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王都到着





森の樹々を直下に、鳥の群れは頭上を飛んでいる。

たまに大きな飛ぶ系の魔獣をさらに高い位置に見ることはあったが、やはりそれ以外に出会うことはなく、そうなると当然襲われる事もない[浮舟]のフライトは快適だった。

[トレハンツ獣王国]の貴族達が飛ぶ騎獣を移動用に重用している理由も頷ける。

なぜなら、快適すぎて暇になり、景色に変化もないので、すぐにその暇を持て余すことになった。


ハティは暇に耐えかね、[エアーボード]でゆっくり飛ぶ事を覚えた。

スピードを出すよりテクニックを磨く事に専念したらしく、[浮舟]の周りで、急発進急停止したり、宙返りしたりとアクロバティックな飛行を色々と試している。

仕方がないので毛布で防寒着を作ってあげたが、随分と不格好だ。

マントは危ないので脱いでもらった。

どうやら、〈風属性〉の魔法と併用して遊んでいる様で、ありえない様なその飛行方法は、どちらかと言うと鳥より、虫の動きみたいに見える。

楽しそうでなによりだ。


何日かかるかわからないと思われた一ヶ所目の関所には2日で到達し、調達する物資もないので、その日のうちに先に進み、森の中で小屋を出し一泊する。

そうすると、1週間もしないうちに3ヶ所目の関所も通過して、10日も経たずに王都へ着いてしまった。


それまで楽な格好で移動していたユリナも、流石に今日はこちらの世界の服装に戻す。

流石に王都では、しばらく滞在する事になるだろう。

物見遊山もあるが、ライオス様への挨拶もあるし、街壁の中の宿屋に泊まるべきだろう。

面倒だが人目につく事になる。


王都を囲む外壁が小さく見えた時点で[浮舟]を着地させ、懐に蔵う。

[トレハンツ獣王国]王都は、草原の小高い丘の上にあった。

街を横断する川が流れ、大きな堀に囲まれた城を中心に、四方八方に大きな道が整備されており、それぞれが、大小の門に繋がっている。


「もっと近くで着地すればよかった」

「見晴らしがいい。[浮舟]を隠したいなら難しいんじゃないか?」


王都は、12の側防塔と幕壁で守られ、東西南北に伸びる街道に合わせて巨大な門が4基、その間に荷馬車が4台並んで通れるほどの門が4門あり、こちらを使うのが一般的なようだ。

つまり、この道を行き壁に辿り着いても、さらに本街道から、壁沿いを少し歩かなくてはならない。

おそらく、人が徒歩で通れるほどの目立たぬ出入り口が複数対あるだろうが、そちらを利用するのはこの国の警備関係者のみだろうな。

ユリナは、枝分かれする道を進むよりも、とりあえず真っ直ぐ街道を進み、南の大門を目指して歩く事にした。


森の中を歩いていた事を考えれば、整備された街道を歩けるなんてありがたい。

道すがら農作業をしていた獣人に話を聞くと、この街道は、それぞれ次の集落まで続いているのだそうな。

次の集落までずっと農地なのだろうか? だとするとかなりの規模だ。

森と海に挟まれてはいるが、都会にしては農地が広いし、まさかとも思うが、王都までこの集落だけで自給自足できてしまう仕様なのか?

とすると、それぞれの街道がつなぐ次の集落までが、王都防衛の範疇という事なのだろうか? 壁のさらにさらに外。

なるほどこれは、移動手段が馬と徒歩のみの、ヒト種の王都では無理だろう。


「この道って、農作物を荷馬車で運ぶための道なのかしら?」

「多く集まって暮らす場所は利便性優先なのだな」


チラホラと、荷車や、やたらでかい馬がいるのを横目に、9kmほど歩いて、やっと大手門に辿り着いたユリナは、疲れも忘れてその巨大な門を見上げた。

[連合国]側のいち小国が、一体どうやってこの城を落とすつもりでちょっかいをかけていたのだろう。

ほんの数年前まで戦火の絶えない紛争地帯だったとは、とても思えないほど、[トレハンツ獣王国]の王都は富んでいることが一目瞭然だ。


『連合国など、所詮獣避けの緩衝地帯に過ぎぬ』と、言っていたのは王妃様だったか。


ユリナは、よぎった過去を頭を左右に振るい払う。

隣国も、王都まで落とすつもりはなかったのか、所詮獣王国も手を抜いていたのか。おそらくどうせその辺の事情はくだらない茶番のひとつでもあったのだろうが、戦争なんていつでもどこでもそんなもんだ。と、ユリナは遠い目を南西に向けた。


