第二十二話 言語の壁
「覚悟してたけど、マジでやべーな」
班長室を出た瞬間、猪狩さんがボソッと呟いた。
「そんなに大変なんですか?」
実は、内容が見えなかったら、どういう任務なのか詳しくは分かっていない。
結構ハードな内容なのだろうか。
私の言葉に、猪狩さんは信じられない者を見るかのような顔になった。
「考えてもみろ。まず、言語は一から覚えなきゃいけねー。それに、あっちの世界は魔力で溢れているから、魔物の強さも桁違いだ」
魔物は強いのだろうと思っていたけれど、異世界ということは、こっちの言語が全く通じないのか。盲点だった。
さぁーと青ざめた私を見て、猪狩さんは「ようやく分かったか…」と呆れている。
「兎に角、言語については、班長…は無理だから、鳳条のやつに教えてもらうしかねぇ」
猪狩さんは、あー気が乗らねー。と、ブツブツ呟いていた。
♢♢♢
「あっちの言葉?良いわ、教えてあげる」
希夢さんに班長から聞いた話をかいつまんで説明すると、「今年からあの憂鬱な1ヶ月が無いのね!」ととても喜んだ。
そういえば希夢さんも、班長がいる時といない時で口調違うよね。いつもはフランクな感じなのに、班長がいると淡々と喋っている気が…
ま、人の色恋沙汰に首を突っ込むのも良くないし。
「それで、猪狩はどこ行ったの?」
うっ…痛いところつかれた。
「猪狩さんは…班長からストレス受けたから発散する、と言って訓練所へ…」
「はぁ?あいつ何考えてるの!」
本当に、私も何してるの、って思う。
だが、私が止めるのも虚しく、お前が鳳条に頼んどいてくれ、と言って訓練所に行ってしまったのだ。
私が悪いわけじゃない。
「大半は、向こうの人と連携して魔物を狩るの。だから、言葉が通じないのは大問題。ああでも、魔法の精度的には2人とも問題ないから安心しなさい」
「そうなんですか!」
異世界の人は、魔法に小さい頃から慣れ親しみ、当たり前の存在だ。
そんな人達と渡り合える技術があるとは思えないんだけど…
「私達の世界って、空気中の魔力が少ないから、向こうの人達にしたらこの世界で魔力の練り上げる方が難しいらしいわ。
逆に私達が、あっちの世界でいつもと同じ要領で魔法使ったら、大爆発したわ」
なるほど確かに…私も気をつけないと…
「任務と並行して覚えていかないとだから、あんまり時間ないわ。とっととあの馬鹿連れ戻さないと」
それなのにあいつは…とワナワナ震えている。
そんな希夢さんの様子を見て、私は苦笑いするしかなかった。