるしね。お父さんによれば、「上背もあるから、身体が強くなれば、槍術に向くかも知れないな」ということだった。

 ステラは、「私! 馬に乗るが大好きなんです。もし、お兄ちゃんたちがお城で訓練するなら、私も混ぜて下さい!」って父さんに頼み込んでいた。


 昼間、私達が学校に行っている間は、ステラは家で母さんの手伝い。手すきの時間はアロイスに出された宿題をやって、読み書きの練習。夕方に買い物に出て、晩御飯食べてお風呂に入ったあと、アロイスが家まで送って、あとは寝るだけ。やっぱり、あんまりあっちには居たくないんだろうな。


 ……って思いつつ、ある時、二人が帰っていくのを、私が何気なく窓から見送っていたら、ちょ、何あれ? なんですって!


 て、手を繋いでるじゃないのよーーーっ!


 ステラは背中から桃色の乙女のオーラを発散して、内股でチョコチョコ歩きながら、アロイスに寄り添っている。


 まったく、やるわねアロイス。あんたいつの間に?


 だけど……、なんか、母と子みたいよ(笑)。


 ま、いっか。愛があれば身長差なんてね。いいわよね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