踏み固められただけだった農道が、街壁周辺は、切り出された石ブロックがはられて随分と見栄えも良く、凹凸も無く歩きやすい。できるけどやらない。を体現している技術力の高さを感じる。

ユリナは壁の中に入るのが楽しみになってきた。

そこから更に歩く事30分。やっと人の出入りのある南西門に辿り着いた。


「みんな荷馬車や荷車を引いているね?」

「冒険者風のパーティもいるが、農作業終わりの住人の方が多いのかな? 市は朝にたつもんだと思っていたが」


荷物は野菜や果物の収穫物でいっぱいだ。

前日に収穫して、次の日の朝、市で売りに出すのが主流なのだろうか?


門は、行列するほどは混んでいなかったが、それなりに人は多く、荷馬車や荷車をひく獣人と、比較的軽装な入壁者とで分かれていた。

ユリナ達も倣って、冒険者風の徒歩組の後ろについて、行儀よく順番を待つが、2人の門衛がこちらに歩き寄ると、ユリナとハティをジロジロと不躾に見た。


「ヒト種のお嬢さんは、珍しいんだ。入壁の目的を教えてくれ」


ユリナはそっと[通行手形]を見せる。


「・・・こちらに」


促されるまま、前にいた冒険者パーティの視線が刺さるなか、閤を通りあっさり壁をぬけると、兵舎だろうか? 帯剣した衛兵がたくさんいる建物の中に入る。

皆にジロジロとみられながら、廊下を通り、応接室に通された。


「少々お待ちください」


と、案内した衛兵が出て行った。


「・・・こんな対応をされるのは初めてね?」

「丁寧なのか乱暴なのかよくわからない対応だな?」


それは2人が“毛のない種”だからなのか、これが王都でのデフォルトな対応なのか。

何の説明もないのは気になったが、2人は大人しく待つことにした。

ハティは最初立っていたが、ユリナは「落ち着かないから2人の時は座って」と、隣り合ってソファに座らせた。


「そういえば聞こうと思ってたんだけど獣人って、見た目でその種類を判断しているの?」

「? 種類の判断? 獣人か獣人じゃ無いかって事か? それとも個体の種類って意味か?」

「まぁ両方?」

「オマエはどうしてる?」

「見た目で。鑑定するのは許可を得てからだし、詳しい種類までは、獣人自体初めて見たから大まかにしかわかんないかも」


耳や角の形で犬科か〜とか猫科か〜とか? と、ユリナは、首を傾げて説明している。


「多分、同じだ」

「そうなの? だって、獣人としての身体的特徴がぱっと見じゃわからない獣人だっているんじゃないの?」

「いるだろうけど、必要が有れば、聞くか、言うかするだろうし、個人のステータスは基本的に秘匿されてる」

「親しくもない人にステータスの公開をしないのはヒト種も同じよ?」

「うん。だからそう言った」


あぁ、なるほど。

ステータスの一部なのか。まぁ言われてみれば、身体的特徴ごとに、できる事とできない事がハッキリしているってのは、ヒト種で言うところの【スキル】のようなものなのかも。

個人情報っちゃ個人情報か。


「ヒト種は、犬、とか、猫とか、こだわり過ぎじゃないのか? 獣人はどんな獣が元になっていても、ヒト種より力が強く、身体能力が優れている事には変わりないぞ?」

「獣人には、ヒト種だけわかるって事?」

「・・・俺も違うと思われている。獣人じゃない事がわかる・・・のか」

「そうゆう事か」


「それより、もう直ぐ日が暮れる。いつまで待たされるのだろう」

「あぁ、そういえばそうだね。宿も決まってないのに困ったね」


ハティが、ソワソワと、落ち着かなくなってきた。

そりゃそうだ。

ここは見知らぬ土地で、見知らぬ人達に囲まれた街。迂闊なことはできない。

そういえば、身元調査すらもまだされていない。この[通行手形]で、全て保証されるのだろうか?

