第5章 オマケ三連発! 二人はおませさん?
その1 クラウス先生の思い出(アロイスの視点です)
ランドルフ私塾の午前の授業が終わり、お昼休みに入ったので、お弁当をもって14歳クラスにお姉ちゃんを迎えに行った。
そしたら、あれ、いないな……って思ったら、男の子に囲まれていた。10人くらいるな。中から、「えーっ? ちがうよー。もう、やだー(笑)」ってお姉ちゃんの笑い声が聞こえてくる。いやー、これはモテモテだなあ。すっごいチヤホヤされてるよ。お姫様だよ。いや実際お姫様なんだけどさ(笑)。
教室に入っていったら、僕に気付いて、「あ、アロイス。遅いよー」って言って、周りの男の子が、「お、来たな小悪魔!」って声を上げてる。
お姉ちゃんが、「これからお昼食べに行くから、みんなまた後でねー」って声をかけたら、男の子たちもニコニコして手を振り返していた。
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お姉ちゃんと中庭のベンチでお弁当を食べる。教室で食べてもいいんだけど、今日はポカポカ陽気だからね。初夏の乾いた風が、お姉ちゃんの細い黒髪を撫でていく。白い肌が陽光にキラキラしてる。ああ、これは本当の美少女だな。きょうだいながら、ポーって見とれちゃうよ。
寮の食堂でお昼を食べる男の子たちが前を歩いていく。なんか耳打ちしながら、口に手をあてて、こっちを見つめてる。
「ねえ、お姉ちゃん」
「ん、何?」
「お姉ちゃん、なんかすごいモテモテだけど、誰か好きな子とかいるの?」
「な、なによ急に?」
「いや、なんか、お姉ちゃんの取り合いになったりしないのかなって」
「うーん、みんなと仲いいけど、特定の誰かってのは、まだいないわね。……そうねえ、あえて言えば……」
「え? 誰かいるの?」
「うーん、……クラウス先生は好みかなー。ハンサムで、頭良くて、優しくて、しかもまだ独身だし」 そう言って、お姉ちゃんはちょっとうっとりした顔になって、青空を見上げた。
「そうなんだ。やっぱり血は争えないんだな」
「え? どういう意味よそれ?」
「いや、クラウス先生、母様と何かあったんじゃないかな。少なくとも仲良しだったんじゃないかな」
「何で、そんなの分かるのよ?」
「だって、母様と一緒にランドルフ先生に僕たちのこと必死で頼み込んでくれたらしいじゃない。まだ会ったこともないのにさ」
「‥‥‥そう言われてみればそうね」
「それに、他人の子供なのに、命がけで迎えに来てくれたじゃない。いくらクレマンさんと顔見知りだったって言ってもさ、矢が当たってたら死んでたんだよ」
「ああ、そういえば、母様が亡くなったこと知ったとき、『あううっ』って腰抜かしてたわね……怪しい……。まだ独身なのも母様が忘れられないからかしら?」
おっと、噂をすれば影。寮の食堂でお昼を食べに、クラウス先生が歩いてきた。
「おお、セシルとアロイス。今日は外でランチか。天気がいいから美味いだろう?」って、楽し気に声を掛けてきた。飛んで火にいるなんとやら。
「クラウス先生」
「何?」
「母様と昔何があったんですか?」
「な、なんだアロイス、急に……」
「いや、今、お姉ちゃんと話してたんですけど、クラウス先生、すごく優しくしてくれるなあ、命がけで助けに来てくれたし、きっと母様と、とっても仲がよかったんだなあって」
「いや、その、な、仲はよかったが、決していかがわしい関係ではなかったぞ!」 やっぱり怪しい……。二人で下からジトーっと見上げると、
「な、なんだその眼は? やましいことなど一つもなかった……ような気がする。いや、あれはやましいことじゃないのか? ん? どうだ? ううっ……」って、ヘドモドしてる。ますます怪しい。
そしたら、「そ、そういうことは、胸にしまっておくものなんだ。人には言えないんだ。な、内緒だ!」って言い残し、顔を両手で覆って、「キャーっ!」みたいな恰好で、ピューって走って行っちゃった。
「……クラウス先生。攻める方は得意かも知れないけど、防御にまわるとワヤワヤなんだね……」
「ほんとね。『キャー』だって。ふふ、ちょっと可愛らしいじゃない」
「あはは、ほんとほんと」
僕とお姉ちゃんは、そう言いあいながら、ランチの続きに取り掛かったのだった。
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その2 離婚危機? (セシル視点です)
ある日のお昼休み、お弁当を食べながら、私はアロイスに切り出した。
「ねえ、近頃、父さんと母さん、どうなの?」
「どうなのって、何かあった? いつも仲良しに見えるけど……」
「うん、そうなんだけどね、一昨日、私が夜トイレに起きたとき、寝室で父さんが母さんをいじめてる声が聞こえて来たの」
「え? ほんと?」
「うん。なんだか、母さんが、『いや』とか『ダメ』とか『もう許して』みたいなことずっと言ってるの。あんなことしょっちゅうあったら、絶対まいっちゃうわ。せっかく幸せに暮らしてるのに、両親が離婚なんて、私、嫌よ」
そしたら、アロイスが、なにか悪そうな顔でニヤニヤして、
「そうか、それは困ったことだなあ。すごく心配だから、クラウス先生に相談してみなよ」と言うので、
「えー、身内のことで恥ずかしくない?」って言ったら、
「大丈夫。クラウス先生なら、二人のこともよく知ってるし、もしかしたら仲を取り持ってくれるかもしれないよ。離婚の危機なんだから、一刻も早く聞いた方がいい」って、クスクスしながら勧めてきた。
って思ってたら、またお昼食べに向かうクラウス先生が! 丁度よかったわ。
私は、「クラウス先生ー!」って声かけて走って行った。
そして、「先生。相談したいことがあるんです!」って話し始めたら、クラウス先生の顔がみるみる青くなり、口を大きく開け、ついには両手で頭を抱えてしまった。すっごく分かりやすく苦悩している……。何、何なの?
