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第4章 第2話 エリトニー史上最強兵士の実力

~ このエピソードの登場人物 ~

 

・ イワン

 ゲルマー防衛軍の下級兵士。鍛え上げられた素晴らしい肉体美の持ち主。剣術よりも格闘技に優れ、まだ若いが「ゲルマー最強」の呼び声も高い。後のエリトニー独立戦争時の、重装《《歩》》兵軍団団長。黒い甲冑の重装歩兵は、その怪力と迫力で「ヘラクレス軍団」と呼ばれ、ホランド軍を恐怖のどん底に陥れた。賢さに少々難があるが、気の良い好人物。182㎝、90㎏。22歳。


******


(マチアスの視点です)


 俺は今、ゲルマーの軍服を着て、クラウスさんと一緒に、城内の道場に立っている。

 目の前には20人ばかりの兵士が道着を着て並んでいる。 

 

 今日は、俺の武術教官としての勤務初日だ。

 本職の装甲騎兵だけでなく、剣術、槍術、弓矢、体術、その他戦場で必要なスキル全般を教えることになっている。

 もっとも、剣術と体術については、もともとの師範がいるので、俺は副師範という立場で技術的な補助を行うことになる。

 

 クラウスさんが、「こちらが今日から皆の稽古をつけてくれるマチアス先生です。『エリトニー史上最強の装甲騎兵』と名高い、卓越した実力の持ち主です。必ずや、ゲルマー軍の戦闘スキル向上に寄与してくれると確信していますので、皆さんしっかり吸収して下さい」と紹介し、全員が拳をクロスさせて「押忍!」と声を上げる。

 

 いやいや、クラウスさん、それは褒めすぎだよ。やめてくれ。俺の隣に立ってる、50絡みの師範が、苦虫をかみつぶしたような不興顔になってるじゃないか。

 これはアレが来るだろ、きっと。


 すると、師範が俺を見て、「マチアス先生。先生のような素晴らしい実力者にお出で頂いて光栄です! これからも宜しくお願いします!」と、一応は笑顔で俺を立ててきたが、続けて、「しかし、この兵士たちは、先生がどのくらいの技量の持ち主なのか、『エリトニー史上最強』というのがどんなに強いのか、半信半疑だと思うのです。そこで……」と俺の顔を覗いて言ってきた。


 ああ、やっぱりな。師範と模擬試合するんだな。

 仕方ない。それじゃ、序盤は俺が追い込んで追い込んで、最後は師範の熟練のスキルでギリギリ逆転されて、「参りました。まだまだ私も精進が必要だと痛感しました。これから宜しくご指導ください」ってことにするか。最初に花持たせないと、後々面倒だからな。


 ……と、思ったら違った。師範は、「では、イワン、前に」と声を掛けて、すぐにガッシリした大男が前に出てきた。予め言い含めてあったんだろう。

 「マチアス先生。このイワンは、若いのですが、体術が得意で、ゲルマー兵士の中で最強と言われています。先生は体術は必ずしも専門ではないと思いますが、一つ、お手合わせを願えますでしょうか」ということだった。

 

 なるほど。期待のホープと組ませて、俺が勝ったらラスボス戦か。いいだろう。イワンに負けてるようでは体術の副師範から外されそうだし、一丁本気でやらせてもらうか。


 俺は、師範を見て、

「師範。実戦形式で、本気でやっていいのですか」と聞くと、

「もちろんです。そうでなければ戦場で役に立ちませんから」

「では、頭への打撃はOKなのですね。あと寝技と関節技も」

「はい、結構です」と返してきた。へー、ずいぶん余裕見せてくるなあ。


「じゃ、金的と目つぶしは?」

「それはご遠慮下さい。稽古ですから」 なんだ、そうなのか。実戦形式じゃないのかよ。戦場なら、まず金的か目だろうに。

「分かりました。大事な兵士ですものね。では道着に着替えるので、少々お待ち下さい」


******


 道場の隅で道着に着替えて、そのあと軽くウォーミングアップ。久しぶりに格闘技をやるな。

 そう思って、シャドーで、突き、蹴り、を繰り返す。大丈夫、ちゃんと脚は上がる。

 俺は、「シッ!」と息を吐きながら、ハイキックを何度も何度も、感触を確かめるように繰り出す。イワンに印象付ける。俺は、手足が長いからな。イワンは当然打撃を警戒するだろう。ジャブみたいな前蹴りで牽制しながら、左右の突きで組み立てると思ってるだろうな。


 見たところ、イワンは180㎝をちょっと超すくらい。俺とは20㎝の身長差がある。体重は俺より少し重そうだな。それにしてもすごい筋肉だ。捕まったらヤバいぞ。俺の打撃をかいくぐって組み付いてくるのは間違いない。


「さあ、先生。そろそろ始めましょう」 師範が声を掛け、俺はイワンと正対する。その周りをずらりと兵士が取り囲んでいる。


 俺は、穏やかな顔で、上からイワンを観察する。イワンは口元にちょっと不敵な微笑みを浮かべているが、特に虚勢を張っている感じはしない。なるほど、こいつは相当やるな。


******


「始めっ!」


 そう声が掛ったとたん、俺は、全身から闘気を解放する。背中から紫色の強者のオーラを立ち昇らせる。一瞬で、イワンの眼が余裕から警戒に変わった。「ヤバい。これは強いぞ」と。


 開始1秒


 俺は、いきなり一歩踏み込んで、「スっ」っと身体を左に回し、一回転しながら後ろ上段回し蹴りを放つ。まあ、まずはこけおどしだな。だが、俺の足は長いから、想像以上に伸びたのだろう。イワンは、スウェイバックして避けたが、「ビッ!」と鼻先をかすめた。イワンの上体が反り返り、大技の打ち終わりなのに、奴はタックルに入れない。


