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第5章 第2話 そして天才はもう一人。~戦術編~

(本話はアロイスの視点です)


 「撃てっ!」 弓術師範の声と共に、50人のロングボウの射手が矢を放つ。

 

 50羽の鳥の群れは、25度の角度で一斉に飛び出し、高速で真っすぐ空の彼方に昇っていく。

 そのままどこまでも飛んでいくように錯覚するが、やがてわずかずつ速度が衰え、頂点に達した後、綺麗な放物線を描いてスーッと落下していく。

 そして、250m先に置いた10m四方のまとに、「タタタンっ!」と突き刺さった。


「わあー、すごーい! お見事ーっ!」って、お姉ちゃんが眼を輝かせてパチパチ拍手している。師範と射手たちも「へへっ」って、まんざらでもなさそうに笑顔を向けてくる。


 だけど、見たところ、半分も当たっていない。ロングボウの最大有効飛距離では、このくらいの命中率か。ピンポイントでは狙えない、面で攻撃する手段なんだな。それでもこの距離を空中から攻撃できるのは、すごいことだ。現代における最強の武器と言われるのが良く分かる。


 その10秒後、もう一度、一斉に矢が放たれる。が、今度は一本も当たらない。全部左にれた。これは風だな。鉄製の矢じりがついているとはいえ、わずか80gの矢では、上空の風の影響が大きい。

 

 その後、距離の異なる的を狙って、10秒ごとにあと8本放ったところで、射手が交代して一休み。今使っている弓長1.8m(最大クラス)のロングボウの張力は約50㎏。筋骨隆々の大男でも、10本が限界だ。


******


 今日は、前々から父さんとクラウス先生に頼んでいた、ゲルマー共和国軍の演習場の見学に来たんだ。もちろんランドルフ先生も一緒だ。


「二人とも、ロングボウを見るのは初めてか?」 そうランドルフ先生が声を掛けてくる。

「はい! すごい遠くの的を狙えるんですね。私、びっくりしました。感動しました!」って、お姉ちゃんが頬を紅潮させ、嬉しそうに答える。

「アロイスはどう思った?」

「素晴らしいです。これだけ遠方を攻撃できるのは他の武器では不可能です。……ですが」

「ですが?」

「思ったより当たらないですね。風の影響も大きいし、ピンポイントでは狙えない。だから、密集した大軍を遠くから攻撃するという一点に特化した戦術になりますね。それに、クラウス先生、これ、鋼鉄のプレートアーマーは貫通できないですよね」

「ああ、無理だな。鎖帷子くさりかたびらも無理だ。だから主には軽装歩兵をどれだけ削れるか、という使い方になるな」

「やっぱりそうなりますよね。あと、体力も続かない。だから、例えば1000人のロングボウ部隊を2つ作って、それぞれが10射交代で撃つとか、そういうやり方になりますか」

「もちろん、そういうことだな」

「ゲルマーは軍隊の兵数が潤沢だから、それができるけれど、エリトニーは……」 そう言って、僕は頬に手を当てて「うーん」って考え込む。


 そしたら、ランドルフ先生が、「ふふ、小悪魔アロイス。何か考え付いたか?」って聞いてきたので、「‥‥‥はい、見ていて思ったのですが、射手の右腕や右肩ばかりが発達して、左はお留守になってますよね。まるでシオマネキみたいです。あれは、利き手で放っているからですか?」と答えると、「そうだな。どうしても使わない方は発達しないからな」とのことだった。


「であれば……」 僕は、ランドルフ先生を向いて、「現実的かどうか分かりませんが、身体の大きな力自慢を選抜して、全身均等に鍛えあげてロングボウ部隊にすれば、左右どちらでも撃てるわけだから、休む必要がなくなります。右で10本撃ったら、左にスイッチすればいいんですし、その間右が休めます。効率二倍まではいかないかも知れないけど、連続発射が可能になるんじゃないでしょうか?」と考えを述べた。

 

 ランドルフ先生は、「うーん……」って言って考えこんで、「それは考えたことがなかったな。なるほど、さすがだ。まあ、ロングボウは習熟が必要だから、二倍の訓練が必要になるわけで、お前の言う通りどこまで現実的かは分からないな。だが、確かに、人材が少ないなら試してみる価値はあるかも知れない」と、しきりに感心していた。


