エピローグ1 サラとジュリアン 魂は旅立つ
読者の皆様。いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます。
すみません。。間違えて、昨日は先にエピローグ2をアップしてしまいました……。酔っぱらってたもので、申し訳ございません。改めてエピローグ1をアップ致します。
どちらが先でも、それほど影響はありませんが、時系列がこちらが先になりますので、「サラが死んだ翌日の話」という頭でお読みになってください。
明日、最後の解説を入れて完結にしたいと思っております。
(客観視点です)
王妃サラが自ら命を絶った、その翌日。
エリトニー城下町の東の外れ、工場や職人が多く集まる猥雑な下町の一角に佇む、小さな食堂。
その2階に、食堂の女主人が一人で住んでいる。淡い金色の髪に、透き通るような白い肌。
とても美しい、初老の婦人。
今日も、お昼を食べに来た男たちを相手に、日替わりだけの一品料理とスープ、特大の黒パンを供し続け、午後遅くになって、ようやく中休みが取れたところだ。少し休んだら買い出しに行って、夜の仕込みに入らないといけない。
婦人が、お昼の残りで簡単に食事を済ませ、熱い紅茶でクッキーをつまんでいるとき、窓辺からパタパタと羽音が聞こえてきた。ふと眼をやると、窓の外で小鳥が二羽、仲良く並んでガラスをつついている。
「あら? 可愛いお客様ね。ちょっと待って、今、開けてあげるからね」 老婦人はそう言って、赤いカーディガンを羽織り、窓辺に近づき、窓を開け放つ。初冬の冷たい空気が部屋に流れ込んでくる。
二羽の鳥は、一瞬飛び退いて窓が開くのを待ち、再び窓辺に舞い降りる。
「あら珍しい、白い小鳥さん。こちらはこげ茶色の小鳥さんね。ふふふ、あなたたち番いなのかしら。仲がよさそうで、うらやましいわ」 婦人は、穏やかに微笑みながら、二羽に話しかける。
すると、白い小鳥がパタパタと飛び立ち、怖がる素振りも見せず、老婦人の肩にとまった。
そして、甘えるように、婦人の首に頭をこすりつける。
「あはは、くすぐったいわよ。あなた、ずいぶん人懐っこいのね」 婦人は、首を傾け、眼を細めて白い小鳥を見つめる。
白い小鳥は、じっと老婦人を見つめ返したあと、再び飛び立って婦人の周りを飛び回り、反対の肩にとまって、また頭を首にこすりつける。
「あらあら、あなた甘えん坊ねえ。‥‥‥ああ、小さい頃のサラを思い出しちゃたわ。まるでお人形みたいで可愛かったな。懐かしい。小鳥さん、ありがとうね」
老婦人がそう言って、今度は両手を開いて顔の前に出すと、白い小鳥は肩から飛んで、婦人の掌に舞い降りて、何かを訴えかける様に羽をばたつかせ、婦人の眼を覗き込んでくる。だが、その思いは老婦人には届かない。
「ふふ、ありがとうね。なぜだか分からないけれど、私を訪ねてきてくれて。‥‥‥でもね、あなたたち、もう南に旅立たないといけないわ。この国の冬は寒いし、南の海はとても風が強くなるのよ。だから早く大陸に渡らないと死んでしまうわ。私、あなたたちが春に子供たちを連れて帰って来るのを、楽しみに待っているから、美味しいものも用意しておくから、もう、お行き」
そう言って、老婦人は上に向けて手を広げ、仕方なく白い小鳥は飛び退いたが、窓枠に降りたまま、飛び立つ素振りを見せない。
すると、茶色の小鳥が、先に飛び立ち、店の前に植わっているマロニエの枝にとまり、「チチッ」と鳴いて催促してきた。
白い小鳥は、老婦人をじっと見つめたあと、細かくフルフルと身体を震わせ、そして別れの挨拶なのか、ククっと首を振って窓枠から飛び立ち、茶色の小鳥の隣に舞い降りて、婦人を振り返る。
それを見た、老婦人の「さあ、もういいから。早く行きなさい!」の声とともに、茶色の小鳥が南に向けて飛びたち、白い小鳥も最後にもう一度だけ首をククっと傾げたあと、思い切ってパっと飛び立って、茶色の小鳥の後を追っていった。
寄り添って翼をはためかせ、次第に小さくなっていく二羽の影を見ながら、老婦人は、
「元気でいてね。仲良くするのよ。また会えたらね」と声をかけ、穏やかに微笑みながら手を振って見送った。
ウォレム王の治世20年目、薄い日差しの差す、初冬の日のことだった。
~ ここで再びファンアートをどうぞ。このアートに書かれていた小鳥はこれだったんですね ~