(side猪狩) 報告
俺は、臥龍岡の初討伐について報告を上げるため、あいつを送り届けた後、事務所まで戻っていた。
今度は本部から戻って来ていた班長に飲みに誘われてしまった。
晩飯は済ませた、と言ったのに、「僕はまだ食べてないから、ね」と押し切られてしまった。
正直断りたかったが、断ったら後々面倒なのだ。
渋々了承し、呑み屋に来ていた。
俺たちの話は、一般の人々に聞かれてはいけない。
そのため、職場の人とご飯を食べるように、いくつかのレストランや呑み屋が福利厚生として格安で利用できるようになっていた。
店に入って30分ぐらい経っただろうか。一向に話の本題に入らない班長に痺れを切らした。
「俺をわざわざ飲みに誘った理由は何ですか?」
「予想はついているだろ?臥龍岡くんの件だよ」
ごくり、と唾を飲み込む。本部の奴らは…本当に容赦がない。
異端な人間は排除される世界で生きてきたのだ。
ただ自分達は魔物を倒せる、という一点でしか生かされてきた人。
自分が殺されないため、他者を害することを厭わない。
臥龍岡は何から何まで異端な存在だ。
嫌な予感が頭によぎる。
「まさか、本部はあいつを…」
ワナワナと震える俺を見て、班長はフッと笑った。
「まさか、大切な駒だからね。そう易々と殺させないさ」
別の意味を含んでいるように聞こえたのは、気のせいではないだろう。
この人も冷徹なのだ。
鳳条希夢以外の人間に興味がない。
何がきっかけなのかは、全く知らないが。
こんな奴に執着されるあいつを少し不憫に思う。
だが、こんな冷徹なやつだからこそ、俺を駒として生かしたのも事実だ。
この人じゃなかったら、俺はあの時、あの場で殺されていただろう。
「ただ、君達には1つ、重要な任務をこなしてもらうことになりそうだ」
なーにが、なりそうだ、だよ。
適当な理由つけて、仕事押し付けてるだけだろうが。
って、君達…?
「ちょっと待ってください。君達って、もしかして…」
「うん、君と臥龍岡くんの2人でこなしてもらう」
最悪だ。巻き込まれた。
しかも、この時期に、班長が押し付けてくるということは、おそらく、あの仕事だろう。
すごい苦い顔をしていたのか、班長はニヤッと笑った。
「まさかと思いますが…」
「多分、君が考えている通りだと思うよ」
…っ!このやろう!!
よりによって、1番厄介な仕事を押し付けやがった!
「…まあ、拒否権はないですが…どんな苦情が来ても知りませんよ」
俺が捨て台詞のように吐き捨てると、班長は少し驚いた表情をして…少し口角を上げた。
「驚いた。もう少しごねるかと思っていたのに」
「…別に」
確かに、今までの俺なら、班長に抗議して、結局受けることになることが多かった。
「今日、臥龍岡くんと2人でご飯行ったんだろ?君が女性と2人きりで、なんて初めてじゃないかな?」
「俺も先輩になったんで、成長したんですよ」
「ふーん」
何だよこの上司。ニヤニヤしやがって。
「まあ、なんにせよ。従順な部下は嫌いじゃない」
こうして夜はふけていくのだった。