第十八話 疲れてるのに
疲労困憊だ。魔物が3体もいるなんて聞いてなかったし。急に討伐しろと言われたのも吃驚したし。
だけど…それだけじゃない。
何だか気分が晴れない。魔物を討伐するってことを軽く考えていたのかもしれない。
私は、この先ずっとこの仕事を続けていけるのだろうか。初討伐で、新人の私でもできる、簡単な仕事でこんなに堪えているのに…
行き道とは違い、車の中に重い沈黙が落ちる。
ずっと窓の景色を眺めている私に、猪狩さんは声をかけるわけでもなく、ずっと運転を続けたのだった。
♢♢♢
「今日はありがとうございました」
会社まで帰ってきた。今日は魔物を討伐したら直帰して良い、と言われている。
1日運転してくれた猪狩さんに、また今度お礼しないとな。
でも、今日はこれ以上どこにも行きたくない。ご飯も食べたくないし、お風呂に入る体力もないかも…
今すぐにでも家に帰って、ベットに寝転がりたい。
とりあえず、めっちゃ疲れた。
「…あの?」
すぐに車を出発させると思っていたが、なかなか車が動き出す気配がない。
どうしたのかと思い、顔を上げると、猪狩さんは私のことをずっと見ていたらしい。
私と目が合った瞬間、すぐに顔を逸らすと、私に「少し待ってろ」と言い残して車を発信させてしまった。
待っていろ、とは言われたけど、今は誰かと一緒にいたくない。1人になりたい気分なのだ。
上司の命令を無視して帰ってしまおうか。
でも、明日猪狩さんにめっちゃ怒られるのも嫌だし…
思い悩んでいると、向こう側に猪狩さんが見えた。
「うわっ、もう来た」
思わず2、3歩後ずさると、猪狩さんはムッとした顔でこちらに早足で近づいて来た。
「お前、なんで俺の顔見て後ずさるんだよ」
「いえ、別に…そんなつもりでは」
本当にそんなつもりじゃなかったのだ。
ただ、なんとなく、今日はもう1人になりたかっただけなのだ。
「あの、どこに行くんですか?今日はもう疲れていて、明日とか週末で良ければ付き合いますので」
「とりあえず、行くぞ」
猪狩さんは私の言葉を全て無視して、スタスタと歩き出してしまう。
本当にこの人強引だな。
「え、ちょっと」
「いいから、ついてこい」
でも、心なしか、いつもより言葉が優しい気がする。
なんなのよ、もう。
行きたくないけど、本当に行きたくないけど…渋々着いていくのだった。