「やんちゃ」の会話
店に五人ほどの女性たちがどやどやと入って、いや押し入ってきた。
先頭の化粧の濃い小太りの女には見覚えがある。
このビルの三階にあるラウンジのママだ。
その後ろの奴ら共々、ここの店々を取り仕切っている顔役だ、とか抜かしている面々だ。
ま、こんな連中がこんなタイミングで多人数でやってくる理由なんか、幼稚園児でも想像がつく。
「アンタ、ここに店だしときながら、挨拶も無いのかい!」
やっぱりそこいらか。
「あら、ここの組合にはちゃんと参加して…」
「舐めてんの、アンタ?!」
ぐい、とスカートをまくり太腿の薔薇の入れ墨を見せつける。
「この『紅薔薇の陽子』さんに挨拶が無いって、言ってんだよ!」
後ろの一人も上腕部の悪魔かなんかの模様を曝け出す。
ヤクザの情婦、番を張ってた、逮捕歴が…、「やんちゃ」してた…、あーあ、もうそれこそ何百回聞いたセリフだろう。
適当にあしらおうと思ったその時に―
「あんたなんかよりゃ、ずうっと世間を恐れ入らせてきたんだ」
…ん、何故だかなんかその言い回しに、カチン、とくる。
今までに感じた事の無かった、気持ち?
何だろう、つい、言葉が出てしまう。
「…ふうぅん、あたしより? 言うわねえ、んじゃあ、あたしの『やんちゃ話』、知りたい?」
「はん、聞かせてみな」
「じゃ、その前に…」
ママはひょいとスカーフを取りだし、頭にかぶる。一瞬きょとんと皆がする間に、すっとそれを取り去る。
そこには頭に狐のような耳の生えた、ママの姿。
「あははっ、何だよそれ!」
「ちょっとした演出よ、気にしないで」
「それよりアタシの昔のやんちゃ、見たいんだろう?!」
今まで言った事が無かったような気がするが、何だか、止められない―
「たっぷりと見な、ほうれぇ!!」
辺りが暗転し、立ち竦む彼女らの前に、大昔の惨劇のシーンが映し出される。
焼けた銅製の丸太を必死の形相で渡るが、油で滑って転落しそうになる人の姿。
丸太にしがみつき、熱くてたまらず、ついには耐え切れずに猛火へ落ちて焼け死んでしまう姿。
銅製の円柱に縛りつけ、その円柱を業火で熱して焼き殺す。
生きたまま皮をはがれる姿。
その身体を鋭い刃物で、じっくりと少しずつ、削り取られる姿…
そして命乞いなどものともせず、叩き落される何千もの、首―!
「どう? これがあたしの昔の『やんちゃ』よおっ」
「みんなあたしが、やった、やらなきゃ、ならなかった、こと!」
『やった、やらなきゃ、ならなかったこと』、え、アタシー
え、そんな、今まで言ったことあったかな、でも、でも、言ってしまう―
「ひょっとしてアンタ、タイマンで相手を病院送りとか、クスリなんかやってブタ箱ぶち込まれたとかが『やんちゃ』って思っているぅ?」
「うふふふっ、ちゃんちゃら可笑しいわ。そうだ、いっぺんアタシが命を奪った人間の数、見てみる?!」
ズオオオオッ、死体の山、いや山脈がママの後ろに現れてくる。
「アンタらのワルなんてミジンコよっ、アタシの『やんちゃ』の一欠片で押しつぶしてやる!!」
ドドドドッ―、彼女らに向かって崩れ落ちてくる死体の山!
ぎいやああああーっ!!
静かになった店の中、気絶し倒れ伏す五人の女たち。
少しの間を置き、ママはうつむき、顔をおおう。
ああ、やっちったなあ、何だか「アイツ」に会ってから、ちょっと、アタシ、おかしい、かな、
はは、どうしたんだろ…