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第6章 新しい仲間たち 第1話 エリトニーからきた少女

~ このエピソードの登場人物 ~


・ ステラ

 エリトニー出身の長身の美少女。エリトニー軍の騎兵小隊長の娘。従順で大人しいが、いったん心を決めたら果敢に行動する。不慮の事故で父を失い、困窮の末、母と一緒にゲルマーの地に流れ着いた。後の独立戦争時には、マチアス(双子の父親役)と共にエリトニー重装騎兵隊のツートップを務めることになる。登場時12歳、178㎝。長じてからは197㎝。異名は「エリトニーのツインタワー」


******


(セシルの視点です)


 あれから5年の月日が流れ、私とアロイスは13歳になった。

 私はずいぶん背が伸びて165㎝になり、それから、ふふ、胸も段々大きくなってきたわ。母様もすごかったからね。まあ、あれほど大きくなると、戦闘時に動きが緩慢になりそうだから、ほどほどでいいんけど(笑)。

 アロイスは未だにチビで、まだ145㎝しかない。でも、短い金髪で、色白で、目鼻立ちが整っていて、すごく『中性の美少年』って感じ。学校でも男子にモテモテだ(笑)。

 

 ランドルフ私塾では、私が18歳クラスで、アロイスはもう最終学年の20歳クラスで勉強している。勉強というより、もう、先生やトップクラスの子と一緒に、政治、経済、軍事を「研究」している感じだ。成績はもはや学生のレベルを完全に超越してしまって、今では、先生方から意見を聞かれることも多いそうだ。

 だから、アロイスは、この春から、クラウス先生に代わって、6歳クラスと8歳クラスで、政治と軍事の基礎を教えるようになった。優しくて面倒見がいいから、小さい子から「アロイス先生!」と呼ばれて尊敬を集めている。


 父さんが学校で武術を教えているので、これまで学費は一人分だったんだけど、アロイスも幼年クラスの先生になり、ついに私たちの学費はタダになった。母さんも「助かったわ。学費高いもんねー」って喜んでいる。いや、でも、それ、私がアロイスのおかげで無償になったってことよね。特待生ってわけじゃないのよね。なんかちょっと複雑……。


 父さんは、相変わらずお城でゲルマー共和国軍の教官をしているんだけど、クラウス先生が掛け合ってくれて、少しずつお給料も上がって、来た時よりもだいぶ余裕が出てきた。日々の食べ物や着るお洋服も、ちょっとずつよくなってきた。


******


 そんなある日の夕方、その子と出会った。


 私とアロイスが、母さんに頼まれて、近くの市場で玉ねぎとニンジン、それと豚肉を買って、石畳の道を家に戻る途中、アロイスが、「ねえ、お姉ちゃん。あれ」って言って、顎で右の路地裏を指した。

 そのあたりは下町で、職人とか船乗りとか、比較的低所得の人が住んでるゴミゴミした界隈なんだけど、その路地の奥で、男の子が二人、誰かを足で蹴っているのが見えた。どうも女の子がうずくまって頭を抱えているようだ。

 アロイスは、眼を細くして、じっと視線を送って牽制したけど、二人が気付かずに女の子を蹴り続けているので、「お姉ちゃん、これ持ってて」と言って、私に野菜の袋を預けて、つかつか路地裏に入って行った。私も慌てて後を追う。


 アロイスは、女の子を蹴っている男の子の後ろに立ったと思ったら、腕をグっと掴んで、「やめろよ。可哀そうだろ」と、低い声で制止した。

 見ると、目の前で頭を抱えてしゃがんでいたのは、汗と垢が染みたような、薄汚れたワンピースを着た、金髪の女の子だった。

 

 腕を掴まれた男の子は、一瞬、その力強さにひるんで身体を固めたけど、振り返って見ると、自分より全然小さな男の子だったので、余裕が出たのか、却って怒りを助長することになってしまった。


 その子は、「なんだよ、チビ。お前、関係ないだろ。俺んちの話なんだよ」とすごんだ顔で言ってきたけど、アロイスは、「いや、もちろん関係はないんだが、こういうの見過ごす事ができない性分なんだ。その子、なんで蹴ってるんだよ」と睨み返し、一歩も引かない。


 男の子は、嫌な顔して横を向き、女の子を顎で指し、 

「こいつ、こないだ、エリトニーから母ちゃんと一緒に俺んちに来たんだよ。うちのお袋が親戚だったもんだからさ。だけどすっげー貧乏で、金も入れねえで、そのうち、母ちゃんがどっか逃げちまって、こいつだけ残されたんだ。捨てられたんだよ」って吐き捨てた。

 下で女の子が、顔伏せたまま、「ち、ちがうもん! お母さん、働いてお金送るって言ってたもん!」と、涙声で訴えてくる。

 男の子は、「うるせー! もう一か月も音沙汰ないじゃないか。どうせもう死んでんだろ! お前なんかな、親父もお袋も死んだ、孤児みなしごなんだよ!」って怒鳴って、アロイスに向き直り、「おかげで、ウチのお袋、夜も働きに出てて、俺たち二人も家の手伝いさせられて大変なんだ。こいつのせいなんだ。身体デカくて飯ばっか食ってさ。最悪だ!」と言い、もう一人も、同調するように、ウンウン頷いている。