******


 次に、ボウガン(ライフル状の台座の上に、弓を横に張った武具。「クロスボウ」とも言う)の射撃場に移動して、練習風景を見学した。

 ボウガンの有効射程は約50mから70m。こちらは、照準で狙いをつけて、ピンポイントで狙う。さすがに、熟練した射手の矢は、スーっと糸を引くように50㎝程度の的に吸い込まれていく。この距離ならそれほど風の影響もないだろう。


 が、撃ったあとに、弓を足で押さえてつるを引っ張るか、もしくは付属のハンドルをぐるぐる回してコッキング(引き金に弦をセット)する必要があるので、次の矢を放つまで30秒はかかる。ならば、正確性では劣るが、昔ながらの短弓の方がずっと機動的ではある。


 そしたら、弓の師範が、「二人も撃ってみるかい?」って聞いてきたので、口を揃えて「えっ? いいんですか? 是非!」って答えて、一番近い20mの的に撃たせてもらった。

 最小サイズのボウガンでも、僕たちじゃセットできないので、師範がセットしてくれて、「手前に付いてる照準装置が谷、先端に付いてるのが山になっているから、この二つを合わせたのが真っすぐだ。よく狙ってやってごらん」と言うので、そのとおりにまず僕がやってみたが、あらら、的の1m以上も右に逸れて、砂に突き刺さった。もう一本、もう少し調整してやってみたら、今度は左に外れた。20mでもこれか。僕じゃ使い物にならないな(笑)。

 

 師範が、「あはは、初めてじゃこんなもんだろ。仕方ないよ。今度はお嬢ちゃんやってみな」って言って、お姉ちゃんに渡してくれて、お姉ちゃんは「えー、どうかなー。緊張するなー」って言いながら、片目をつぶって狙いを定めた。おお、なんか妙に様になってるぞ。


 そして、ボウガンがピタっと止まった瞬間、「カシュッ!」と発射された矢は、地を這うような弾道で飛び、「タンっ!」と小気味良い音を立てて、的の真ん中、直径5㎝の黒丸に突き立った。「!」 見ている全員の眼がまん丸に見開かれる。


「わー、すごいー。真ん中に当たったー! 楽しーっ! もう一本!」 そう言って、お姉ちゃんが放った次の矢も、さも当然のように「タンっ!」と、中心の黒丸に突き立った。


「……お嬢ちゃん。ちょっと、50mの的でやってみよう」 驚いた様子で師範がそう言って、50mの的に移動して、もう一度撃った。が、さすがに今度は命中せず、的の下の砂にブスっと突き立った。でも、真っすぐ的に向かって飛んではいる。

 師範は、「ああ、距離が伸びたからな。言い忘れてた。ごめんな。距離は照準で調節するんだ。先端の山に目盛りがついているから、この距離だと二つ目の目盛りと谷を合わせて撃つんだ。要するにちょっと上に向けて撃つんだな」と言うので、お姉ちゃんが、「はい! 分かりました!」って言って、再びボウガンを構える。


 そして再度「カシュ!」と放たれた矢は、真っすぐに飛び出し、ほんの少し高度を下げながら、またも的の真ん中に「タンっ!」と突き立った……。

 周りで見ていた射手から、

「うおー、なんかすげーぞ。あのお嬢ちゃん何者だ?」

「あ、マチアス先生の娘さんか、どうりで!」

「こりゃ美女狙撃手スナイパーの誕生だぜ!」って声が飛んで、パチパチ拍手が湧く。お姉ちゃんはニッコリして、みんなに手を振って応えて、父さんも胸を張って嬉しそうにしていた。


 クラウス先生が、「セシルすごいな。‥‥‥師範、こんなの見たことありますか?」と聞くと、師範は「うーん」ってちょっと考えたあと、「いや、記憶にないですね。ボウガンは弓より習熟が早いのは確かですが、それでもこれは……持って生まれた特別な才能と言わざるを得ません。もし軍人になるなら大事に育てたいですね」と返してきた。


 そうなのか。お姉ちゃん、弓の天才かも知れないのか。ふーん、それじゃ、


「クラウス先生?」

「なんだ、アロイス?」

「最も強力なボウガンでは、例えばこの50mの距離で、装甲を貫通しますか?」

「いや、しないな。かなりのショックは与えるだろうが、装甲には無力だ。鎖帷子なら近距離で穴が開くかもしれないが」

「では、特別に作ったら? 例えば5mぐらいのボウガンを作って、鋼鉄の矢を使ったら?」

「それなら余裕で貫通するだろうが、そんなのどうやってセットするんだ?」

「兵士が何人かで弦を引くか、大きなハンドルを回せば可能です」

「そうかも知れないが、時間かかりすぎだろ。一射一分くらいかかるんじゃないか?」

「ですから、巨大ボウガンを乗せた架台を何台も作って、狙撃手が移動しながら使うんです。その間にまたセットすれば、連続狙撃が可能になります。装甲を着けた馬上の指揮官をピンポイントで狙えます。例え数人でも指揮官を失ったら、歩兵の統制は大混乱ですよ」

