8.ネタ探し②ーースカーレット(上)
12月22日(金)
「ふあ…」
朝、教室の中に、照は自分の席に座ったまま、大きい欠伸をした。
その原因は、
『今度のクリスマスイブ、一緒に過ごさない?』
『二人きりで、照と一緒に過ごしたいの…ダメ?』
昨日の璃紗のあの言葉だ。
(クリスマスイブ…それでつまりそういうこと!?)
クリスマスイブは独身の人にはあまり意味ないイベントだが、男女で二人きりで過ごす、というならば話は別だ。完全に。
流石に恋愛経験のない照も理解してる。
だから余計に返事に困る。璃紗はどういう意味で自分を誘ったのが、まったく分からないからだ。
「おっはよーー!」
パシッ!
「痛!?」
照は背中を叩かれ、自分を叩いた元凶を探すために後ろ振り向いたら、璃紗がいた。
「今日は早いね。どうしたの?」
お前のせいだよ。
…と照が思いずつも、言えなかった。
「…別に、ちょっと寝不足した。」
「それ、まさか私のせい?」
「え、な、な、何言ってるの!違うよ!」
「そうなの?」
璃紗は小悪魔みたいな笑顔を出したまま照を見つめた。
コイツ、確信犯だ。
「照の返事、待ってるからね。」
璃紗はちょっと高めのテンションでそれだけ言い残して、自分の席に着いた。
それと真っ逆に、照のテンションはさらに下がった。
その後一成も教室に着いて、照のこと心配したが、『寝不足は体力足りないから、もっと運動しよう!筋肉付けよう!』といつも通り筋肉論を持ち出し、照の頭はさらにごちゃごちゃになった。
そしてそれらの感情を無視して、授業という『敵』がやってきた。
「え、では、ホームルーム始めますーー。」
壇上に照の担任が立っていた。ショートヘアで動きやすい服を着用して、いかにも体育担当なイメージだが、実際の担当は国語の方で、みんなによく意外と言われてる若い女性。
「みんなの知った通り、明日から冬休みだから、遊ぶのはいいけど、羽目をあまり外さないように。私は報告あまり書きたくないからね。」
教室のみんな一緒に笑った。このように、割と本音を言う先生である。そして面倒見もいい。その関係で他のクラスにも人気だそうだ。
(冬休みか…)
高校2年生の冬休み。2回目の冬休み。
去年は何もなかったのと打って変わって、今年はただの3日で色々あった。
(何かもう1年過ごした気分だ。)
でも、ここからが本番だ。学業も小説も。そしてーー
照はこっそりと右斜め前の璃紗の席の方を見た。それに気づいたのか、璃紗も照の方を向いて手でピースをした。
ドキ。
今まで意識しなかったことが、一度意識し始めると、もう細かいところまでも気にする。
照は自分の動揺が止まらない心を何とかしようと思いながら、今年最終の授業に臨んだ。
●
死んだ。
最後の科目の授業を超えた照は、そのまま机に伏せた。
璃紗と席あまりにも近いせいで、一日中ずっと意識してた。
さらに前日ちゃんと寝れなかったのもあり、二つの状態異常受けている状態で授業受けたが、
最後まで耐えた結果、死んだ。
「照ー?大丈夫?」
「…は!?ここは?」
「教室だよ。授業もう終わったのに机に寝るなんで、結構疲れたね。」
「珍しいな、普段、照は授業以外の時間は全部、何かを書くことに使ったのに。今日はどうした?」
一成は心配してる一方、隣に立てる璃紗はニコニコで笑ってた。
「…何でもないよ。ただ昨日ちゃんと寝れなかっただけ。」
「そうか?まあ、もう明日から冬休みだし、疲れてもいっぱい寝れるぞ。」
「そうだね…あれ?一成はもう帰るの?」
一成が学バンを持ったのを見て、照が不思議そうに聞いた。
「いや、ちょっと部活の仲間が、冬休みにどっか遊びに行かない?と誘われたから、少し話を聞きに行く。あ、でも二人が先に帰っていいよ。どれぐらい時間かかるか分からないしな。」
「そうか、遊びか…いいな。」
「確かにいいね。」
ゾク!
璃紗の言葉に、不穏の気配を感じた照は、鳥肌が立った。
「まあ、そういうことだから、しばらく会えないかもしれないけど、なんかあったら連絡くれ。昨日みたいなことも結構面白かったしな。」
「ああ、わかった…いってらっしゃいー」
「しっかり遊んでね!」
照と璃紗は手を振りながら、一成を見送った。
「さあ、一成も用事あるということだし、私たちで帰ろう。それとも先生のところ行く?どっちでもいいよー」
「…そうだね、とりあえず先生に連絡して、璃紗も一緒でいいんですか…あれ?」
「どうしたの?」
「先生の方から連絡来た。それもちょうど授業終わった時で。」
照のLoineの画面に、神野からのメッセージが表示されてる。内容は、
『もし姫と親友が一緒に来たいと言ったら、別にいいぞ。』
と簡単の一行だけ。だが、
まるで自分が監視されてるような、タイミング良すぎる。
(読まれてる…?)
