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護衛ってなんだろう?




他を知らないので、先日猫の獣人の子供を助けたあの場所に来た。

ハティも、何も言わなかったので、「さて」とユリナは話を進めた。


「私はこれから小さな家を作るわ。なるべくこじんまりとしたワンルームで」

「何を言っているかわからんが、俺はその間、手伝えることはあるのか?」

「あら!手伝ってくれるの?」

「・・・おそらくだが、この辺は決まった森ウルフのテリトリーだ。アイツらしかうろついていないなら、しばらくはココには“誰も”寄りつかないだろう」

「やだ。わかりやすい。ハティ、ちゃんと喋れるじゃない」


ハティが半目でユリナを睨む。

ユリナはその視線を軽くいなして、わかりやすい説明のお礼に、きちんと順次立てて説明することにした。

何せ、ここはしばらく安全らしい。

そうなのだ。なんでも殺しゃ良いってもんじゃない。


ユリナはニッコリ微笑んで、地面に手をかざすと、テーブルと椅子を二脚出して「座って。お茶をいれるわ」と、着席を促す。

大貴族の邸宅にありそうな豪華な飾りのついたテーブルに、金細工が装飾されている布張りの椅子が突然目の前に現れ、ハティは一瞬驚くが、声は出さずに素直に椅子に座った。


「簡単な流れを説明するわね」


整地 家を建てるスペースの確保と材料の採取。

魔法陣石板作成 石板に魔法陣を刻み、小屋の土台にする。

模型制作 小屋のミニュチュアを作る。

魔法陣展開 小屋完成。


「こんな感じかな」

「さっぱりわからないが?」

「この石板の上で作ったミニチュア模型を、この石板を大きくした石板の上に再現させることができるのよ。もちろん、相応の材料が必要だけど」

「それは、また、凄い術だな」

「錬金術って便利だよねぇみんな覚えれば良いのに」


どうやらこちらでの錬金術は、本来【スキル】ではなく、〈無属性〉から派生する〈魔法〉らしいのだ。レシピさえあれば再現可能と仮定すると、コモン魔法が使える魔法使いなら、誰にでもできるかもしれない。


石板に、魔法陣を刻み、1/12(インチ)スケールでミニチュアハウスを作る。

なるべくパーツを細かく分けて作ると、実寸台になった時に違和感無く建ちあがる。

とは言え、細かいところは、大きくなってからの方がやりやすいので、ミニチュアで作るのは、言うなれば“側”だけだ。柱を組み、床と壁を作り、屋根を作る。

建具や家具、水回りなどの細かい作業は実寸台になってから。

平面図を書き、ミニチュアで使った石材と木材、板や柱の数を細かく記入しておく。


「森の中にある家っぽく偽装した方がいいよね?」


ついつい作りやすいように考えてしまうが、森との調和がある方がいいだろう。

偽装や隠匿の魔法は付与するが、完璧では無いのでデザインは大事にしたい。

石材で柱を作り、壁の木枠を組んだら、耐火石膏ボードの間に断熱材を入れるのだが、さて、どうしよう。


「温度や湿度は、魔石でコントロールするから、丁寧に作り込む必要はないんだけど、今の私ならエアロゲル、作れるかな?」


つまりは多孔性のゲル状な物を作ればいいわけで。

この世界でゲルといえばスライムだが、核を抜いたスライムがそのままの状態を保ってくれるかしら? 無難に、ガラスでグラスウール作るか? どのみちガラスを作りたいから、石英が必要だな。石灰はこの辺でも調達できそう。


「明日は砂浜に行きたいのだけど良いかしら?」

「構わないが、なんで海に行くんだ?」

「ガラスを作ろうと思って」


ユリナは、その辺の岩肌に手を当て、レンガのように石材をブロック状にして抜き取ると、定規で測り「花崗岩だ。良いね」と一言発すると、そのままごっそりと、その岩をくり抜いた。

