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第5章 雌伏の時 小さな天才よ牙を砥げ! 第1話 武術編


 ゲルマーに来てから3年が経ち、私たちは8歳になった。

 

 私は、身体の成長が早くて、もう145㎝になり、同じ年代の女の子の中でも相当大きい方だ。アロイスは、相変わらずチビで、125㎝しかない。だけど、本人はあんまり気にしていないみたいだな。男の子は、10歳過ぎたら、どんどん背が伸びるしね。


 今でも、毎朝お散歩して、お城の前の芝生で、父さんから武術の稽古をつけて貰っている。

 まずは体術から。蹴り、突き、倒してグラウンドの攻防、関節技から頸動脈を締めるチョーク。流れるような動きで、延々、10分、15分とスパーリングが続く。

 アロイスより私の方がちょっと強いのよ(笑)。サイズが全然違うからね。


 だけど、残念ながら、勉強ではもう全然敵わなくなっちゃった。アロイスは今、16歳のクラスで勉強していて、それでも3本の指に入っているそうだ。私は、ついにアロイスとクラスが分かれてしまって、今14歳のクラスにいる。それでも異例のことなんだけど、早く同じクラスにあがりたい。くやしいな。

 

 そしたら、今日は、体術の稽古の最後に、父さんが、

「二人とも、もう体術の基礎がほぼ身に着いたな。相手が14~5歳くらいまでなら、まず負けることはないだろう。だけど、戦場では丸腰で制圧しあう場面は殆どないから、普段何かあったときの護身術の意味合いが大きいな」って言って、続けて「なので、金的と目つぶしも覚えておいた方がいい」って言ってきた。


 私が、「でもそれって、試合じゃ反則よね。一発で負けになるし、卑怯な手じゃないの?」って聞くと、父さんは、「戦闘の場面では、卑怯も何もない。生き残った方が常に正義だ。特に、セシルは女の子だし美人だから、使いでがあるぞ。相手も油断するからな」って、ニヤッと笑って返してきた。


「だからな。こうやって、掴まれたら」って言いながら、父さんが私の肩をガシっと握って来て、「ここで、顔を見上げて、思わせぶりにニッコリして」って言うので、父さんを見上げて、小首傾げてニコっとしたら、「おお、いいなー。そこで金的を膝でガッと蹴り上げるんだ」なんて乗せるものだから、私、笑顔のまま、反射的に「ガッ!」って、膝を蹴り上げちゃった……。


 そしたら、「アオっーーーーーーーっ!」って、父さんが悶絶して芝生に倒れこみ、アロイスが「お姉ちゃん、なんてことを!」って叫んで、慌てて父さんを介抱する。

 私も両手で顔を覆って、「ああっ、父さん。ごめんなさい! つい、身体が勝手に!」と声を掛けて父さんの肩に手を置くけれど、父さんは「うぐぐぅ……」と息を漏らして、額から脂汗を流すばかりだ。アロイスは、父さんの腰に手を当ててトントンしている。……それ、一体何の意味があるの……?

 

 父さんは、その後、5分ほど戦闘不能だった。こ、こんなに効くんだ、金的。これは確かに有効な攻撃ね……。

 父さんが回復したところで、「本当にごめんなさい。つい勝手に身体が動いちゃったの……」って、顔の前で両手合わせて涙声で謝ると、「いや、いいんだ。俺も、そういう動きを誘っちゃたしな。反射的に膝蹴りが出たのは見事だったぞ。女子はどうしても腕力が足りないから、これもちゃんと練習しておこうな」って、怒りもせずにニコニコして答えてきた。


 父さん、どこまで優しい人なんだろう。私、感動しちゃった。


******


 体術の稽古のあとは、いつもと同じ、ダガー(両刃の短剣)の練習をした。

 母様からもらった、エタン(エリトニーの伝説的刀匠)のルビーとサファイアがダガーなので、将来使うために毎日練習している。エタンは刃渡りが25センチもあって、まだまだ持てないから、今は木で作った模造刀で練習している。

 

