(side東雲& ???) 動き出す
(side東雲)
プルルル、プルルル
臥龍岡の歓迎会は、本人が間違ってお酒を飲んでダウンしてしまったため、早々にお開きになった。
今日、新人について報告しなければいけないし、早めに終わったのは好都合。
「おう。意外に早いな。歓迎会、するんじゃなかったのか?」
電話の相手は、同じ大学の同期であり、現上司。
「早めに解散になったんだ。今大丈夫?」
「バッチリ仕事中。例の新人の話だろ」
「ああ」
察しがいい。長々と話すつもりもないので、要件に入ることにしよう。
「新人の、臥龍岡って言うんだけど、その子が今日、身体に魔石を完成させた」
「……は?」
こいつ自身も数年前まで現場に立ち、身体に魔石を持っているし、自分の身体を実験対象として研究している。
この異常性は、誰よりも分かるだろう。
「1日で、だと。そんなことあり得るわけない!」
「そうだね」
身体に魔石を作るのは、そう容易なことではない。
初めは空気中などにある魔力を練ることで魔法を使う。
慣れてきたら、身体に魔力を少しずつ溜め込むことで結晶化し、身体に魔石が完成すれば、空気中の魔力と自身の魔力を練り上げて魔法を扱うようになるのだ。
1日で魔石が完成するなんて、日常的に魔力に触れていた可能性が高いだろう。
「生活圏内に、未知の魔力だまりがある可能性がある。調べてくれ」
「はいはい。分かりましたよー」
「助かる」
そう言って電話を切った。
「何か悪い予兆でないといいけど」
そう願わずにはいられなかった。
♦︎♦︎♦︎
(side???)
深夜。住宅街の電気がほとんど消えた時間。
バルコニーで月を眺めながら、静かに1人で酒を飲んでいる人物がいた。
「まさか、1日で魔石を完成させるとはね」
正直、あと2、3日は掛かるかと思っていたが…
魔力の相性が良かったのかもしれない。
元々、いつ身体に魔石が出来てもおかしくなかったのだ。ただ、きっかけが無かっただけ。
「これからどうなるか…」
あの子は私を受け入れるのか、それとも拒絶するのか…
どっちにしても、楽しみなことには変わりない。
「げほ、げほ」
隣の部屋から、咳き込む声が聞こえた。
「……っ」
あの人はもう長くない。
この人がいなくなったら、私は…
今までは、自分の思う通りになんでもすることができた。周りも、世界も、全て。
でも、この世界では上手くいかないことばかりだ。
いや、今は考えないでおこう。
その時が来ない限り、私自身も、私がどうなるか分からない。
それよりも、あの子のことだ。
あの子のことを考えるだけで、心があたたかくなる。
これは愛しい、という感情なのか。全く別の感情なのか。
それとも、初めて酔ったのだろうか。
楽しくて仕方なかった。
早く、早く成長しなさい。
「私の可愛い…」
最後の言葉は、突然の強風で掻き消されたのだった。
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