 それを聞いたアロイスの眼がさらに険しくなり、

「貧しいことは恥ずべきことなのか? そうじゃないだろ? 貧しさに心が負けて、人を殴ったり蹴ったり、そういう人の道に外れることこそ恥ずべきなんじゃないのか?」って、おお、男らしい、アロイス、カッコいい! まあ、でも、納得しないだろうけどね……。


 そしたら、その子は、案の定、「うっせーんだよ、どチビ! 人んちの話に首突っ込むんじゃねえ!」と怒鳴り散らしながら、アロイスの胸倉を掴もうとしてきた。あー、これは一発でやられるわよ、気の毒に。

  

 予想通り、胸倉を掴むはずの手は虚しく宙を切り、アロイスは片手でその子の手首を折りながらサイドにくるっと回った。そして、相手の腕を背中にぐるっと回して(要するに片腕パロスペシャル)、首根っこを押さえ、しゃがみ込みながら腕を捻りあげた。

 「あっ! ううっ!」 腕がもげそうな激痛に耐えかねた男の子は、自ら一回転しつつ路上に身体を叩き付けられ、アロイスが素早く背中に乗って腕をカギの字にめつつ、顎を首の後ろに当てて完全制圧する。秒殺。3秒。


 それを見て、もう一人が、「な、なにやってやがる!」って、助けようとするので、私はその前を塞いで、でも野菜で両手が塞がってるから、仕方なく「シュッ!」と息を漏らしながら上段蹴りを繰り出し、ピタっとその子の顔前で止め、「邪魔しちゃダメよ」って、眼を細めてニコってしてやった。すぐにその子の全身からしおしおと力が抜け、戦闘意欲を喪失したのが伝わって来た。けど、これ、絶対パンツ見えてるわよね……。


「い、痛い。折れるう……」 アロイスに抑え込まれた男の子が情けない声をたてるが、「痛いか。そうだろう? だけど、その子の心はな、もっとずっと痛いんだぞ! 分かるか?」と、アロイスは容赦しない。

「分かったから。もうしないから、許して。ううっ!」って、ついにその子が泣き出したところで、ようやく制裁終了。


「もう二度とやるな。次やったら、僕がまた来るぞ」と声を掛けて、解放してやると、二人とも「うっ、うっ」ってな泣きながら頷き、「もうしない、もうしないけど……、俺たちだって苦しかったんだよ! そいつのせいで、貧乏になって、親父とお袋、毎日喧嘩ばっかりだし、俺たちにも当たられて、つらいんだよ! そういうのも分かってくれよ!」って、嗚咽とともに苦し気に絞り出しながら、二人でとぼとぼと路地の奥へと消えて行った。


******


 私が、「もう大丈夫よ。さあ」って言いながら、うずくまっていた女の子を助け起こすと、うわ、デ、デカい! なにこれ、私が見上げるくらい。180㎝近くある?

 だけど、淡く細い綺麗な金髪に、ブルーというより少し緑がかったエメラルドの瞳、スッと通った鼻梁に、真っ赤で小ぶりな唇。こ、これは超美人。色白長身の典型的エリトニー美人! なるほど。確かにこれはご飯も一杯食べそうだ。


 女の子は、眼尻から細く涙を流し、両手を胸の前に合わせて、「ありがとう。助けてくれて……。お兄ちゃんたち、すごく強いのね。びっくりしちゃった」って、頭を下げて感謝の言葉を伝えてきた。

「いや、いいさ。家で辛いからって、女の子殴るなんて、ひどい連中だ。当然の報いだよ」 そうアロイスが返すと、

「うん、いっつもこうなの。だけど、おばさんちも貧乏だし、子供たちが大変なのは本当なの。そこに私みたいな大きいのが増えちゃったから……。ご飯はほんとにちょっとだけしか食べてないんだけど……」と言いながら、長い金色の睫毛を伏せてうつむいてしまった。


 ん? だけど、さっきから、何、この匂い。汗と脂が混じったような、獣の臭い。ああ、お風呂入れて貰ってないのね。そんな余裕もないのか。あるいは遠慮しているのか。


 そしたら、アロイスが、

「あのさ、お姉ちゃん」って、こっち向いて、真顔で聞いてきた。

「何?」

「この子、一旦家に連れて帰ろう。今は、あの家に帰さない方がいいだろう。ぼくん家でさ、お風呂に入れてあげて、夕飯も食べて貰おう。同じエリトニーの子だし、父さんたちも分かってくれるよ」

「……そうか。うん、いいと思うよ。そうしよう」

  

 私がそう言って、ニッコリしながら、横目でその子を見上げると、びっくりして眼をまん丸にして、アロイスを見詰めていた。


 アロイスは、その視線を笑顔で受け止め、「それじゃ行こうか。僕はアロイス。こっちのお姉ちゃんはセシル。エリトニーの出なんだ。お城の近くに住んでた。君は?」と聞くと、その子はホッとしたのか、初めて笑顔を見せ、「私はステラ。エリトニーの港のそばに住んでいたの」って、教えてくれた。


 ステラ。いい名前ね。


 それを聞いて微笑むアロイスの横顔が優しく、そして凛々しかった。



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