昨日の夜もそう。心読まれたように、先生が自分の考えを言い当てた。
エスパーなんで存在しない。それでも何回もうまく当たるのは、その理由はーー
「照?どうしたの?もしかして、私がいっちゃダメと書いてるの?」
璃紗は何故か半泣きの顔になって、照は慌てて彼女を宥めだ。
「いや、大丈夫。璃紗も一成も行っていいと書いてるから。問題ないよ。」
「…本当?」
「本当本当。」
「じゃあ、早く行こう♡」
「あ、ちょっ…」
照の返事を待たずに、璃紗は彼の手を掴んで、足早に下校した。
●
「…仲良くなったな。」
神野の部屋の外に到着した照と璃紗は、インターホンを押した後に、神野がドアを開けた、そして第一反応はこれだ。二人の手、昨日と違って、しっかり繋いでるからだ。
「はい、仲良くなりました!」
「テンションも高いな。」
「それは照と一緒だから。ウフフ。」
「君、何かしたのか?」
「してません!」
「え、照ったら、昨日あんなに強くしたくせに、否定するの?酷い!」
「いやいや、僕は何もしてなかったよね!?」
「したよ?」
「してない!僕がしたこと強いて言えば、璃紗の手を…!」
自分で言って、やっと気づいた。昨日だけではなく、今もしてること。
璃紗と手を繋いでること。
「え…?まさかそのことで?」
「だって、昔のようにまた手を繋げられて、嬉しいもん!」
璃紗はそう言いながら、その感情を示すように、繋いでる手にさらに力を入れた。
「…まあ、ノロケもネタになるが、人ん家でやらない方がいいな。とりあえず入れ、ちょうど今日は彼女もいるしな。」
「彼女?先生の恋人?」
「違うな。照君もうあった人だ。」
そう言って、神野はリビングへ戻った。照と璃紗も一緒にリビングに入ったら、そこにソファーで優雅の姿勢でお茶飲みながら、小説を読んでいる紫咲がいた。
「あ、紫咲さん!」
「お、今日も来たか、熱心だね。それにその子…彼女さん?」
「違います!幼馴染だけです!」
「…その本人はそう思ってないみたいだが?」
「え?」
照は紫咲の話に釣られて、隣の璃紗を見た。彼女はこれまで以上に、やけどしたような真っ赤の顔になった。
(え…え!?)
何で!?何もしてないのに。告白すらも言ってないよ?
「性春だな…」
神野はキッチンから3人分のカップを持って、テーブルに置いた後に、紫咲の隣に座った。
「神野先生、なんか字を間違ってませんか?」
「気にしない気にしない。まあ若い人の事情だし、ここは聞かないでおこう。」
「そうですね。とりあえず二人とも座ったら?」
『あ、はい。』
「ちなみに私はこういう者です。」
言われたままに、照と璃紗は反対のソファーに腰を下ろした。紫咲はさりげなく自分の名刺を璃紗に渡した。
「紫咲さんですね…編集?」
「簡単に言うと、作家をサポートする人だね。」
「サポート…」
それを聞いて、璃紗は一人でに考え始めた
「さて、今後のことだが、君たちもう冬休み始まったよな?それに、もうすぐクリスマスだし、先に照君の予定を聞いた上に、決めようと思ってな。昨日みたいに引き続き別の作家に会いに行くのもいいし、クリスマスをしっかり楽しんだ後に再開するのもかまわない。どうする?」
「え?僕は…」
ぎゅーと、璃紗が握ってる自分の手の方に、強い力を感じた。璃紗の方を見ると、彼女は若干涙目で自分を見てる。その目に、願いが込めてるように見える。
昨日の夜のこと思い出す。
『今度のクリスマスイブ、一緒に過ごさない?』
璃紗が欲しいお礼。ただ、まだ約束してないから、別に予定がないと言っても、自分は悪くない。
悪くないだがーー
「…クリスマスイブと当日は、予定もう入ってるので、すみません。」
照の答えを聞いた璃紗は、
「照ー!」
感動のあまり、彼の名前を呼びながら、抱きついた。
「え!?ちょっ!璃紗!落ち着いて!」
「落ち着いてるもん!」
「嘘つけ!?」
「仲良しだな…わかった。じゃあ、クリスマス終わった、また勉強する気あったら、僕に連絡くれ。」
「はい!」
「で、明日は?」
「はい?」
「明日の予定。もちろん用事あるとか、クリスマス待たずに、二人きりでイチャイチャしたいとかしたいんだったら、全然問題ないが。」
「え、僕…」
照は迷いながら璃紗を見た。
「…照の好きにしていいよ。元々クリスマスだけの約束だったし?」
口ではそういうものの、璃紗は明らかに機嫌が悪くなった。ただ、璃紗の答えを聞いて、照はホッとした。
しかし次の瞬間、璃紗は神野を見て、逆に質問を投げた。
