第九話 できちゃった
「おい、おい」
「臥龍岡さん、しっかりして」
目を開けると、そこには猪狩さんと鳳条さんがそこにいた。
「あれ、私…」
体を起こすと、さっきまで感じていた痛みは全く無くなっていた。
「魔力に過剰反応したのかも。ちょっと手を出して」
鳳条さんは、私と両手を繋ぐと目を瞑って何かに集中したようだ。
しばらくすると、驚きを隠せない表情で猪狩さんの方を向いた。
「猪狩あんた、なんて量の魔力を流し込んだわけ?」
「はぁ?普通に魔法使えるかどうかくらいの量しか、流してねぇよ」
私の体に何かあったのだろうか。鳳条さんの反応に不安が募る。
「じゃあなんで、臥龍岡さんの身体に、こんな大きな魔石ができてるのよ」
「…んなことあるわけねぇだろ!」
猪狩さんがガッと私の手を握り、しばらくすると、信じられない、と小声でつぶやいた。
「たった1日で身体に魔石ができるわけないじゃない」
「俺が魔力量をミスるとでも?魔力の扱いはこの班1番だぞ」
2人が言い合っていると、突然扉が開く音がした。
「なんの騒ぎかなー」
気の抜けた声と共に入ってきたのは、東雲さんだった。
「班長!臥龍岡さんの身体に、もう魔石が完成しているんです!」
悲鳴のような声で鳳条さんが説明すると、東雲さんは一瞬ポカーンとした後、信じられないといった表情になった。
「ちょっとー手貸してねー」
私は、今日1日で何人と握手するんだろう。
「本当だー。明日からー魔法の練習ができるねー」
「「問題はそこじゃないです!!」」
鳳条さんと猪狩さんの声が被った。意外とこの2人は似た者同士なのか?
「でもねー。できたものはできたんだしー。理由考えてもーしょうがないでしょー」
ヘラっと笑った東雲さんに対し、2人は揃ってため息をついた。
いや、しょうがないで済ませないで!
私の体に何が起こっているのか、誰か教えて!
「それもそうですね」
鳳条さん、納得しないで!
口を開きかけたが、これ以上追及して、自分の身体に以上が見つかっても怖いし。
今は何ともないからいっか。とも思えてしまった。
鳳条さんは肩を竦め、おもむろに腕時計を見た。
「あっ!もうこんな時間!そろそろここを出ないと、予約した時間に間に合わないですよ」
「もうそんな時間かー」
予約時間?てか、今何時だろう?
1日に2回も気絶したせいで、時間の感覚がない。
腕時計もしてないし、ここには時計もないから、今が昼間か夕方か、それとも夜なのかも分からない。
「もうこんな時間じゃねぇか!」
全員が腕時計してる!次のお休みの時に買いに行かなきゃ。
「あの、これからどこに向かうんでしょうか?」
全員が私の方を向いた。
え、何?
東雲さんが満面の笑みで答えてくれた。
「臥龍岡くんの歓迎会だよー」
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