しばらく歩き、またしても大岩の前でその成分を鑑定すると、岩をくり抜く。を繰り返して、面倒になったのか、石切場の場所を聞いてきた。


「街壁に使った石切場がどこにあるか知ってる?」

「・・・こっちだ」


そう遠くない場所にそれはあった。ひと気はなく、もはや機能していない採掘場らしい。


「恒久的な石の切り出しって、しないのかしら?」

「街壁はできたし、もう必要ないんだろ?」

「そうゆうものかしら?」


色々使い道はあるだろうに。ユリナはこれ幸いとばかりに石を切り出し懐に収めていく。

ラッキーな事に、石灰も大量に入手できた。今日のところはこれで勘弁してやろう。

家ができるまでは、暗くなる前に街に帰らないと。そう思って、湧き上がる疑問が一つ。


「ハティって、壁の内側に自分の家があるの?」

「家は、ない」

「・・・じゃぁ、どこに帰ってたの?」

「地下だ」

「地下?」

「地下に住む獣人もいる。そのひと気の無い場所を寝ぐらにしていた」


やむを得ない夜間の移動も、その地下の穴。と、言う事らしいが。もしや、普段ベットで寝ていないのだろうか。


「でも、宿屋でも大丈夫だったじゃない。今日からは宿屋に泊まるの?」

「・・・良いのか?」


どうせ[ヴェストラン]に着くまでのハティの宿賃は私が払うのだ。今晩からだって同じだろう。実質公爵様持ちなのだから問題無い。


「良いんじゃ無いかしら?」

「でも、どうするんだ? 広い部屋に移るのか?」

「どうゆう事?」

「今オマエがいる部屋は、ベットが一つしかないじゃないか」

「同じ部屋に泊まるの?」

「護衛はそうするのではないか?」

「・・・なるほど」


昨晩の事は、不可抗力だと思っていたが、そうか。そうなるのか。

今まで、部屋が扉の内側で二間に分かれているような宿屋などに出会したことがない。

今までに遭遇したのは、ベットが一つの1人部屋か、ベットなどない雑魚寝の部屋だ。そうゆう宿屋は男女にも分かれていないのが大概だ。


おそらく、元いた世界のような宿屋はないのだろう。

貴族や大金持ちは基本宿屋には泊まらない。金の問題ではないのだ。

こちらの宿屋は、個人の住居を持たない者の仮家なのだ。家族やパーティなど、人が多くなれば、それなりの家屋、一軒屋を借りるのだから。


「んん? もしかして、道中の宿屋でも二部屋借りる感じになるの?」

「それだと護衛の意味がないんじゃないか?」

「他の人はどうしてるんだろう?」


ユリナは、はたと考え込む。

貴族は・・・いや、それどころか、女子供が1人でウロウロできる世界じゃないのに、そもそも男女2人での旅路などあり得ない。一般人は旅行しないし、ましてここは単独移動が基本の獣人の国。

冒険者ギルドで最初に受けた忠告を思い出した。


『“人間用”にできていないんだ』


「あ〜詰んでるじゃ〜ん!」


家を作る前に、作らなければならないものがあったとは。

ユリナは大慌てでその辺の樹木を大雑把に【収納】すると、取り出し、【錬金錬成】で乾燥させ、板状に変え、衝立てとすのこ状の簡易なベットを二つ作り、「暗くなる前に急いで帰るよ!」と、バタバタと片付けて、街まで急いだところで、日の入りの時間だ。すぐ夜になる。

無情にも本日のタイムリミットが来てしまった。


「屋台で何か買って、部屋で食べよう」


どうゆうことか、いまいち理解できないまま、ハティは黙ってユリナに着いて歩く。

自分から何かを提案する事はない。良い大人が、それで良いのかしら? と、ユリナは思っていた。


でもそうよね。ハティも壁の外に出たことがないのだもの。旅のガイドまでは期待できないわ。

おそらくハティの仕事は、周囲を警戒しつつ私に着いて歩く事。有事の際は交戦。こんなふうにハティ自身も思っているのだろう。

まあ実際は他にも色々あるのだが、貴族の護衛じゃないし、それで良い。だが、この護衛には自身に『ただし日の光が強い時間帯のみ』と言う条件が付くうえ、旅に対する知識は同レベル。いや、むしろ、壁から出たことのないハティの方がやや劣るのでは無いか?

しかも、実質活動時間がこれじゃあ、実質自分が面倒見なけれいけないのでは? なんかこれ思ってたより前途多難なんじゃないかしら? ・・・いや、これは街に、人の多い所にいるからで、旅に出てしまえば、街や集落につくまではそれこそ2人きりなのだ。もうお互いの正体はバレているし、これはとっとと仕事を終わらせて、街から出るのが得策か。


ユリナが考え込んでいる間、ハティは何も言わなかった。

ユリナが話しかけもしなかったのだが、無視していたわけでは無い。むしろ、今後の二人のことを考えているわけだし。


宿に着くと、バカデカいベットを一先ず懐に(しま)い、先ほどのすのこのベットを並べ、間に衝立(ついたて)を置いて仕切る。

それでも部屋がずいぶん広くなったように感じるので、このまま備え付けのベットを蔵っておきたいが、そうもいかないだろう。ベットの出し入れは毎朝の仕事になりそうだ。

空いたスペースに、テーブルを出して、買ってきたサンドイッチを、2人でもそもそと食べ終えると、早々に寝支度を整える。


「ベットマットは明日街で用意するとして、宿屋ではこれで良いかしら?」

「俺は、別に良い」

「そう。じゃぁこれからよろしくハティ」


今晩は、仕方がないので、すのこベットの上に毛布を敷いて寝る事にしよう。

お互いすることもないし、もう寝てしまおう。陽が沈めば寝て、陽が上り起きる生活は、ここの世界では特段めずらしい事でもないし。

ユリナがのそのそとベットの毛布の間に潜り込むと、衝立の向こうでも、ベットに横になる気配がする。

部屋の扉の閂は下ろしているし、なんの問題もないだろう。


「・・・・・」


護衛ってなんなんだろう。


ユリナは、湧き上がる疑問を後回しにせず考えることで、今晩の夜のお供にすることにして、早く明日の朝になってくれると良いなと目をつぶった。

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