第二十三話 良い先輩
それからの3ヶ月。
私達は向こうの言語を覚えるのと任務で忙しかった。
任務は落ち着いていたため、鳳条さんに貰った教科書と睨めっこするのが、主な仕事になっていた。
人生で1番って言っても良いくらい、頑張ったと思う。
なにせ、聞き取れなかったら、命に直結する。
そうなったら頑張るしかないのだ。
だが、今まで勉強してこなかった人が、急にやる気を出しても、すぐに結果には繋がらない。
仕事じゃない日でも鳳条さんが教えてくれたので、3ヶ月後には、簡単な日常会話程度とよく戦闘中に使われる言葉くらいは聞き取れるようになっていた。
「あー気が乗らねー」
ここ最近、猪狩さんはこれが口癖だったが、言語の習得は私より遥かに早かった。
読み書きの両方で日常会話レベルができるようになったらしい。鳳条さんが、「私の3年間が…こんなやる気のないやつに」とショックを受けていた。
記憶力の良い人、本当に羨ましい。
そして、気づけば出張前日になっていた。
「鳳条さん。向こうに持っていくべきものってありますか?」
何年も異世界に行った経験者である鳳条さんに、一度聞いていたことがある。
その時、鳳条さんは前のめりになって「調味料!!」と教えてくれた。
「私って、味にうるさい方ではないと思っていたの。だけど向こうの食事は、本当に、本当に素材の味がしなくて。調味料がほぼないんですって。
だから、持っていけるだけ持って行った方がいいわ」
鳳条さんがここまで熱くなるのは珍しい。
向こうのご飯、そんなに味しないの…
「でも、他国、というか異世界に持ち込んではいけないものとかあるんじゃないですか?」
「そこら辺の法整備まだだから!大丈夫!」
と言っていたので、私の大好きな調味料を大きめのキャリーケース1個丸々詰め込んだ。
普段着や戦闘服は向こうで調達しても良いから、そこまで量いらない。
スーツだけは、絶対持参しなければならない。寝巻きと下着は、触り心地の良いものを。
そして、愛用する化粧品、日常生活における消耗品できるだけ詰めた。
これで大丈夫かな。入れ忘れたものないかな…
滞在期間は1ヶ月。まあ、何か忘れても1ヶ月程度なら我慢できるでしょ。
「よし」
もう寝ようかと思った瞬間、ピンポーンと部屋のインターホンが鳴る。
ここのインターホンを鳴らす人は三班の人しかいない。だから、鳳条さんのどっちかだろう。
「はい」
画面を見てみると、映っていたのは鳳条さん姉妹だった。
「鳳条さん、明日の準備もうできた?」
「杏和さーん、お見送り会しよー」
「ちょ、苺花。持ってるそれ、お酒?」
私、良い先輩に恵まれたなぁ、としみじみ思った。
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