宿も決まっていないのに、店や受付が閉まる時間になってしまうのは困る。


「多分、部屋の扉の前に誰かいると思うの。ハティ、見てきてくれる?」

「いるのはわかる」


ユリナは「お、流石」と、ひと褒めした後、ハティに「担当の方に取次ぎ願えるか」聞いてみて。と頼んだ。

ハティは頷いて、扉を開けると、そこには部屋まで案内した衛兵とは違う獣人が立っていた。


「宿の心配なら要らない。特に指示がなければ、こちらの指定した宿にいてもらう事になる」


ハティがお伺いを立てる前に、中での会話を聞いていたかのように答えられてしまった。

ハティは思わず片眉を上げてその獣人を見た。


「・・・・・」

「それはここからどのぐらいの距離があるの? 私、疲れてしまって」


ハティが黙っていると、いつの間にかそばに来ていたユリナが、そのまま質問を続けた。


「慣れない長旅で、足が痛いの。せめて後どのぐらい待たされるのか、聞いてきていただけないかしら?」

「部屋から出すなと命令されています。私はここから動く事ができません」

「あら? そうだったのね」


衛兵の無機質な答えに、とりつく島がないと判断したユリナは、スゥ と大きく息を吸った。


「すみませーーーーーん!! 責任者の方っいらっしゃいませんかぁー!」

「んな!?」


ユリナの唐突な叫び声に、衛兵は驚いて声を上げた。

ユリナは、気にせず身を乗り出すと、大声で人を呼ぶ。


「すみませーーーん! お腹すいちゃったんですけどー!?」

「何やってんだ!? やめろ!」

「部屋から出てない。大丈夫大丈夫」


ハティも、驚いた顔をしているが、ユリナは「人を待たすなら、事前説明ぐらいするべきだわ」と、慌てる衛兵の制止も聞かずに、もう一声あげた。


「すみませーーん!!」


「待てっ! わかった! 大きな声を出すな! 今ひとを呼ぶから黙れ! まったく、なんて女だっ」

「はぁ!? 先に無礼をはたらいといて、何言ってんだ? 女だからって大人しくしてると思ったら大間違いだっつうの!」


バタンっ!!


