第二十四話 出発
翌日。
指定された時間ギリギリに私は会社に向かっていた。
会社の前に、大きな車が停まっている。
邪魔だな、と思いながら近づくと、運転席に座っていたのは、班長だった。
「班長!もしかして、車で送ってくださるんですか!」
「うんそう。送ると言っても、空港までだけど」
え、空港!
ってことは飛行機に乗って移動?聞いてないんだけど。時空の穴って、もしかして海外にあるの?
混乱していると、スーッと後部座席の窓が開き、中には猪狩さんが乗っていた。
「早く乗れよ。時間ねぇんだ」
「荷物は後ろに乗せてね」
「は、はい」
私は持ってきたキャリーケース2つを後ろに載せ、助手席にお邪魔する。
こういう時って、助手席に乗るのが良いんだっけ…?マナーとかに詳しく無いから全く分からん。
私が乗ったのを確認すると、車は動き出した。
ふわーと車に乗ってから、何度目か分からない欠伸に、猪狩さんが顔を顰めた。
「お前、昨日ちゃんと寝れなかったのか?」
「そうなんです。鳳条さん達がお見送り会を開いてくれて」
昨日は結局、3人で朝の4時まで飲んでいた。
もう風呂には入っていたのでそのまま寝たが、朝起きた時にお酒臭かったらと思い、早めの時間にアラームをセットし、朝もう一度お風呂に入ったのだ。
結局、1時間ちょっとしか眠れていない。
7時に集合だったから仕方ないのだが。
私達の会話を聞いて、班長がくすりと笑った。
「3人が仲良さそうで良かったよ。これからの流れだけど、空港からはプライベートジェットだ。長時間のフライトだから、気が参らないよう気をつけてね」
気が参らないようにって何?長時間のフライトって海外に行くの?そういえば、パスポート持ってきてなんて言われてないんだけど…
猪狩さんも同じことを思ったのか、顔を顰めている。
「あ、パスポートいらないよ。どこに時空の穴があるか分からないようにするために、パスポートは不要なんだ。その代わり、顔写真とこれまでの経歴を管理機関に送ってある」
いつの間に!
「いつの間にそんなん送ったんですか!」
猪狩さん、よく言ってくれた。班長って、結構強引に進めるよね。
「君達が出張を了承してくれた時には、もうすでに送ってたよ」
班長…
やっぱり最初から私達に断らせる気なかったんだ。
2人でげんなりしていると、班長が明るい声で言う。
「さぁ着いた。飛行機に乗るとこまで見送るよ」
班長と共に空港の玄関に向かうと、1人のスタッフがこちらをみて頭を下げた。
「お待ちしておりました」
「今年もありがとう」
何事、と思ったが、班長は至って普通だ。毎年のことなのだろうか。
班長は、しばらく談笑し、「それでは、ご案内いたします」と言って、普通の搭乗ゲートとは逆方向に歩き始める。
極秘任務だから、普通の搭乗口から飛行機に乗っていかないのか…
何度も曲がって、どうやってここまで来たのかも分からなくなった時、「こちらでございます」とやっと望んでいた言葉が聞こえたのだった。