第4章 それぞれの新生活 第1話 セシルの手紙
天国の父様、母様、おばあちゃん、トマおじさん、お元気でお過ごしでしょうか。私たち4人はとっても元気にしています。
ゲルマーに着て、1か月が経ちました。
私たちは、クラウスさんが手配してくれた、高級軍人用の官舎に住んでいます。お城の近くに並んだ、小さな戸建てで、お台所のほかに、3部屋あります。
私とアロイスが一部屋を二段ベッドで使って、もう一部屋をマチアス父さんとイボンヌ母さんが使っています。最後の一部屋は今のところ空きにしてあります。
父さんは、お城で兵士の教官を任されています。エリトニーでやっていた装甲騎兵の訓練だけではなくて、槍や弓や、体術も含めて、全てを教えています。クラウスさんの話では、父さんはすごく強くて、最初の試合でゲルマーの若手エースをコテンパンにして、みんながビックリしたそうです。だけど父さんは偉ぶったところが全然なくて、誰にも優しいので、今では皆が心酔しているということです。
それから、週に一度だけですが、父さんは、私たちの通っているランドルフ私塾でも武術を教えています。主に剣術と柔術で、一日かけて全学年に稽古をつけています。おかげで、ランドルフ先生から「二人の月謝は合わせて一人分でよい」と言って貰っていて、イボンヌ母さんも「助かった。マチアスさん安月給だから」と喜んでいます。母様から頂いた金貨は、「大事な時のために、なるべく手を付けずにおこう」ということになっているようです。
イボンヌ母さんは、父さんと私たちの世話をしなければならないので、家で家事全般をこなしています。だけど、これがすっごいんです。炊事も洗濯も掃除も、何もかもハイレベルで完璧。まさに「スーパー主婦マシーン」です。「メラニー様に10歳からみっちり仕込まれたからね。ずいぶん泣かされたわよー。怖かったわー」と笑っていました。
まだ20歳で、すごい美人で、私たちも、こんな人が母さんなんて鼻が高いです。
だけど、よくよく考えると、父さんと母さんは夫婦でもなんでもなくて、母様に頼まれて付いてきてくれた私たちの両親役なので、私もアロイスもちょっとだけ気を遣ってしまうところがあります。だけど、今のところ、二人とも仲よくやっているみたいで、いい雰囲気です。
私たちは、強くてかっこいい父さん、優しくて綺麗な母さんが大好きです。
******
私とアロイスの毎日は、朝6時に始まります。
父さんと一緒に散歩して、お城の前の広場で武術を教わっています。今は、剣術と体術だけです。母様から頂いたエタン(エリトニーの伝説的刀匠)の短剣、「ルビー」と「サファイア」は、まだ重いし、危ないので、木でできた模造刀で稽古しています。父さんは、「慣れてきたら、違う武具の練習もしてみよう。将来は、お城で兵隊に交じって、弓矢や騎馬の訓練するのもいいな」って言ってます。
そのあと家に戻って、お湯で体を拭いて、母さんの作った美味しい朝ご飯を食べます。スープ、卵、野菜、黒パンが多いです。父さんは、「俺は馬に乗るから太れないんだ」って言って、そんなに食べません。母さんよりちょっと多いくらいです。201㎝もあるのに80㎏だそうです。私とアロイスは、二人に言われて、毎日すごく沢山モリモリ食べています。
******
ランドルフ先生の塾には、週5回通っています。毎日、朝から夕方まで6時間びっしり授業が入っています。最初はゲルマー語の読み書きに戸惑いましたが、文法がエリトニーと同じで、綴りが違う単語が少しあるくらいなので、すぐに慣れました。語学以外は、数学や化学、社会のほか、政治や軍事の基礎を習っています。
5歳の私は、いきなり12歳のクラスに入ったので、最初は着いていくだけで精一杯で、いまでもまだ真ん中くらいですが、アロイスは最初から全然平気。クラスで断トツの一番です。我が弟ながら、彼は本当の天才だと感心してしまいます。学校でも、あっという間に「小悪魔アロイス」というあだ名がついて、「12歳クラスにすごい男がいる。まだ5歳だって」って、全校の話題になっています。なんだかくやしいです……。でも、武術は私の方ができるもん。アロイスはチビだからね。ふふふ。
母さんは、「年上の子に交じって、そんなにできるんじゃ、いじめられるんじゃないの? 大丈夫?」って心配していましたが、なにしろ父さんが怖い武術師範だから(笑)、みんなが優しくしてくれます。特に私は、女の子が少ないこともあるんだけど、みんながチヤホヤしてくれます。ナーロッパでは珍しい濃い黒い髪と、白い肌、それとチェックの可愛いスカートの制服がなんともいいんだそうです(笑)。自分で言うのもアレだけど、「絶対将来すごい美人になる!」って言われて、「黒薔薇セシル」ってあだ名をもらってます。小悪魔よりかはちょっといいかな(笑)。
*******
塾は、私たちの官舎から、城外の南の森を抜けて小一時間行ったところにあります。森はたまに強盗が出たりして危ないので、毎日父さんが付き添ってくれます。ずっとアロイスと一緒に予習しながら行くので、あっという間です。
塾には寄宿舎もあって、ゲルマーの各地から優秀な生徒が集まって来ますが、お金もかかるので、ちょっと遠いけど街から通う子も多いです。毎年、春と秋に学生寮のお祭りがあって、ご馳走を食べながら、キャンプファイヤーを囲んで踊ったりするらしいので、とても楽しみです。
午前中の授業が終わると、1時間のお昼休みの間に、母さんが持たせてくれたお弁当(瓶に詰めたシチューと、肉と野菜を挟んだライ麦パン、それに食後の果物かクッキーのことが多いです)を食べて、それから午後の授業が2時限あります。
夕方の4時に父さんが迎えに来て、三人で家に帰ります。父さんはそれからまたお城に行くことが多いです。
私とアロイスが、部屋で今日の復習と課題をこなしているうちに、父さんが帰ってきて、皆で母さんの作ってくれた晩御飯を食べます。あんまりお金の余裕がないので、そんな豪華っていうわけじゃないけど、ちゃんと毎日美味しいです。なんだか、エリトニー城にいるときは全然知らなかった、「絵に描いたような幸せな家族」って感じです(笑)。
食後は、また少し勉強して、週2回のお風呂のある日は入って、大体午後10時には寝ています。毎日、沢山運動と勉強をしてクタクタなので、すぐに寝てしまいます。
父さんと母さんは、そのあとも遅くまで起きているようです。
******
私たちの毎日は大体こんな感じです。
毎日、充実した楽しい日々を過ごしています。
なんだか、エリトニーにいた頃の、緊張した日々からは想像もつかなかった生活です。
アロイスも、「お姉ちゃん。なんだか僕たちずいぶん遠くまで来ちゃった感じだねえ」って言ってます。だけど、「いろんな人に生かして貰った僕たちだから、感謝の気持ちと使命を忘れないようにしようね」って、言い合ってもいます。
ああ、ずいぶん長く書いてしまいました。
もう11時。明日はお休みだけど、私もそろそろ寝ることにします。
アロイスはとっくに寝てしまいました。
それじゃ、父様、母様、おばあちゃん、トマおじさん、またお手紙書きますね。
おやすみなさい。
愛をこめて。セシルより。