ユリナが口を返した瞬間、ハティに引き戻され、勢いよく扉が閉められた。


「波風をたてないのではなかったか?」


ハティは「聞こえているぞ」と扉の先を指してゼスチャーした。

ユリナは、深呼吸をして、「わかってるわよぅ」と返事をすると、部屋の木戸を開けて外を見た。外側には金属の格子がはまっている。

そろそろ本気で部屋から出る事を考えないと、日が暮れてしまう。


ユリナが「変形させてやろうか」と金属の格子に手をかけた瞬間、ノックもせずに部屋の扉が開かれた。


「何を?」


眉間にシワを寄せ、コ綺麗な黒いスーツに身を包んだ、シュッとしたイケメンに似合わぬ、ウサ耳をつけた獣人が現れた。

ユリナは、窓枠にかけていた右足をそっと床に下ろして答える。


「もしかして、監禁されているのかと危惧しまして」

「対応が遅れまして大変申し訳ありません。それは、この建物の仕様です。ライオスより伝言を預かってまいりました」


ウサ耳イケメンは名乗らずに、トレイに乗った封筒を差し出し「よろしければこちらで」と、ソファへの着席を促す。

ユリナはゆっくりとソファに座りなおし、トレイを受け取った。

ハティはその後ろに侍り立ち、緩やかにウサ耳イケメンを観察する。


手紙を読んだユリナは頷いて「了解しました」と、ウサ耳イケメンに告げ、手紙を懐に蔵った。


「この後、公爵邸にご滞在いただくか、街の宿にするか選べますが、いかがいたしますか?」

「必要な物を調達したら、速やかに出立したいので、できれば宿をご紹介頂きたいのですが?」


ユリナがそう告げると、ウサ耳イケメンはあからさまにほっとした表情をした。


「ご用意済んでおります。馬車にて送迎しますので、ご一緒いただけますか?」

「ありがとうございます」


ウサ耳イケメンについて部屋を出ると、先ほどの衛兵が頭を下げている。

廊下を渡り、建物を出るまで、出会った衛兵全員が、頭を下げ、こちらと目線を合わせないようにしている。

先には、金細工で装飾がほどこされた、美しく黒光りする豪奢な二頭引馬車が停まっていて、ユリナは、その光景を不思議に思いながらも、手を取られ黙って馬車に乗り込んだ。


ハティと、並んで座ると、扉は閉められ、ウサ耳イケメンが御者台に上がったのを感じた頃、ユリナは天井から吊るされた鈴を慣れた手つきで引き鳴らした。


馬車はゆっくりと進み出す。


道が良いのだろう。乗り心地は悪くない。

ユリナは、ライオスからもらった手紙を出して「今ヴェストランにいるんだって」と、ハティに告げる。

ハティは「聞こえているぞ」と、御者台を指してゼスチャーする。

ユリナは、顔をしかめて「めんどくさいなぁ」と呟くと、帳面を懐から出して「それじゃあ詳しくは宿で」と書いてハティに見せる。

ハティは頷いて前を見た。



馬車は20分ほど走るとゆっくりと停車した。

ノックの後に扉を開いたウサ耳イケメンは、中の状況に困惑した。


「本当に、疲れて限界だったんだ。このまま部屋まで連れて行っても良いか?」

「・・・もちろんです。必要な手続きは済ませてあります。ごゆっくりご滞在ください」


ユリナは、ハティにもたれかかって眠ってしまっていた。

ハティはお姫様抱っこでユリナを抱き上げると、そのままウサ耳イケメンの後をついて行く。

どこぞの貴族のお屋敷のような立派な建物の中に入ると、従業員らしき獣人たちが、ここでも皆頭を下げ、視線を床に向けている。


「詳しい事は、宿にいる係の者が説明します。遠慮なくお呼び付けください。それでは失礼いたします」


2人を部屋に案内すると、ウサ耳イケメンはさっさと帰って行った。


ハティがざっと部屋の中を見ると、目の前にはソファとローテーブルの応接セットがあり、その先に仕切りのような壁のさらに奥に、天蓋付きのベットがみえた。扉は無い。

ひとまずそのベットにユリナを寝かせると、紐を解いてブーツを脱がせた。


「・・・・・」


ハティは、そのままコルセットの紐に手をかけ、止める。

ここまで何度か夜の寝支度の様子を見ているので、ユリナがどんな状態でベットの上に居るのかは把握済みだ。


「・・・本当に寝ているのか?」


疑問に思ったハティは、そっとユリナの頬に手を当てた。

規則正しく呼吸する肺は胸をゆっくりと上下させ、頬の感触に動揺する様子もない。


「こんな状況で熟睡するなんて、今後コイツ大丈夫なのか?」


そのまま、スリスリと頬を親指で撫でなぞっていると、その顔はヘラリとだらしなく緩んだ。


「・・・・・」


ハティは、立ち上がって部屋中を見て回り、部屋の近くに人がいない気配を確認すると、扉の閂を下ろし、胸のボタンを押して、窓の木戸をあけた。


空は、すっかり日が暮れて、真っ白な半月がくっきりと浮かんでいる。


「月は、以前もこんなに美しかったか?」


銀狼は、しばらく月の光を浴びてから、器用に前足で木戸を閉めると、ユリナの眠るベットに上がり、隣に寝そべって瞼を閉じた。

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