「……お前もすごいこと考えるなあ(呆)。確かに、超優秀な狙撃手スナイパーがいて、相手の前線に大物が出てきたら、それ、やってみたくなるな。ロマンのある戦術だ(笑)」


******


 最後に、「最近編成したばかり」という、マスケット銃(マッチロック式。いわゆる「火縄銃」)部隊の練習風景を見学した。

 マスケット銃の射程は約150m。射手が銃口から粉火薬を入れ、丸い鉛の弾丸(1.75㎝)を付属の棒で、ギュウギュウに詰め、狙いをつけて引き金を引くと、火種が降りて点火し、「シューっ」って煙と火が上がった一瞬後に、「パンっ!」と弾丸が発射された。近くで見るとすごい迫力だ。

 試してみたかったけど、重くて反動も大きく危険なので、さすがにこれは撃たせてもらえなかった。


 が、見ていてもなかなか当たらない。たかだか50m先の人型の的なのに、10発に1発くらいしか当たらない。弾丸も右に左に曲がって、正直どこに飛ぶか分からない。

 なので、「ランドルフ先生。これでは狙撃で使えないですね。発射間隔も1分くらいかかるし」と声をかけた。

「そうだな。まだまだ実践ではロングボウの方が上だ。もし現状のまま使うなら、アロイスはどうする?」

「そうですね……。貫通力はどのくらいありますか?」

「50mなら薄い装甲は突き抜けるな」

「ならば、何百丁も用意して、三分割して、交代で連続射撃するほかありません。狙って当たるものではないので、防御用の柵を作って、殺到する敵をせき止めて、隙間から撃つのがよいでしょう。ただ、それだと隙間からロングボウを放った方がずっといいかも知れませんね。その距離なら装甲を通るかも知れませんし」

「その通りだな。だから、マスケット銃に関しては、まだまだ研究開発の余地がある。一丁100万ゴールドもして、単一素材(ニレ材)のロングボウの10倍もするし、経済効率から考えても、実用にはまだ程遠いな。アロイス、お前、銃の改良と戦術を少し考えてみたらどうだ?」

「なるほど。これは確かに興味深いですね……。考えがいがある」 そう答えて、僕は、手を口にあて、銃器の未来について思いを馳せたのだった。


 いやあ、しかし、今日は本当に勉強になった。見学の最後に、僕とお姉ちゃんは、父さん、クラウス先生、ランドルフ先生に、「すごく楽しかったです。勉強になりました。また是非見学させてください。あと、もっと大きくなったら、訓練にも混ぜて下さい!」って、頭を下げて、頼み込んでおいた。


******


 僕は、家に帰って、晩御飯を食べた後、予習を早々に済ませて、紙を綺麗に丸く丸め、壁に向かって何度も何度も投げた。1何時間も2時間も投げ続けた。

 

 結果、丸い玉は、軌道が安定しないのが分かった。右にも、左にも、下にも落ちる。これが、マスケット銃が安定しない要因か? 空気抵抗か? 


 右手首をひねって、横回転をかけると、必ずカーブする。逆はない。安定している。

 紙玉を丸ではなく、細長にしても安定する。まっすぐ飛ぶ。


 形状と回転……このあたりがヒントなのか?


 お姉ちゃんはすやすや寝てしまった。まったく、自分の才能に気が付いてるのかなあ(笑)。

 だけど、お姉ちゃんが本物なら、戦場でこの異能を活かしたい。強力なボウガンと銃器を、この天才狙撃手スナイパーに持たせたい。

 

 ああ、僕も眠くなってきた。そんな夢みたいなこと考えてないで、また明日から武術と勉強頑張ろう。


******


 この時には、僕も全然想像していなかったのだけれど、そのアイデアは、後に「黒薔薇セシル」を人間兵器にした狙撃チーム、「ブラックローズ」として世に出ることになった。そして、圧倒的な命中率で独立戦争を席巻し、敵指揮官を戦慄させることになったのだった。


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