異世界の車窓から…… 魔法でガンシューティングゲーム!?
「とりあえず…… これで大丈夫?」
木材剥き出しの魔物車の中に、ショッピングから買い出した…… 座椅子型のソファやジェルクッションに低反発クッションなどなどを大量に敷き詰める。
「ソファはネジ止めしたし…… クッションもカバーで固定したから大丈夫でしょう」
「金貨10枚分…… ですか?」
「あ、これ御者席に固定するから手伝って」
「「はい」」
電動工具で座椅子型の防水ソファをネジ止め……
(後で…… 車のシートでも買えたら、交換するか?)
オフロードカーのシートなら合うかも?と考えながら、とりあえず乗るのに問題が無いくらいに仕上げた。
「じゃあ、ラフディとグリズ……【イナバ】も頼むな」
御者台には、ラフディとグリズが俺のテイムした穴掘り角兎の【イナバ(♀)】を頭に乗せて座る。
ラフディの嗅覚強化とイナバの聴覚強化で索敵する為だ。
「索敵系に使えるスキル持ちで助かる。人数が増えたから…… パーティを分ける必要もありそうだしな」
女性の里山さんや織倉さんとは、別行動をする事が増えるだろうし、ニィーナやラミィもそうなるだろうからな……
「今の内に対策を考えておかないとな……」
「「???」」
「なんの事です?」
「いやちょっと…… 少し格納庫にいるから頼むね?」
「「うん」」
「どうするの?」
「ちょっと試したい事があるんだ」
「試したい事?」
「うん、ちょっとね」
そう言って俺は、魔物車の中から格納庫に移動した。
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「なに! 街を出て行っただと!?」
街の裏路地の酒場で…… 商人ギルドにいた伯爵の3男が怒鳴る。
「は、はい! 馬車屋から馬車を買った様で……」
「馬鹿な! 馬の売り買いは禁止だと通達したはずだ」
「それなんですが…… どうやら古く大きな箱馬車だけ買ったみたいで、馬車屋の店主と冒険者ギルドのサブマスターが馬は乗って帰ったらしいです」
「馬車を置いてきたのか?」
「その様です」
「どうします?」
「店主とサブマスター…… 馬は2頭だったんだな?」
「はい、1頭に1人で乗ってましたし、馬車屋から歩くサブマスターを見ました」
「あのガキ…… 奴隷に馬車を引かせる気か? おい、予定通りに人を集めたか?」
「は、はい」
「もうすぐ夕刻…… 街道でやるぞ」
テーブルを囲み…… 伯爵の3男の話を聞いていた男達が酒場から出て行く。
「あの獣人奴隷…… それにあのガキと女…… あいつ等を使えば、俺が貴族になる事ができるはず…… 逃がすものか」
商人ギルドで見たラフディ達の姿を思いながら、伯爵の3男がやらしい笑みを浮かべる。
ラフディ達は、かなり容姿が良く……
その上で現代日本式の入浴をしていた……
さらに、主人の【ヨミ(名無し)】が近くにいた為に、常に浄化された状態……
その為に、奴隷なのに下手な貴族より清潔で美しかったのだ。
そんな奴隷ならば誰もが欲しがるだろう…… そう、王族や上位貴族ですら……
(奴等を手土産にすれば…… 俺は…… 俺が伯爵家を…… いや、親父やあいつ等よりも上に爵位できるかも知れない…… そうなれば…… あいつも……)
伯爵の3男の頭に…… 貴族院で見た嫡男の婚約者の姿が過る。
「待っていろ…… もうすぐだ…… お前は俺の物になる……」
伯爵の3男は馬に跨がると…… 集めた連中を連れて駆け出した。
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「とりあえず、型は作って見たが……」
俺の前には、スチールパイプの銃身に杖とオモチャの銃の持ち手に…… 望遠鏡を貼り付けたなんちゃってスナイパーライフルがある。
「小学校低学年の工作みたいになったけど…… 弾は、オモチャのダーツの矢の先端に…… 釘で良いか?」
スチールパイプにダーツの矢を入れて構える……
「レーザーポインターでも付けるか? まあ、命中精度を確認してから…… !?」
プレハブタイプの格納庫で作業していた俺に、イナバの鳴き声が聞こえた気がしたので、魔物車の中に戻ると……
「襲撃!?」
御者席からラフディの怒号が聞こえた。
「どっちからだ!」
「主! 街です! 街の方からです!!」
「わかった。里山さんは金さんに指示を…… あんまり揺らさないでくれってね」
「え、それは?」
魔物車後部の窓を開けて…… 近付いて来る馬を視認、俺はゲームセレクトでゲームを変更し……
「エアバレット」
と、なんちゃってスナイパーライフルを構え、風魔法を唱えた。
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「何だアレは……」
馬で、奴隷を連れたガキの馬車に追い付いたが…… 大きな箱馬車を破壊熊が引いていた。
「破壊熊をテイムしたのか!?」
「ど、どうします!?」
集めた連中に動揺が走る…… それもそうだろう。破壊熊は冒険者や傭兵に騎士の壁と言われる難関だ。
破壊熊を討伐して上位冒険者や傭兵、騎士の仲間入りだと言われる魔物……
街の破落戸や盗賊被れには、恐怖の対象である。
「お、落ち着け…… 破壊熊とは言え、1体だけだ。後は女子供と奴隷だけ…… 先ずは落ち着いて、あの破壊熊に魔法を……」
「ぐあ!?」
作戦を伝えていたら…… 横にいた冒険者ギルドの解体士が馬から落ちた。
「いでぇ~…… いでぇよ」
よく見ると、馬から落ちた男の肩に…… 小さな矢が突き刺さっている。
「まさか…… 狙われたのか!?」
ありえない…… 広範囲魔法なら兎も角…… この距離を射る武器など……
「俺は知らない……」
その後は、集められた者達が我先にと逃げ出した……
此方の矢や魔法よりも速い攻撃……
馬から落ちたら最後、あの破壊熊から逃げられる訳が無い。
「もうダメだ! 奴隷なんかどうでもいい…… い、生きて帰れたら…… 俺は商人なろう」
必死に逃げる中で…… 親父の言葉が頭に過る。
「領主の貴族は、領地と領民を護る者だ」
貴族になったら、領地を護る為に……
あんな正体の分からない攻撃や魔物と戦わないといけないのか……
絶対に嫌だ!!!
護る貴族では無い、護られる領民になろう!
今日この日、正体の分からない小さな矢に……
貴族の俺は、殺されたのだ。




