第1話 石牢の王妃
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王様の夜伽のお相手を務めたあと、私は「妃の間」に戻り、窓を開け放って、白い満月を眺める。
石造りの部屋には、ベッドも、机も、鏡台も、お風呂も、全部揃っている。私のために、王様がわざわざ作って下さった「妃の間」。
だけど、窓には、青くて綺麗な、細い鉄格子がはまっている。入口もそう。
ここは、エリトニー公国城から海上の回廊を渡った、丸く高い搭の上。
窓のはるか下では、波が搭に打ち寄せて白い飛沫をあげている。
部屋の外では、大きな男が番をしている。
この部屋は、暮らす分には何の不自由もない。だけど、石牢。もう三年も、私が一人で暮らしている、生きながら閉じ込められた墓場。
どうしてこうなった? どこで間違えた?
そう自問しながら、私は今日も鏡台に座る。映っているのは、さぞ美しいのであろう私の顔。
本当? 鏡の中の白く細い頬とうなじを、指先で静かになぞってみる。
私が美しすぎた? それがいけなかった? でも、もう、私には分からない。自分がどれほど美しいのか、古今誰もいなかったくらい、美しいのかも。今では、私を見て下さるのは、王様だけだから。
それなら、この顔に傷が入れば、この身体がもっと太って醜くなったら、王様は私を捨てて下さる?
私は、いつもやっているように、細く尖った4本の爪を白い頬に突き立てる。艶やかで柔らかな肌に爪が食い込む。さあ、そのまま引き裂け。自由と引き換えに。
……だけど、やっぱり、今日もできない。
なぜって、私はずっとこれで生きて来たから。小さな頃、父が戦争で死んで、母と二人きりの貧しかった頃から、私はこの顔で、この顔を武器にして生きてきたから。それの何が悪いって言うの? この美しさがあったから、貧しい小国であるこの国で、母と二人、死に絶えないで生きてこられたの。
だから、私は、これ以外は知らない。美しさを失ったら、たとえ捨てられて自由になっても、生きて行けるか分からないの。
ならば、これを続けていくしかない? 王の子を産み、育て、そして私が衰えて、王の疑心が薄れるまで、一体何年かかる? 10年? 20年?
……そんなの、結局、永久と同じよね。
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そんな、毎日毎日考えている堂々巡りをしていたら、窓辺を飛び回る小さな羽音が聞こえてきた。ああ、来た。今日も、来てくれた。
私は、夕食に出たパンの残りをちぎって窓辺に撒き、鏡台に下がって待つ。
青い小鳥が、チチと言いながら窓枠にとまり、フルフルっと頭を振ったあと、パンくずをついばみ始める。幸せを運ぶという青い鳥。
ああ、あなたは自由でいいわね。私も、その窓から、広い空に飛んで行けたらいいのに。
しばらくして、パンを食べ終え、青い鳥は私に挨拶するように、首をククっと傾けたと思ったら、パタパタと飛び立っていった。ふふ、お腹いっぱいになったんだ。現金なのね。
ああ、だけど、幸せを呼ぶ青い鳥さん。私の願いを誰かに届けて。
お願い、誰か、私をここから出して……。