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孤独と恐怖1




 頭が、割れるように痛い。

 どうやら宿屋の部屋に戻っていたようだ。部屋は暗いが、見覚えがある家具が相変わらず大きい。自分のトランクがレターデスクの下に置かれているのが見える。

 窓の木戸の隙間から漏れ入る月明かりからすると、今はまだ夜中なのだろう。


 やってしまった。


 リリアーヌの身体の毒耐性は決して低くないはずだ。城でそれなりに訓練された。

 アルコールなんて相当飲まされたはずなのに。あぁ、そういえば、社交の要になりうる上、悪意の有無が確認しずらいアルコールだけは、まず先に酔い止めを飲むんだっけか。

 二日酔いなど、コチラに来てからは初めての経験かもしれない。


 水を求めて起き上がると、引っ張られた毛布の先に、露出多めな男がこちら向きに寝息をたてていた。

 “毛の無い”男では無い。文字通り、あの傭兵が上半身裸で寝ている。

 ペロリ と、残りの毛布をめくってみても、安心できない履いてませんよ。一糸纏わぬすっぽんぽん。上半身どころかものの見事に真っ裸だった。


 ユリナは慌てて横になり、はぎ取った毛布をかぶって自分の体を見る。服は着てる。服は着てるが、これはどうゆう事だ? どうしてこうなってる? 下半身に違和感はない。パンツもはいている。この身体はまだ未使用なはずだから、やったらわかる。わかるはずだ。わかるか? わかるのか?


 酒を飲んで意識を無くしたことなど一度もない。

 昨晩ジョッキをあおった後の記憶が一切無い。

 全く思い出せないじゃないか。

 信頼もできない人間の前で、酒など飲むべきではないのだ。

 馬鹿が。なんて、なんて脆弱な身体と心。


「う、うぅ、うぅぅっ・・・」


 こんな失態は前世と併せても初めてだ。なんと愚かな小娘だ。つい最近、1人で生きていくと息巻いていたあれが、所詮ただの虚勢だと暴かれたようで恥ずかしい。

 結局何かに頼ってしまわないと、目的地にまで辿り着く事もできない弱い人間なのだと、現実を突きつけられたようで、情けなくて堪えきれなかった。


 は、そんな事より! この世界には、当然コンドームなど無い。避妊の方法が実質無いのだ。その点はバッチリ王妃教育で学んでいる。どうしよう! 妊娠してたら!

 途端に恐ろしくなる。無理だ、知らん男との子を、十月十日(とつきとうか)も腹の中で育てて出産して、成人まで無事に育てあげるなんて、自分には絶対に無理だ。考えられない。無理。怖い。鑑定で受胎しているかどうかわかるんだろうか?


「【鑑定解析】!」


 状態:健康


 え、これどっち? 妊娠って状態異常にはいるの? どうなの? いつからわかるの? 怖い。怖い。

 ボロボロに泣いてもはや嗚咽も堪えきれず、ベットから転がり出る。

 とりあえずこの場から逃げないと、このモラハラ男に今後何されるか分かったもんじゃ無い。

 ユリナは、偽装用のトランクも懐に(しま)って、速やかにこの部屋から出て行こうと、大きな音がでる閂がかかった扉を避け、窓から抜け出そうと窓の木戸を開けた。

 恐怖で慄くユリナを気にも留めず、相変わらず無神経に夜空に浮かぶ、大きな三日月。


 なんてキレイなんだろう。


「わ、バカ、オマエ! 何やってんだ!」


 窓枠に片足をかけた状態で、男に気づかれた、と、振り返ると、ベットの上には、輝かんばかりに銀色の立髪をなびかせた1頭の美しい狼が、プレイバウ状態でユリナを睨みつけていた。


