第二十八話 上司の恩恵
「明日、君達の歓迎会を開く予定だ。君達にはこれから馬車に乗って、王城へと移動してもらう」
私達は、王様と共にこの空間の外へと移動する。
後ろからゾロゾロと人が付いてきて、なんだか私も偉い人になった気分だ。
「東雲から、今回の合同訓練の概要は聞いております。我々としても魔物討伐の経験を多く積むことができればと考えております」
い、猪狩さん!そんなこと言わないでくださいよ!
私はできる限り、魔物討伐はせず、街の観光とかしたいです!
そんな私の心情をまるっきり無視して、初の合同練習日は明後日に決まった。
なんでよ!
王様は5日後とか1週間後ぐらいから始めようって、言ってくれてたのに。
どうして早めちゃうのよ!
不機嫌になった私は、馬車の中で一言も喋ることはなく、猪狩さんはなぜ私が急に不機嫌になったのか分からず、混乱しているようだった。
♢♢♢
王城に着き、メイドさんに案内された部屋は、王城内にある賓客を迎えるための客室らしかった。
「本日からここでお休みください」
メイドの人達が、夜ご飯を配膳してくれる。
このいう外交的な場合には、偉い人達と食事をとらなければならないのかな、と漠然と思っていた。
理由を聞いてみると、なんでも、鳳条さんが王様達と食事をするのは絶対に嫌と言ったため、各々の部屋に食事が運ばれるスタイルになったんだとか。
鳳条さん、グッジョブ!
やっぱり、頼りになる上司だ!そう思いながら、運ばれてきた食事を一口食べてみる。
…ん?
これ、嫌がらせとかじゃないよね。
いや、使われているお皿の模様とか料理の見た目とか、めちゃくちゃ繊細で綺麗に飾られている。
なのに、なのにだ。
味が、全くしない。いや、素材の味はしているのだろうが…味付けが全くされていない。
私の顔を見て、メイドさん達が苦笑している。
「もしお気に召されませんでしたら、ご持参された、『どれっしんぐ』をお掛けください」
ハッと思い出した私は、キャリーケースから数本のボトルを取り出した。
そのボトルを見て、メイドさん達が興味深そうにこちらを見ている。
「…あの?何か変なところがありましたか?」
私の問いかけに、メイドさんは慌てて首を振った。
「い、いえ。ただ、ホウジョウ様は『ぽんず』をご愛用でしたので…異世界には色々な『ちょうみりょう』があるのですね」
「…そ、そうですね」
希夢さん、ポン酢が好きなんだ。初めて知った。
この任務が終わって帰ったら、おすすめの種類聞いてみようかな。