 2秒 


 俺は、回転して着地した姿勢で、イワンの眼を見つめながら、一瞬だけ右半身を斜め上に「ピクっ」っとさせる。さっき、散々見せた、右ハイキックの気配。イワンは、思わずハイガードを固めてブロックする。


 3秒


 が、キックは飛んでこなかった。俺は、既にその時イワンの腰にタックルをかましていた。姿勢を低くして、後ろ足で踏み出しながら、左肩を思い切りみぞおちに打ち込み、首はもう背中に抜けて、イワンが仰け反ったところを両手で脚を思い切り刈り取る。


 4秒 


 俺がイワンをマットに押し倒すと、奴は腹部に重いダメージを負ったのだろう、すぐに裏返って両手両足を引っ込め「亀のポーズ」を取り、回復を図る。俺は素早く起き上がって、足を振りあげ、イワンの脇腹にサッカーボールキックを蹴り込む。骨が折れない程度に、加減して。


 5秒 

 

 その衝撃にイワンが「ぐはっ」と身体を緩めたところで、瞬時にイワンの上にかぶさり、袈裟がけの羽交い絞めにして、足を絡めながら裏返す。右腕は抜け目なく顎の下に通した。


 6秒 


 裏返されたイワンは、俺の左腕が脇から抜けないように抵抗するが、俺が後頭部に「ゴッ!」と一発頭突きをかますと「ぐっ」と声を立て、力が抜ける。


 7秒


 左腕を抜いた俺は、そのまま首に巻き付けた右腕と交差して、絞るように頸動脈を締め上げる。完璧に極まったチョークスリーパー。これはもう逃げられない。


 8秒、9秒


 あれ、タップ(参ったのサイン)しないな。


 10秒


 そこで俺は腕を解いて、イワンを解放する。


「先生! まだイワンはタップしてませんよ!」 師範が俺に声を掛けてくる。


「いや、もう、落ちてます」 俺は、息も乱さず、起き上がって道着を整える。


 まさに秒殺。ゲルマー最強の男イワンは、何もさせて貰えず、仰向けになって鼻血を流し、口からよだれを垂らして、気絶していた。


******


 俺がイワンの両腕を取って背中に膝をあて、「ウっ!」と気を入れると、イワンは「うーん……」と言いながら意識を取り戻し、「あれっ?」って周りをキョロキョロした。


 イワンが俺を見上げて、「俺、負けたんですね?」と聞いてくるので、「ああ、10秒でな。だけど本当は5秒だ。実戦なら内臓破裂で終わってた」と答えると、「5秒……」と、肩を落とし、眉をハの字にして、しょげかえっているので、「はは、お前、力はあるんだけどな、基礎が全然できてない。ハイガード取ったときに、タックルに備えて膝蹴りしておくのは鉄則だぞ。まあ、これから俺がみっちり教え込んでやるよ」と笑いかけ、肩を貸して「よいしょ」って立たせてやった。


 向かい合ったところで、師範の、「礼!」の声が入り、お辞儀をして試合終了。

 期せずして、道場内から、

「おおーっ! マチアス先生、つえーよ!」

「あんなでけーのに速えーなー。かっけー!」

「すっげー。イワンが秒殺だぜ! こんなの初めて見た!」という声とともに、大きな拍手が沸き上がった。


 はは、まあ、デモンストレーションとしては十分だったかな。かっこいいところを見せられてよかった。


 そしたら、師範が、「先生、今日は本当によいものを見せて頂きました。これからも宜しくお願い致します」と握手を求めてきた。

 あれ? このあと師範と対決するんじゃないのか。‥‥‥あ? さては逃げやがったな。まったく、小っちゃい男だぜ。

 が、まあ、弟子の手前、負けるわけにもいかないし、しょうがないかな。副師範だっていいさ。俺がこいつらを鍛えてやろう。


******


 イワンは、その日の内に、俺に弟子入りを志願してきた。

「マチアス先生に惚れました! これからは『兄貴』って呼ばせてください!」って言って、勝手に舎弟になった。


 それからは、しょっちゅう「兄貴、兄貴」と、俺の家にも出入りするようになり、厚かましくも晩飯なんか食べていくようになった。イボンヌの料理がいたく気に入ったようだ。これがまた「うまいうまい!」って、よく食うんだ(笑)

 だけど、いつも律義に一人分の食事代を置いていくうえ、たまに肉なんか持ってくるので、イボンヌも特に文句は言わなかった。セシルとアロイスも遊び相手が出来て「イワン兄ちゃん」と呼んで、嬉しそうだった。


 こうして、俺も家族も、ちょっとずつこの国に馴染んできた。


 慣れてしまってはいけないが、ゲルマーは本当に暮らしやすい、人も物も豊かな、いい所だ。

 読者の皆様。いつも本作をお読み頂き、ありがとうございます。pvの推移を見ますと、一日、10人前後の方が、最新話を読んで下さっているようです。熱心に読んで頂いて嬉しいです!

 ただ、ほかのエピソードがさっぱりで、新規の読者様が、本当に全然いないようですので、明日からしばらく、アップの時間を夕方5時前後にしようと思っております。

 朝読んで下さっている読者様は、一回抜けになってしまいますが、悪しからずご理解下さい。


 pv、ブクマ、ポイント、感想などの、読者様のフィードバックが私の活力源となっております。

 これからもよろしくお願い致します。





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