 父さんによれば、「ダガーは両刃だから、順手、逆手、右手、左手で、さやからどう抜いても即時に攻撃可能だ。取り回しの良さがメリットだな。だけど、仮に戦場に出たら、アロイスは司令官になるわけだし、セシルも部隊の指揮官になるだろうから、ダガーを握って戦う場面はないな。というか二人がダガー使ってる時点で、その戦はもう負けだ。だから、これも普段使いの護身用だな」ということだった。


 もう3年も練習してきたから、突きも斬りも受けも、順手逆手の握り替えも自由自在だ。まるでペアでダガーを手にくるくる舞っているかのようだ。父さんも満足そうに二人のかかり稽古を見つめている。


 しばらくしたら、「やめっ!」っと制止の声が掛かって、「うん、二人とも相当よくなったな。特にセシルは背も高くなってきたから、ダガーだけじゃなくて、そろそろ次の武具の練習もしてみよう。今日はこれ、お城から借りてきたんだ」って言って、長い棒のような武具を見せてくれた。ああ、これ、来るときから気になってたんだ。私の身長よりちょっと長いくらいだから、150~60㎝くらい? 先端に50㎝くらいの木製の片刃が装着されている。

 

「父さん、これは?」

「長刀。東洋で使われている武具だな。薙刀なぎなたとも言うな。主に女性が使う武具だ。両手で扱うからそれほど腕力が要らないし、何より長いから、遠い間合いから足を狙えるのが最大のメリットだ」

「なるほど。でも、後ろの敵は? 刃がついてないけど?」

「その場合には、石突いしづき(刃のついていない側)で突くか、クルっと手を入れ替えて反転する。複数に囲まれても、油断してる相手なら、一瞬で回転して全員の足をげるぞ」

「それは確かに強力ね……」

「そう、俺は、個人的には最強の武具じゃないかって思っている。但し……」

「但し?」

「その間合いの長さがそのまま弱点だ。搔い潜って懐に入られたらもう切れない。やりたい放題だ」

「そうか、そうなるのか……」

「だから、そのためのダガーだな。腰に差して、接近戦で使うといい。薙刀と短刀の二刀流は強力な組み合わせだぞ」


******


 父さんから、握り方を教えて貰って、すっと中段に構えたら、「剣やダガーと同じく、型は『米』の字に振るんだよ」と言うので、そのとおりに、突き、袈裟切り、そのまま切り上げ、横一文字、それから手をスライドして左右を持ち替え、もう一通り。最後に、「ビッ!」と横にはらって、これで「米」の完成。


 すっと背筋を伸ばし、凛々しい表情で正面を見据え、中段の構えに戻る。


「おー、かっこいいー。お姉ちゃん、綺麗ー!」って、アロイスが声を上げ、父さんと一緒にパチパチ拍手してくれる。ふふふ、褒め上手だな。気持ちよくなっちゃうじゃない。


「父さん、両手だからだと思うけど、これとっても振りやすいわ! 私にピッタリな武具だと思う。ありがとう!」って、薙刀あげてピョンピョンして喜ぶと、「そりゃよかった。まだ身長が低いからそんな長さだけどな。本当は210㎝(七尺)あるんだよ。身長に合わせて、重さも長さも変えていこう。セシルが使ったら、きっと『黒髪の美女剣士』って感じで、カッコいいだろうなー」って、ポーっとなってる。まったく親バカだなあ(笑)。


 それで私、嬉しくなって、ちょっと調子に乗っちゃって、

「父さん。私、これでアロイスと試合してみたい! 実戦のつもりで真剣勝負で!」って言ったら、アロイスは、ちょっと困惑した表情になって、「えー? そんな長尺相手に勝てっこないよー。それにお姉ちゃん相手に真剣勝負なんて、やりにくいし……」って返してきたので、「アロイスは長刀の相手初めてだろうと思うけど、私も使うの初めてだから、条件一緒でしょ? ね?」って言いながら、ニッコリと父さんを見あげたら、「へー、面白そうじゃないか。アロイス、やってあげたらどうなんだ?」って、ニヤニヤしながら言ってきた。


