辺境の事情……
「開拓地の住民の避難が…… 完了しました」
ボロボロで土汚れや血がこびり付いた騎士甲冑姿の男達が…… 膝を付く。
「そうか…… よくやってくれた。疲れたろう? みんな、休んでくれ」
「はっ!」
ボロボロの騎士達は、男に一礼して下がる。
「ふう……」
「王子…… ありがとうございました」
「辺境伯…… 何時までだ?」
騎士達が下がった後、溜め息を吐いた王子に難しい顔で辺境伯が礼を言ったら、王子が質問する。
「持って…… あと10日…… かと」
「そうか…… まさか、魔物に兵量攻めされる事になるとは」
辺境領は、壊滅の危機が迫っていた……
魔物の異常発生により、辺境の開拓していた町村は魔物に襲撃された。
辺境伯と訪問していた王子の迅速な避難誘導により、領民の人的被害は少ないが……
急速に増えた人口に領都は、食糧が不足していた。
「海も荒れて…… 漁や貿易もできない。王都や周囲の他領に頼ろうにも……」
「街道には……〝呪人邪竜〟が居座っていますからな」
辺境の危機を他領が知らないのは、王都に向かう街道に凶悪な魔物が現れたからだ。
その魔物は伝説の邪竜……
その名は、呪人邪竜【ラーカス】……
己に自ら呪を使い、邪竜になった男である。
「何故、かの邪竜がこの地に居座るのか?」
「奴は狂った男が魔物化した竜…… 楽しんでいるのでしょう。我等が苦しむさまを」
王子と辺境伯は、王都に続く街道の先を見た。
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グルルルルル……
街道のど真ん中で、自ら空けた穴の中…… 約14メートルの巨体が唸りを上げる。
瞼を閉じているが…… その巨体は周囲を魔力で探っていた。
(来ないか…… そろそろ頃合いか?)
巨体の持ち主の名は【ラーカス】…… 呪人邪竜の通り名を持つ邪竜である。
かの邪竜は、かつて人だった。
今は無き亡国の貴族の生まれで、裕福な暮らしをしていたが……
幼き日のある日に彼は…… 身分違いを目の当たりにした。
それは、美しい平民の女性が裕福な商人に買われ瞬間だった。
その日、彼は貴族として民の暮らしを知る様にと、街の視察に同行していたのだが……
街で1番の商店を視察していた時に、商店の主に金を借りた平民が金の代わりに娘を連れて来たのだ。
(権力や金に力…… 相手よりも、それ等が勝れば…… 相手を意のままにできる!)
貴族から金をもらい、平民の美しい女性を手に入れ、強そうな部下を持つ商人……
その姿に強い憧れを持った彼は、そこから如何にして権力と金と力を手にするか? ただそれだけを考え続けた。
「竜の巣には財宝があるのか…… しかし、竜に勝つとなると…… 竜と同じくらい強くなければ…… 竜と同じ力……」
竜の巣には財宝が眠る…… 事実、有名な竜や龍の多くは神の様に信仰されて、多くの貢ぎ物が捧げられていた。
その中には、金や銀に宝石等も多い…… また、地域によっては美しい娘を捧げる場合もある。
「俺が竜だったら…… 簡単な話なのに……」
権力と金と力を獲る為に調べる内、知った竜と言う強大な存在に激しく引かれる様になり、詳しく調べていると……
「呪いで姿を変えた…… だと?」
ある王侯貴族が魔女の呪いで魔獣の姿になったと知る。
「高名な魔女の弟子である…… そなたに頼みがある」
実家の領地に棲む魔女…… の弟子の少女を呼び出した。
「何でしょうか?」
「実は…… 少し遠い地に荒れ狂う竜が現れた様だ」
「竜が…… 遠いのならば、刺激しなければ大丈夫そうですね」
「そうも言い難いのだ…… 遠いとは言え、それは人にとってはの話…… 竜にとっては一瞬かも知れん」
「私…… どうしろと?」
「竜になる呪いを…… 私にかけて欲しい」
領地を竜から守る為と、魔女の弟子の少女を騙して竜になる呪いを受けた。
『これが…… 竜の力…… 流石だ……』
「荒れ狂う竜を倒したら、すぐに呪いを『必要ない』!? 何故です?」
『俺は竜として…… 貴様等を支配するからだ!』
竜になった彼は、魔女の弟子を丸飲みにて飛び立った。
その日、とある国が竜によって滅ぼされた。
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(ふむ、そろそろか…… さて、狩りを始めるか?)
彼は、知らない……
自分の思考が呪いより、人では無く魔物の様な思考になってしまった事を……
(絶望に満ちた人々が恐怖するの姿…… さらに、その者の愛する人を目の前で喰らってやるのは…… 最高だ)
彼は、完全に邪竜になっていた。
グルルルルル……(またか…… 何時になれば、この腹の重りが消えるのか?)
呪い後遺症か? 何時も腹に石の様な重りを感じながら、邪竜が巨体を震わせる。
(さあ、狩り…… その前に哀れな者が来た様だ)
辺境伯の領都を襲いに翼を広げ様とした邪竜が気付く、辺境伯の領都とは逆方向から来る馬車の音に……
その馬車は、破壊熊が引く魔物車だった。
「うわ!? ドラゴンじゃん!!」
その魔物車の上で、見た事の無い衣服の子供が声を上げた。
その姿に…… 邪竜は獲物が来たと嗤うのだった。




