第十四話 人それぞれ
「なんで出来ねぇんだ」
次の日も同じように、火に追いかけ回されたが魔法の発動は上手くいかない。
苛立った様子の猪狩さんに、段々とこちらも腹が立ってきた。
なんで、こんな命懸けで訓練を行わなければいけないんだ。
こんな状況じゃ、体の中の魔力を感じることも引き出すこともできないに決まってる!
「…あの!「調子はどうだい?」」
いよいよ怒りが頂点に達して、一言物申してやる、と思った瞬間、東雲さんがやって来た。
「全然できねぇっす。こいつ、才能ないんじゃないですか?」
はぁ!?
才能があるかどうかは分からないけど、少なくとも、こんなトラウマを植え付けられるような訓練じゃ、できるものもできないわよ!
東雲さんは、怒りでプルプルと震える私と猪狩さんを交互に見て、ため息をついた。
「猪狩くん。誰もが君のように、死にかけることで生存本能が刺激されて、魔法が使えるようになるわけじゃないよ」
「でも、それが手っ取り早いでしょ」
君のように…?つまり、猪狩さんは死にかけて魔法が使えるようになったのだろうか。
「仕方ない。私が初めは教えるよ」
「よ、よろしくお願いします」
そこから1週間は東雲さんが魔法を教えてくれた。
優しい。しかも、アドバイスが的確だ。猪狩さんとは大違い。
その日のうちに小さい氷のかけらを出せるようになり、1週間後、集中すれば氷柱を出せるようになった。
1週間、私の練習様子を見ていた猪狩さんは、「すまなかった」とめちゃくちゃ小さい声で謝ってくれた。
それ以降無茶な訓練はしなくなったが、それでも厳しい訓練なのは変わらなかった。
♢♢♢
「基礎中の基礎はできるようになったし、そろそろ初めての討伐、してみても良いんじゃね?」
魔法の訓練を初めて1ヶ月が経った頃、猪狩さんが唐突に言った。
「え!良いんですか?」
研修期間、というか魔法の訓練は最低でも3ヶ月って聞いてたのに。
「ああ、お前の魔法会得速度がクソ早ぇ」
プイッと横に視線を外しながら、猪狩さんがボソッと呟いた。
なんと!
1つできるようになっても、すぐに「次これ」って言われていたから、は魔法の才能無いって思ってたのに。最近ちょっとやる気無くしてたのに。
「討伐って、私は何をすれば良いのでしょうか?」
「ちょうど明日、定期確認に行かないといけないから、お前も同行しろ」
魔力だまりを確認しに行くって言ってたやつかな?
「承知しました」
「明日はスーツで来いよ」
やったー!この鬼のような訓練からやっと解放される!
その日は珍しく、ウキウキしながら帰宅することができたのだった。