第十九話 吐露
「とりあえず座れ」
「え?」
「いいから座れ」
連れてこられたのは、隠れ家的なイタリアンのお店だった。
「あの…」
「今日は俺が奢るから、なんでも頼め」
「はぁ」
まあ、来てしまったものはしょうがない。まだ夕方だし、お酒は頼まないでおこう。
メニューをペラペラと見ていたが、結局いつも通りのボロネーゼにする。量を少なめにできたので、少なめにしておいた。
猪狩さんはクリームパスタにしたらしい、お酒は頼まなかったようだ。
2人の間に、またしても沈黙が落ちる。
猪狩さんは、どうしてここに連れて来たんだろう。
それに、奢るって言われたけどなんで?
奢られる理由がない。
まあ、奢ってくれるのは嬉しいけど…でも、食べる気分じゃなかったのにな。
しばらくして、頼んだものが届き、2人とも黙々と食べはじめた。
「…なぁ、今日の討伐どうだった?」
注文した品を半分くらい食べ終わった時、唐突に話しかけられた。
猪狩さんの言葉に、一度フォークを置いて考える。
「正直、魔物を倒すってことを甘く考えていました」
どうしよう。どこまで話していいかな。
心のうちを全て話してしまっても良いだろうか。
だけど、余計なことまで喋ってしまいそうで。
それ以上喋らずに口を噤んでいると、猪狩さんがポツポツと喋り出した。
「俺が、初めて魔法を使ったのは、13歳の時だった。あの時は生きるために、ただ必死だった。あの時のことは後悔してないし、今後もしないだろう。だから、お前が、何を悩んでいるのか、俺には分からない」
突然の話に、一瞬意味を考える。
なぜ急に、自分の過去の話?
よく分からない、といった顔をしていたのだろう。
少しイラついた顔をして話を続けた。
「だから、お前が考えていることを話せ」
…??
つまりなんだ?
もしかして、慰めてくれようとしているのか?
…猪狩さんの好意に甘えて、話してしまっても、良いだろうか。
「自然発生したとはいえ、魔物を討伐するという、行為への罪悪感みたいなのがずっと心にあって」
私の話に猪狩さんは口を挟むことなく聞いてくれる。
「世界平和のためっていう、理由なのは分かってるんです。綺麗事を言ってるんだと思います。でも…」
でも、それでも…
「生き物を殺すことが、命を奪うことが、こんなにもあっさりできるなんて。
自分の魔力が恐ろしいし、それを分かっていなかったのに、スライムを討伐した自分がなんて愚かだったんだろうって」
ずっと、ふわふわしていた。
ずっと、現実味がなかった。
けれど今日、魔物を自分の手で討伐したことで、今までの出来事が一気に現実味を帯びた感覚。
涙は出ない。けれど、泣きたい。
そんな感覚に陥った。
私を一瞥した猪狩さんは、机に目を落とした。
「お前の悩みで、俺は悩んだことがない。だから、アドバイスとかは全く思いつかん。けどな」
私の方を見たかと思うと、肩肘をついた。
「話を聞くことはくらいは、俺にも、できる」
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