第二十話 また明日
心の内を話せたからか、このお店に入る前よりスッキリした気がする。
猪狩さんとはそれ以上あまり話さなかった。
時々、お互いのフォークがカチャという音を立てていたくらいだ。
不思議だ。
今までは沈黙が苦痛だったのに、今は苦痛どころか心地よく感じる。
私、猪狩さんに大分慣れて来たのかも。
口は悪いし、態度も怖いけど、案外…優しい人なのかもしれない。
「今日は1日、本当にありがとうございました」
「おう」
今日のお会計は猪狩さんが全て支払ってくれた。愚痴まで聞いてくれて、本当に感謝でしかない。
「送ってやる」
「へ?」
歩き始めた猪狩さんをポカンとしながら見ていると、ムッとした顔で振り向かれた。
「さっさと帰るぞ」
「は、はい」
慌てて猪狩さんの方へ駆け寄る。
お店に入る時は赤かった空が、今はすっかり暗くなっていた。
コツコツと2人の足音だけが聞こえる。
「次の出張は3日後だ。それまでに考えまとめとけ。辞めるなら早い方が良い」
不意の言葉に驚いて、思わず猪狩さんの方を向いたが、彼は前を向いたままだった。
「これから、スライムなんかより生き物っぽいというか、こっちの世界の動植物に近い形をした魔物を狩ることになる。スライムが辛いなら、今後はもっと辛いんだ」
それは、なんとなく分かっていた。
ここに所属してすぐ、東雲さんから魔物図鑑とやらを渡されていた。
1番初めに紹介されていた魔物がスライムで、最弱の魔物と書いてあったのを覚えている。
パラパラとページをめくると、犬というか狼のような生き物から、昆虫や魚、植物、恐竜に近いもの、見たことのないような形をした魔物などが描かれていた。
今後もこの仕事を続けるならば、いずれ戦うかもしれない魔物。
その魔物達との戦闘を考えると、まだ少し怖い。
だけど…
チラッと猪狩さんの方を向くと、「何だよ」と言いながらこちらを向いてくれる。
「いえ、何でもありません」
この班の人達となら、やっていける気がする。
「ここだったな」
「え、あ、そうですね」
色々と考えているうちに、着いたらしい。
「じゃあな」
そう言って猪狩さんは、後ろを向いてスタスタと歩き出してしまう。
「猪狩さん!」
思わず呼び止める。
こちらを向いた彼に、笑顔で言った。
「明日からもよろしくお願いします」
私の言葉に、猪狩さんは少し驚いたような顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「おう、また明日」
自分も、知らない間に口角が上がっていた。
仕事が楽しい、と思える日は、そう遠くないのかもしれない。
第ニ章はこれで完結となります。
明日から番外編をニ話更新した後、三章に入ります!
よろしくお願いします!!