「でも、もし昨日と同じ、作家に会う予定だったら、私も一緒に行っていいよね?」
「ああ、別にいいとも。その方が君たちもお互い安心できるよな?」
「照、聞いた?私も一緒でいいって!」
「は、ははは…」
結局そうなるかー
嬉しいような、困るような、複雑の感情が照の中に混ざった。
「作家に会わせて、まず心の準備させるという作戦か…しっかりとメンタルケアしてますね、神野先生。」
紫咲がスマホをいじりながら、神野のやり方を称賛した。
「気のせいだ。ただ先に現実を見せた方が、無駄の時間を使わず、自分から諦めてくれればいいと思っただけだ。」
「先生!?そんなこと考えたのですか!?酷いです!」
「うるせぇー、色々教えたところで、カップ麺みたいに、3分間だけの情熱だけだと、こっちも困るからな。」
「そんなすぐに諦めません!」
「はいはい。じゃあ、明日の予定話そう。」
「あ、作家に会うことでしたら、私から提案が。ちょうど一名、先日こっちに到着した海外の作家がいるの。今回も長期間の滞在らしいけど、彼女、気ままに行動するタイプだから、明日帰る可能性もあるわ。だから、早めに会いにいったいいと思う。」
「…まさかあの女?」
「どの女を指してるか分かりませんが、先生が知ってる、よく日本に来る海外の女性作家は、そんないないかと。」
「マジか…」
「先生が嫌な顔を出すなんで…どんな人ですか?」
照の疑問に対し、紫咲が自分のスマホを見せた。そこに炎のような長く赤い髪を風になびかせながら、空を見上げてる肌白い女性の写真が映ってる。
「ペンネーム・スカーレット。アメリカの大手作家だ。そのネームの通り、熱血系小説をメインで書いて、若年層をターゲットに莫大の人気を得てる書き手。一番注目すべきなのは、」
紫咲が一回話を止めて、神野の方を見た。ただ、神野は何も反応しなかった。紫咲が長い溜息ついて、続きを話した。
「彼女は、『第二の神野』と言われるほど、現在進行中で人気を集めてる。」
「第二の神野…!」
照はその称号を聞いて、体が震えた。
日本の作家について、大体情報を集めてるが、海外までは関心持ってなかった。
何というミス。
面白い小説を見逃すことなんで…!
心で悔しがる照に、璃紗は微笑んだ。
「照、嬉しそうね。」
「え、分かるの?」
「うん、顔に出てるよ。」
「え?え?顔?」
自分では見えないが、他の三人はしっかり見た。理由分からないが、照が、笑ってる。
「…どうやら決まりだな。明日、スカーレットに会いに行くか。」
「では私が連絡を。」
「待って、まさか君も行く気か?」
「当たり前じゃないですか。先生の貞操を守るために、私がいないと。」
「なんか字おかしくない?」
「気のせいです。」
「まあ、とりあえず明日の予定決まったから、時間は後でまた連絡する。たぶん朝か昼で会うことになる。君たち、ちゃんと親に伝えろよ。」
『はい!』
●
東京 港区
とある高級ホテル最上階の一室、一人の女性が右手にシャンパンが入ってるグラスを持ちながら、バスタオルを巻いただけの姿で、大きい窓を越しで屋外の夜景を眺めてる。
明るい、明るい。それは残業でオフィスに残ってる人達の明かりもあれば、仕事終って、居酒屋へ一杯飲んでから家に帰ると、町の街灯もある。
終わらない仕事、上がらない給料。好きでもない無駄の応酬、意味のない長い会議。
それらはすべてーー
「うん、いいね。やはりここのネタが多い。」
女性はシャンパンを一口飲んだ後に、机に置いてたスマホから着信の音が響いた。
彼女がゆっくりと机に近づき、スマホを取り上げた。画面に、『Ms.Murasaki(rival)』と書いてる人からのメッセージが表示された。
「明日の朝から?まったく、人の都合を何も考えてない…うん?」
女性は文句を言いながら、メッセージを見ていく。
そして、その中に重要な単語ーーある名前を見た瞬間、笑った。
「そうか、来るのか、カミノ、アイたかったぜ!」
女性の笑い声は、久しぶりに親友と会えるからうれしい声ではなく、かといって、嫌いな人を潰せるチャンスが来たという興奮するようなものでもない。
その声に含まれた意味は、ただ、
「今度こそお前をあたしのものにしてやる…!!」
赤い髪の女性は、その目に同じぐらいの情熱を燃やしながら、夜景を再び見始めた。
彼女はスカーレット。世界中の小説家の中で、総販売数ランキング2位の熱血作家。
そして神野がブランクに陥る今、近いうちに1位になると期待される人。
高層ホテルで景色を見下ろす彼女の姿は、まさにすべてを君臨する女王ーー