第十六話 魔力だまり
「実際に自分の目で見て、確かめてみろ」
そう言って、猪狩さんは車を停めた。
どうやら目的地の近くまで来たらしい。
「ありがとうございます」
車での移動は良い。
私は運転ができないから、行きも帰りも猪狩さんが運転してくれるらしい。
猪狩さんの良いとこ、初めて見つけたかもしれない。
「つぅか、お前。運転免許持っとけよ。おかげでずっと俺が運転しないといけない羽目になったじゃねーか」
それについては申し訳ない。
だが、公共交通機関を使って、後で交通費申請してくれたらいい、と言われていたのに、わざわざ車を選択したのは、この人なのだ。
「なんで、そんなに車にこだわるんですか?」
思わず聞くと、猪狩さんは顔を顰めた。
この人は、嫌そうな顔が基本なのだろうか。お腹を抱えて大笑いしているところを、この1ヶ月一緒にいて見たことがない。
「俺たちの話が周りに聞かれでもしたらまずいだろうが」
歩き出した猪狩さんがどんどん歩き出す。
「す、すみません…」
私の反応に、猪狩さんがはぁ、とため息をついた。
「魔力だまりについては、話すより実際見て見た方が早ぇ。あと、魔力だまりがある場所は基本、立ち入り禁止区域に指定されているから、覚えとけ」
猪狩さんは歩きながら話を続けた。
「魔力がその場に『ある』と認識する、魔物になる前の魔力を認識することが、基本でありこの仕事をする上で最も重要なことだ」
言い終わった瞬間、猪狩さんが立ち止まる。
「猪狩さん…?」
私も立ち止まり、周囲を見渡すが、何の変哲もないただの森だ。
ここが目的地だろうか?
だが、魔力だまりとやらが見えないし、感じもしない。うーん、と目を閉じて集中してみても、全く分からん。
「……??」
困惑しながら猪狩さんを見上げると、引くわーという言葉が聞こえてくるような顔をしていた。
「あの?」
「お前が左足で踏んでる場所。魔力だまりだよ」
「え?うそ!」
反射的に左足を上げる。どうして先に言ってくれないんだ!
さっきまで左足を置いていた場所をよく見ると、何だか景色が歪んでいるような感じがする。
「これが魔力だまり!」
顔を近づけて観察していると、上から声が降ってくる。
「鈍すぎるだろ、お前!」
カチンと来た私は、振り返って言い返した。
「いや、言われなきゃ分かんないですよ!」
「左足のところだけ感覚違うな、とかねぇのかよ」
「ぜーんぜん、分かりませんでした!」
やいやい2人で言い合っていると、突然、視界の端に動くものが見えた気がした。
嫌な予感がして、バッとその方を向くと、そこには1ヶ月ほど前に見た、奇妙な生物がいた。
その生物を認識した瞬間、「いやーー」と絶叫した私は悪くないと思う。