「え、は? どうゆう事?」

「閉めろ! 戸を!」

「あ、はい。すみません」


 ユリナは言われるがままに、慌てて木戸を閉めた。


「あの、ハティさんでしょうか?」

「・・・そうだ」

「あの、これは、一体、どうゆう事でしょうか?」


 美しい狼は、ハァァァっ と大きなため息を吐くと、「オマエが! 悪いんだからな!」と、結論から述べた。


「え、はい。おそらくそうなのでしょう。申し訳ありませんでした」

「なっ!? なんだ!? なんでそんな急にしおらしい態度なんだ!?」


 間髪入れずに謝ったユリナに、狼はマズルにシワを寄せ歯を剥き出した。

 か、かわいい。何それ。怒っているの? 大丈夫。怖く無い。怖く無いよ。

 ユリナは無意識に両手をワキワキさせて、距離を詰めると、狼に飛びついた。


「だから! それをやめろ!! こっちに来るな!」

「なんで!? 良いじゃん! 少しぐらいモフらせてよ!」

「オマエ! そう言って散々、俺の体を、あんな、オマエ、あんな目に、俺をっ」


 急に言葉を詰まらせ、恥じらう狼。無理です。かわいいです。もう無理なのです。色々無理なのです。

 私には今癒しが必要なのです。モフらせて下さい。お願いします。


「オマエ散々そう言って俺の事をいじり倒しただろう! まだ足りないのかよ!」

「覚えてないんです。何も覚えてないんです。お願いします。もう一度始めからお願いします」

「い、嫌だ! オマエ、怖いっ! オマエ、気持ち悪いんだよっ!!」

「わぁ酷い! そんな辛辣に(なじ)らなくても良いじゃ無いですか! わぁぁぁん!」


 ユリナはとうとう大声をあげて泣き出してしまった。

 そうなのだ、目が覚める前もこうやって、ハティが渋々月の光を避け、酔っ払って寝こけたユリナを宿まで運んでやったと言うのに、部屋に着いた途端、窓を全開にして狼の姿になってしまったハティに歓喜し、散々撫で回し、いじり倒し、挙句に吐き戻してスッキリすると、とうとう泣きながら抱きついて、そのまま再び寝やがったのだ。


「少しで良いんです! 吸わせて下さい!」

「っなっ!? オマッ! バカじゃねぇの!?」


 大きな前足で、うつ伏せに背中を押さえつけられた。

 チカラじゃ全然敵わない。悔しいっ悔しいっっ!


「うぅぅっ」

「良いからそのまま聞けっ! 俺は狼男。月の光を直接浴びると否応無しに狼に変化してしまうんだよっ! だから、野外で夜間行動できない。専属護衛はできないんだっ!」

「えぇっ!? 獣人とか二足歩行型とか飛び越して、狼か人間の2択なのですか?」

「そうだ! しかも満月の光は【狂化】する! 長距離移動は無理だっ! だからオマエの護衛は、できない」


「俺は、この街から出る事すらできないんだ・・・」そう言って、ハティはユリナの背中から足を下ろすと、スっと後ろに下がり、ベットに戻ってシーツに潜った。


「え?」


 すると、“裸”の男の姿に戻ったハティは、シーツを体に巻き付けてベットサイドに座った。


「ハァァァァ」 そして頭を抱えて、盛大にため息を吐いた。


「狼男というのは、秘密でした?」

「そうだ。討伐対象だ」

「【変化】のせいですか? 【狂化】のせいですか?」

「両方だ。本来、街壁の中にいられる存在じゃ無い」

「ギルド長、ライオス様はご存知なのですか?」

「・・・わからない。俺の口から言った事はないし、誰かからその事について何か言われた事はない」

「ご両親やご家族は?」

「いない。他から聞いた事もない」

「・・・そう、ですか・・・」


 あら、という事は、この状況はもしかして。


「私達、別に何もないのね?」

「はぁ?」

「性交、性的な肉体のまじわりはなかったのですよね?」

「んなッ!?」

「良かったぁぁぁぁぁっ〜妊娠したらどうしようかと〜」

「そんな簡単にするかっ!」

「するよ! 健康な男女が致すんだから! どちらかと言ったらするんだよ? 気をつけたほうがいいよ?」

「狼男は繁殖力が低い! だからっ俺もっ・・・」


 そう言って、ハティは黙り込んでしまった。


「本当に、ご家族はいないんですか? どこか、会いに行きたい場所があるんじゃないですか?」

「・・・記憶が無い。俺にはこの姿形になる前の記憶が無いんだ」


 狼男は、【狂化】が起こるとそれ以前の記憶を失うと、何かで読んだことがある。


「鑑定で視ましましょうか? 年齢ぐらいなら、わかるかもしれません」

「・・・頼む」


 ハティ -才 称号[ベルセルク]過去に【狂化】の経験があると与えられる称号

 種 族:狼男

 スキル:【身体強化】狼男特有スキル

     【魔術】

     【変化】狼男特有スキル

     【狂化】狼男特有スキル

 魔 法:〈闇属性〉

     〈風属性〉

 加 護:ヘルブリンディの加護

 職 業:トレハンツ獣王国 国境検問所の街 (イースト) 傭兵

 状 態:健康


「あ〜・・・ごめんなさい、年、わかりませんでした」


 ユリナは、鑑定の結果を詳細を省いて書き写すと、そっとその紙を渡した。

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