第二十七話 いざ異世界へ
「なんだ、東雲から聞いてないのか。お前達には、これから、この時空の穴に飛び込んでもらうんだよ」
…いや、そうだろうけど!
もっとこう、下準備というか、そういうのを猪狩さんは聞きたかったのでは?
猪狩さんの方を見ると、案の定遠い目をしていた。
「本当に、ここまで来たら、もう飛び込んでもらうだけなんですよ」
戸惑っている私達に、慌てて女性が助け舟を出してくれた。
「そうだ。約束の時間は過ぎてるから、パパッと飛び込め!」
男性がこちらまでやってきて、私達の背中をグイグイ押してくる。
踏ん張っているのに、ズルズル前に進んでしまう。
おかしい…私の体重とパンパンに詰め込んだキャリーケース2個分の重さがあるはずなのに。
力強すぎでしょ!
「ま、待ってください。心を落ち着かせる時間をください」
「よし、行くぞ」
「ちょ、ちょっと、猪狩さん!?」
う、嘘でしょーー!!
私は心の準備も出来ないまま、時空の穴へと飛び込まされたのだ。
怖くなって思わず目を瞑った。
バチバチと大きな火花が飛ぶような音がすぐ耳元で聞こえている。
めっちゃうるさい。でもキャリーケースを両手に持ってるから、耳塞げない。
そして、数十秒後、音が突然止んだ。
恐る恐る目を開けると、そこは同じように白い柱が何本も立つ、円柱状の空間だ。
だが、異様な機械みたいなのは一つもなく、さっきまでいた男女の姿も見当たらない。
「よくいらっしゃった」
声のした方を向くと、そこには恰幅の良い男性が立っていた。
でも、服装が…なんというか中世ヨーロッパの王侯貴族みたいな、キラキラした服だった。
これを見たのが日本だったら、再現度の高いコスプレだと思うんだろうな。
周りの人の服装もスーツではなく、重そうなドレスや甲冑を来た人達だ。
これは…異世界に来たというより、中世ヨーロッパにタイムスリップしたような感覚だ。
「日本の魔術師、猪狩裕也と申します。こちらが同じく魔術師の臥龍岡杏和です」
「臥龍岡杏和です。よろしくお願いします」
猪狩さんが紹介してくれたので、とりあえず頭を下げて挨拶する。
それよりも、今聞き覚えのない言葉が飛び出たぞ。
なんだ、魔術師って!私、いつの間にそんな職業になってたわけ?
今すぐ猪狩さんを問い詰めたいところだが、多くの人の前なのでグッと我慢する。
にしても、こんなに人が並ぶと壮観だな。
ちょっと怖いけど。
「余はマヌエル・エチエンヌ、この国の国王だ」
…なんと。偉い人だろうとは思っていたけど、王様でしたか。
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