(side東雲) うんざりだ
今日は、臥龍岡についての調査結果を聞きに、本部へと向かう日だ。
「気が乗らないな」
私は基本、他人に興味がない。というか、希夢以外に興味がない。
未知の魔力だまりがあろうが、臥龍岡が特別だろうが…いずれにしてもどうでも良いことだ。
だが、班長という役職上、現場で部下に何か起こったらフォローしなければいけない。
全くもって面倒だ。
希夢が、私からのプロポーズを受けてくれたら、すぐにでも本部への異動届を出したい。
本部も本部で厄介ごとが多いが、高給取りなのだ。
同じ面倒ごとを受けるなら、給料が高い方が希夢に楽させてやれる。
「はぁ、厄介なことにならなければ良いが」
私の願いは、残念ながら打ち砕かれることとなる。
本部の会議室に入ると、いかにも重鎮という雰囲気の人々が座っている。
ふん。雰囲気はあるが、大したことない連中だ。
十数年前まで、下手すりゃもっと前までしか現場に立ってなかった奴らだ。ずっとこの世界の魔力は増え続け、魔物も強くなっている。
それすら分からず、過去、自分達が世界の混乱を防いだという栄光に縋ることしかできない奴と会議して何になるんだが。
そんなことを考えている内、会議の始まる時刻となった。俺の同期の報告から会議は始まった。
「この1ヶ月、臥龍岡杏和の生活圏内を、考えられる限り調べましたが、残念ながら魔力だまりを確認できませんでした」
その言葉に、重鎮どもが騒ぎ出す。
「もっとよく探せ」「それより臥龍岡とやらを一刻も早く処分すべきでは」「そうだそうだ」
…全く、反吐が出る。
時空の穴が空いた直後、混乱を招かないため犠牲になった人が多く存在する。
魔物を目撃してしまった人、軍の下っ端、秘密保持のためとはいえ、挙げ始めるとキリがない。
そういう、簡単に命が無くなる世界で生きてきた連中だから、異常が発生した時、真っ先にそこを切りたがる。根本は何も解決しないというのに。
結局、直属の上司である私に判断が委ねられた。
「臥龍岡を異世界に派遣し、彼女に他の特異点がないか、検証してみようと思っております」
毎年、異世界に三班の人間が派遣されて、現地の魔法や魔物について知識を深めている。
3年連続で俺と希夢が行っていたが、もううんざりだ。
今年からは猪狩と臥龍岡に行ってもらおう。
「それならまだ…」「どうせなら、あの世界で一生暮らしてくれた方が」
あぁ、面倒だ。喋ってないで、さっさと結論を出してくれたら良いものを。
私が苛立っているのが分かったのか、この会議の取りまとめ役がゴホンと咳払いをした。
「では、東雲の案に異論ございませんね」
シーンと静まり返ったため、私は肯定と判断して「次の仕事がありますので」と言って、本部から帰ったのだった。
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