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私は、デデデと走って戻り、
「ちょ、ちょっとアロイス! なんてことしてくれるのよ!」って、真っ赤になって怒ると
アロイスは、「ははは、ちゃんと教えてくれた?」って、シレっと返してきた。
「お、教えてくれたわよ! もう、恥ずかしくて、クラウス先生の顔見られなくなっちゃったじゃないの!」
「あはは、今日、お姉ちゃんも一つ大人になったね。まあ、誰しも通る道だよ」 そう言って、アロイスは口の端っこを曲げ、意味ありげにニヤっと笑った。
な、なに、この余裕。も、もしかして、もう経験済み? いや、まさか、9歳で?
しかし、アロイスなら分からないわよね……。
アロイス、我が弟ながら、おそろしい子!
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その3 面影?
「ランドルフ先生」 校長室で、クラウスが声をかける。
「なんだ?」
「セシルがまたクラスで一番を取りました。着実に伸びています」
「おお、そうか。頑張ってるな。家でアロイスから教わってるのもあるかもな」
「ええ、もうアロイスと同じ16歳クラスに編入していいんじゃないでしょうか。十分やっていけると思いますよ」
「うーん、まだ9歳だしなあ……」
「いや、だって、アロイスも同じじゃないですか。あんな大天才と一緒だから陰に隠れてますけど、セシルも相当ですよ」
「まあ、セシルもアロイスがいなかったら、我が塾のエースだったろうしなあ。生まれた時代が悪かったか」
「セシルもアロイスとクラスが分かれちゃって気にしてるみたいですから、一緒にしてあげましょうよ。きっとモチベーションもアップしますよ」
「そうか、まあ、じゃあ次にトップ取ったらあげてやるか。ほかの生徒も3連続なら納得だろう」
「はい、ありがとうございます! 本人も喜びますよ!」
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(セシルの視点です)
「セシル。今日はいいお知らせがあるよ」
「えー? なんだろう。何ですか?」
「うん、あさってのテストでまたトップだったら、16歳クラスに上げてくれるって、ランドルフ先生が言って下さったよ。僕が頼み込んだんだ」
「ええっ? ほんとですか? うれしー! 先生ありがとうー!」 私はそう叫んで、片足折って、ピョンってクラウス先生の首に飛びついちゃった。周りのみんながビックリして眼をまん丸にしてる。
「こ、こら、セシル。何をしてるんだ。みんなが見てるだろ。離しなさい!」って、先生がどぎまぎしているのが伝わってくる。ふふふ、やっぱり守りはユルユルなのね。可愛いじゃないの。
「嫌よ。こんなチャンス滅多にないからね……」 ふふ、今の私、黑薔薇じゃなくて、小悪魔かしら?
あれ? 先生がなんかピタって動けなくなってる。ああ、私、髪色以外は、ほんとに母様にそっくりだから、思い出しちゃったのかしら? ……もうー、やっぱり母様といろいろあったんじゃない。
私は、そう思ったら、なぜか、胸が一杯になっちゃって、何も言えなくなって、クラウス先生の首に掻き付いたまま動けなくなっちゃった。
え、私、どうしちゃったんだろう?
周りで、男の子たちが、「うわー、なんだ。クラウス先生と黑薔薇が抱き合ってるぞ」って言いながら、遠巻きに見てる。
でも、これ、なぜか、離したくないの。
抱き着いた先生の首筋からは、清潔な、せっけんの匂いがした。
いつまでも、こうしていたい。くんくん。素敵。




