第二十一話 呼び出し
魔物討伐も魔法の発動もだいぶ慣れてきた。
まだ1年目ということもあり、1人で任務に行くことはないし、夜勤もない。
でも、早ければ来年から1人で任務に着いてもらうかも、と鳳条さんが言っていた。
そんなある日、私と猪狩さんは班長に呼び出された。
「呼び出しとか、厄介な案件確定じゃねーか」
ポリポリと頭をかき、気だるそうな様子だ。
「まぁ、十中八九あの案件だろうが」
猪狩さんがボソッと呟く。
「えっ?何か言いましたか?」
「別に。何でもねぇよ」
この数ヶ月、班長を見かけはするが、ほぼ話していない。
私は出張の任務が大半で、ここに戻ってくるのは報告書を書くときか、任務がなくて訓練する日だけだ。
それに、鳳条さん姉妹とは何度か同じ任務に着いたことがあるが、基本は猪狩さんとペアで、班長とは一度も組んでいない。
必然的に班長と会う機会は少ないのだ。
「失礼します」
ノックもせずに班長室に入った猪狩さんにギョッとしたが、班長は気にしていないようだ。
「2人とも掛けてくれ」
班長は足を組み、満面の笑みで私たちに着席を促した。
悪い予感しかしない。
ここ数ヶ月で猪狩さんの言っていたことは正しいと分かった。
班長は、鳳条希夢さんがいる時だけ、口調が穏やかになる。普段は冷徹な雰囲気なのに、希夢さんがいると、穏やかというか抜けた感じになるのだ。
そういえば、前に希夢さんと任務後にお酒飲んでたら、「わたしねー、ちょっと抜けた人っていうかー、かわいい感じの人がタイプなのよね」って言ってたような…
…いや、考えるのはやめとこう。余計な詮索をすれば、痛い目を見る、絶対に。
「それで、俺たちに何か用ですか?」
「ああ、これを見てくれ」
班長は私達の前にある書類を差し出した。
その表題は、【異世界派遣部隊編成について】だった。
猪狩さんが受け取ったので、内容はよく見えなかったが、「異世界外来種対策特殊班から2人」という部分が太字で下線まで引いてあったような…
私達2人が呼び出されたということは、いや、そんなまさか…
「これに君達2人で行ってほしい」
やっぱり!!
私が驚きすぎて声を出せずにいると、猪狩さんは思いっきり顔を顰めていた。
「…去年まで同様、班長と鳳条希夢さんが行けば良いじゃないですか」
猪狩さんの言葉に、班長の空気が冷たくなったような…
「毎年同じ人が行っても、交流は深まらないから…それに、今から3ヶ月先のことだし、準備もできるでしょ…行ってくれるね」
やばい、班長の空気が寒すぎる。
部屋の温度、3度くらい一気に下がった気がする…
「「承知しました…」」
この返事以外、することはできなかった。
「面白い」「続きが気になる」となど思っていただけたら、ブクマや『☆☆☆☆☆』マークより、評価を入れていただければ嬉しいです。