やっと、城下の外へ。
「あ…… うっ……」
「織倉さん…… どんな感じですか?」
「あぅ…… その…… なんか…… あっ、じんじんする…… 感じです」
俺が浄回スキルを使いながら火傷を舐めていると、実習生の人が興味深気に織倉さんに質問している。
「ふむふむ…… 痛みを感じたりとかは…… 無いですか?」
「え~っと、最初はちょっと痛いかな…… その爛れた皮膚を剥がす感じで…… でも、徐々に痛かゆくなってじんじんとする…… みたいな感じ?」
「なるほど…… 痛かゆくてじんじんするの…… それで?」
「あぅ…… あの…… ですね…… その…… 気持ちいい…… です……」
「気持ちいいの?」
「お前達…… 会話だけだと如何わしく聞こえるから、治療の後にしろ」
メイドさんのツッコミのおかげで会話が切れたので……
俺は医療行為と割り切り、はやく終わらせる為……
織倉さんの患部を無心で舐めた。
時折漏れる吐息や艶かしい声は…… 聞こえない聞こえない……
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「私は戻りません!」
「でも……」
「先生も見たでしょ! 下手したら先生も燃えたかも知れないんですよ!」
「でも、誰がやったのかわからないし……」
「わからない? わからないから余計に戻りたくないんです! 誰かわからない加害者がいる処に…… 先生は戻るんですか?」
「うっ、でも…… 他の皆も心配していると思うの……」
「私…… 加害者はクラスメイトだと思います……」
「まさか…… クラスの誰かが織倉さんを殺そうとしたって言うの!?」
あの時…… 同行の騎士達を含めて、ダンジョンにいたのは16人。
先行していたのが4人の騎士で…… 召喚された人達は、スキル別に前衛と後衛に別れていた。
錬金スキル持ちの織倉さんは後衛で採取の練習、実習生の人は索敵系スキル持ちなので中衛の位置にいた。
「で、俺が織倉さんを拐った時に近いのは……」
「賢者と言われた喜原くんと…… 女子グルーブ…… だったと思います」
「その中で、火を出せるスキル持ちは?」
「喜原くん以外は不明です……」
「織倉さんが戻りたくないのが…… よくわかる話ですね」
「はい…… 言ってる内に、私もそう思いました……」
実習生の人も、加害者が誰なのか?だいたいの見当が付いた様だ。
「とりあえず…… 夜に1度、俺だけでダンジョンに戻ってみるよ」
「大丈夫なんですか?」
「俺はミイラに偽装していたし…… 協力者もいるから大丈夫ですよ」
織倉さん消失トリックを仕掛ける為に、俺は妖精に頼んでミイラに仮装したんだよね……
(そう言えば、妖精を忘れてた。やべぇ…… 迎えに行かなきゃ!)
俺は、心で妖精に謝りながら夜を待って、地下墓地ダンジョンに戻った。
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「ちょっと! 遅いじゃない!!」
「あ、ごめん…… あんな事があったから、警戒して夜を待っていたんだ」
「ああ、あれね…… 私もビックリよ!」
「誰が放った魔法かわかるか?」
「ごめん…… 見てないわ。あの威力から…… 中位の火魔法系だと思うけど」
「そうか…… 俺達が消えてからの事を教えてくれ」
「そうね……」
妖精から聞いた話で…… 爆散したハリボテ棺桶を回収しようとしていたけど、火力が強くて燃え尽きた事や……
織倉さんと実習生の人を必死に探していた事を聞いた。
「騎士に無理矢理撤収されていたから…… 不自然な感じは無かったわね」
「う~ん…… 暗殺が狙いでは無い感じか?」
「怪我させるだけのつもりで魔法を撃ったら…… 高火力だったって、感じじゃない?」
「あるいは…… 後からビビったか?」
「それもあるかもね…… 人間って面倒ね」
「怨みでダンジョン化した…… お前もたいがいだがな。で…… 今、連中は?」
「一時的に城に戻ってるみたい。すぐに戻るって言っていたから…… 早めにダンジョンを出た方がいいわ」
「勇者達を戻してから救助部隊を連れて来る気か…… 見られるとヤバイな。街の外に出る道…… わかる?」
「こっちよ」
細く掘られた地下を…… わずかな光を頼りに妖精の後を進む。
「これは…… 外か?」
「拡張中に間違って外に通じたみたいよ。排水にも使用してるから…… あなたなら通れるでしょ?」
「下水スライダー…… 逝きます!」
「ちょっ、私をあの部屋に送ってからにしてよ!」
「あっ」
妖精をベビールームに連れて行ってから、下水にダイブ! 鉄格子の隙間をギリギリで通り抜けると……
「滝でした!? ぎゃあぁぁぁぁぁ……」
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「く…… くそ…… さ、3回…… 死んだ……」
滝で溺れ…… 流されて溺れ…… 水中生物に襲われて溺れ……
「やっと…… やっと! 城下から脱出できたぁぁぁぁぁ!!!」
バールで水中生物の目を突き刺し、這い上がったのは…… 城下街から少し離れた河川敷でした。
「と、とりあえず…… 1度、戻ろう……」
疲れた俺は、ベビールームの扉を潜った。