 アロイスは、「えーっ? うーん。‥‥‥それじゃ、ほんとに一回だけだよー」って、憮然とした顔で上着を脱いで、模造のダガーを渋々腰から抜いた。


******


 お互い正対して礼。

 「それでは、始め!」の声と共に、私は左足を前に出し、薙刀で正眼の構え(中段)をとる。切っ先はアロイスの喉に向ける。アロイスはいつもと逆の左手でダガーを構えている。

 アロイスは、必ず接近戦を狙うはずだ。間合いを詰めて、薙刀を握って、ダガーで切りつけてくる。

 だから突きはダメだ。ギリギリで避けて飛び込んでくるだろう。その前に足を薙ぎたい。

 そう思って、アロイスのダガーの動きを注視したとき、右手から「バッ!」と何かが飛んできた。


「!」 砂だ! 目が!


 「うっ!」って、私が視界を失った瞬間、アロイスが左に回り込んだ気配がした。

 私は目をふさいだまま、咄嗟に左下を「シっ!」っと横に薙いで、右に跳ね退いた、よし、手ごたえがあったぞ。やったか?


「そこまで! 勝負あり!」 父さんから声が掛かる。ふう、なんとかなった。まったく、卑怯な手を使うんだから!


 私が目を擦って、見てみると、「何っ?」、私の左には、アロイスの投げた上着が落ちていて、そして、背中から、模造刀を突きつける感触が伝わって来た……。


「アロイスの勝ち。まさに秒殺だったな。お見事、さすがだ!」って、父さんが感嘆の声を上げる。


 私、礼をするのも忘れて、短刀を突きつけたアロイスに、「な、なにそれーっ! ずるいーっ! なんて卑怯なの!」って詰め寄っちゃった。アロイスは、眉を寄せて困った顔して、「お姉ちゃん。さっき父さんも言ってただろ。戦場では卑怯も何もない。生き残った方が正義なんだよ」って言ってきた。


「だ、大体、あんたいつから砂なんか握ってたのよ!」

「どこで何があるか分からないから、いつもポケットに一握り入ってるんだよ」

「な、なんですってーっ! も、もう一回やりなさいよ。今度はちゃんと、正々堂々とやりなさい!」


「嫌だよ。さっき一回きりって言っただろ。僕は、お姉ちゃんと真剣勝負したくないんだよ。練習でいろいろ場面を想定しながらやるのはいいんだけど」

「どうして!? 次やったら負けるからでしょ? 怖いんでしょ?」

「ちがうよー(困)」

「じゃなに?」

「分からないの?」

「分かんないわよ。はっきりいいなさいよ!」


「だから……お姉ちゃんは……もう、死んだんだよ。今、僕に殺されたんだ。『次』は、もう二度とないんだ……」

「なっ……!」


「ほらほら。お前たち、もういいだろう。並んで礼しろ」 父さんがなだめてくる。

「ううーーっ!」

「セシル。よく分かっただろう? 本当の強さとは、これなんだ。絶対に負けない強さ。お前もこうなれるように一緒に頑張っていこうな」って、頭を撫でながら優しくさとしてくる。


 父さんは、最初からアロイスが勝つって分かってたんだ。調子に乗った私の鼻を、ポッキリ折って来たんだ。


 私、それが分かって、一遍に力が抜けちゃって、「えふっ、ぐすっ……」って芝生にへたり込んで、女の子座りしながら、

「わーーーーーーん! くやしいー! わあーーーーーーーーーん!」って、両手を眼に当てて大泣きしちゃった。


 父さんとアロイスは、困った顔で、頭を搔いていた。


******


 次の日、父さんがお城に出たあとで、母さんが私に手招きして「セシル、ちょっと……」って聞いてきた。なんかちょっと怒ってるみたいだ。


「セ、セシル。あんた昨日、父さんに何したの!?」

「‥‥‥何って、何かあったの?」

「と、父さんが血を出したのよ!」

「血? なんでだろ?」

「こ、心当たりある?」

「血って……それ、どこから? 何してるとき?」


 そしたら、母さんは、急に顔真っ赤にして、プルプルして、

「も、もういいわ! 次から気を付けるのよ!」って言って、プリプリしながらお台所に行っちゃった。


 ……なんだか、ワケ分かんない(笑)。


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