第二十六話 時空の穴
到着したのは、どうやら一般の空港ではないらしい。
周辺には木が全く生えておらず、建物もここ以外全く見当たらない。
「ここに、時空の穴が…」
ゴクリ、と唾を飲み込む。
「こちらです」
プライベートジェットに一緒に乗っていた女性は、時空の穴までの道案内もしてくれるらしい。
建物の中は全て真っ白で、目が痛い。
その中を何回も曲がって、方向感覚が完全になくなった時、やっと行き止まりだった。
だが、そこに見えるのは真っ白の壁だけで、他に変わったことは何もない。
「あの、ここですか?」
女性が壁を見て立ち止まったまま。不審に思い、女性の方を覗き込むと、手元のリモコンを操作していた。
暫くすると、ゴゴゴという音と共に、壁が開き始める。
壁が開くのを呆然としながら見ていると、中の様子が徐々に見えてきた。
「うわっ…」
異様な光景に思わず後ずさる。
中は円柱のような空間で、ここ以外にもいくつかの出入り口があるのが分かった。
部屋の中は、よく分からない機械が所狭しと並んでいる。
そして、最も異質なのが、部屋の中央だ。
何メートルもある大きな黒い渦巻きが、バチバチと火花が飛ぶような音を絶え間なく発している。
言われずとも分かる。あれが、時空の穴だ。
『2人をお連れしました』
あれ、今の言葉って…
女性が大声を上げると、機械と機械の間から、白衣を来た人が出てきた。
『おお、もうそんな時期か』
やっぱり、向こうの世界の言葉だ。
でもなんで、この2人はその言葉で会話を…?しかも、この人誰…?
『あちらの世界の方がいらっしゃることもありますので、この施設では、この世界の言語ではなく、あちらの言葉で話すことがルールとなっているのです。
そして、あのお方は、ここの研究長ですよ』
まるで私の心を読んだかのように、女性が質問に答えてくれた。
ゆっくり話してくれたから、ちょっとしかこの言語が分からない私でも、なんとか聞き取れる。
『ここのチームリーダーだ。名前は言えない決まりだから、好きに呼んでくれ』
紹介された男性が、軽く手を挙げて話しかけてくれたので、軽く会釈をした。
って、嘘でしょー!この世界でも、この言語を使わないといけない施設があるなんて…
もっと死に物狂いで勉強すべきだった…
『それで、私達はこれから、何をすればよろしいでしょうか?』
猪狩さん、普通に会話してる!私は皆さんが言っていることを聞き取るのでやっとなのに!
向こうでの頼りは猪狩さんだけだ!
質問を聞いた研究長さんは、目を丸くすると、大笑いしながら、答えてくれた。
『なんだ、東雲から聞いてないのか。お前達には、これから、この時空の穴に飛び込んでもらうんだよ』