7.ネタ探し①ーー転職失敗屋(下)
てんちゃんと話し終わった4人は、彼の部屋を出て、夜風を感じながら、一緒に商店街向かって歩いてた。
「寒い…!」
「寒いね。手、繋ごうっか?」
「え!?い、いや、いい!ダイジョブ!」
「ふふ、何慌てるのよ。昔からよく手を繋いで学校行ったのに。」
「そ、それは昔のことだよ!」
「今は違うの?」
「いや、そういうことじゃないけど…」
「で、俺は?」
「一成は繋がなくても寒くないでしょう?」
「まあな。しっかり鍛えてるから!」
一成は袖を巻き上げて、鍛えられた筋肉を二人に見せつけた。
「はいはい、筋肉バカ。」
「んだとー!」
横にいる3人のやり取り見てる神野は、小さく笑った。それに気づいた照は、神野に声かけた。
「あ、先生。今日、ありがとうございました。」
「うん?まあ、大したことじゃないから、気にしなくていい。」
「いやいや、先生のお陰で、他の作家さんとお話できたから。お礼しないと。」
「照君、僕の弟子であること、忘れてない?」
「え、わ、忘れてませんよ!一番大事のことです。」
「それなら、遠慮はいらん。」
「あ…」
「それに照君の関係で、僕もいいネタをゲットだぜ。」
「はい?ネタ?」
神野は璃紗と一成の方見た。それに対して、照は今まで溜めた疑問をぶつけた。
「先生は、本当に人をネタとしか見てないですか?」
「うん?何だ突然?」
「昨日、紫咲さんから聞いたんです。先生の目はそういう感じなったのは、人を見すぎてるから、と。」
「え!?人をネタに!?」
「なんじゃそれ?」
隣で聞いてた璃紗と一成もビックリした。
「ふむ、彼女はそう言ったか…間違っていないけどな。」
「その、先生。それで、人を道具としか見てないってこと、ですか?」
「…なんだ。そっちが気になるか。」
「あの!僕は真剣で聞いてます!」
「仮にそうだとしても、君に何も影響出ないだろう?」
「あります!だって…!」
「『自分がネタじゃなくなったら、弟子としていられなくらる。捨てられる。』とても考えたのか?」
「え、なんでそれを!?先生、まさかのエスパー!?」
「バカだな。君の顔に全部書いてるよ。」
「え、僕の?」
照は璃紗と一成の方を見て、自分の顔が変になってるかどうか確認して貰おうとした。でも二人は照の顔を見て、頭を横に振っただけだった。
「そうだな…『人をネタとしか見てない』というのが、語弊がある。」
『え?』
神野は3人の前に立って、空向けて両手を広げた。
「俺は、全部をネタとして見てるんだ。太陽も、月も、星も、雲も、朝も、夜も、春も夏も秋も冬も、そして人も、人じゃないものも。全部、ネタだ。」
「…あの、大丈夫ですか?救急車呼びます?」
そんな神野に危険を感じたのか、璃紗はスマホを取り出して、本気で救急車を呼ぼうとした。
「…こほん。君、人が真面目な話してるのに、茶化すのはよくないぞ。」
「危険性を感じたので!」
「照君、君の姫を何とかしてくれないかな?」
「先…!ちょっと!」
「え、姫?何のこと?」
「照君の小説まだ見てないのか?その中に…」
「わー!わー!」
照は必死に神野の口を封じようとした。しかし神野は片手で照の顔を押し退けて、近づけないようにした。
「何よ、そんな慌てて…もしかして見せないもの書いたの!?エッチな奴!?」、
「そうなのか!?照、俺に見せろ!」
「違うーー!そんなもの書いてない!」
「まあ、興味あったら、直接照君の小説を奪って見るんだな。」
『わかった!』
「二人共肯定しないで!?」
●
4人はゆっくり歩いて、商店街に着いた。
「じゃあ、気を付けて帰れ。」
神野は3人と簡単に挨拶をして、そのまま自宅目指して歩こうとした、が。
「先生!」
すぐに呼び止めされた。
「…また何か?」
「明日も…お邪魔していいでしょうか?」
「いいぞ。来る前に連絡な。」
「分かりました!」
「えー?照、明日も先生のところに?」
「うん!ちゃんと小説の練習したいから!」
「照はもう決めたが…よし!応援するぞ!」
「いいけど…でも照、お母さんの方、ちゃんと説明しないと。」
「あ。」
「ふん…照君、まだまだ問題あるんだな。しっかりそれらをクリアしてから、僕のところ来るように。」
「はい…」
「それともう一つ。」
「はい?」
神野は自分の顔を照に息を感じられるぐらい近づけて、眼鏡越しに照の目を覗き込んだ。
「僕の目がこうなった理由、先の話の中に、答えもう出てる。それを自分で探してな。当面の宿題だ。でも時間制限ないから、ゆっくり考えるがいい。」
神野は最後にそれだけを言い残して、今度こそ自分の家へと出発した。
そして残された照たちは、
「照、宿題って何なの?でもとりあえず帰ろう。もう遅いし。」
「…」
「照?照!?」
璃紗がどんなに呼びかけても、照は反応しなかった。彼女は緊張し始めて、照の肩を掴んで、力いっぱい揺さぶった。
「…はあ!?僕は、どうしたの?」
「こっちのセリフよ!先生が照に顔を近づけた後に、照は意識を失ったみたいで棒立ちになったよ!どうしたの?」
「先生…顔…目…」
先生の目、眼鏡の下のあの目は、死んだ魚のような目ーーではなく、綺麗で、濁りのない、銀河のような、別の意味で特徴ある目だった。
「照!?しっかりして!思い返すたびに失神するな!一成も見てないで手伝ってよ!」
「お、おう。なんだが分からないけど、照を揺らせばいいんだな?」
照にはあまりにも衝撃のあるシーンだったらしく、3人は商店街でしばらく同じこと繰り返した後に、やっと帰宅できたのだった。
●
暁海家 19時
照が帰宅したのは、昨日より速いが、それでも暁海家では遅い方。
『晩ご飯一緒に食べる』というルールがあるから。
だから連絡なしに、晩ご飯の時間過ぎてから家に帰るのは、約束を守らないのと同じ、
悪いこと。
今その問題を解決するために、照と彼の両親が、リビングの食卓に無言で座っている。
まさに家族会議。
しかし、
「えっと、照は理由があって帰りが遅くなったの。私が証明できるわ。」
今日は璃紗という助っ人がいるから。『一成は家が遠いし、いても役立たないから』という理由で璃紗に帰らされた。
問題ない、はず。
「…では、その理由を、聞かせて貰おうかしら?」
言葉こそ穏やかだが、その裏にある圧力は、半端ではない。
(これが照のお母さんの本気…!)
まるでゲームのラスボスと対面してるように、璃紗は冷や汗をかきながら、今までの事を説明した。
『小説家…』
一通り説明聞いた月子と昭彦が、何かを考える様子に入り、リビングは音もなく静寂の空間になった。しばらくしたら、
「別にいいじゃない?」
先に静かの空間を破ったのは、父の方だった。
「あなた…」
「若いうちにやりたい目標見つかって、そこに全力を打ち込む。それで成功できたら嬉しいことだし。失敗しても、自分は実はその道に向いてないと教訓も得られるし、両方いいことだと思うよ。」
「…一理あるわ。わかった。」
「じゃあ…!」
照は認められたことに興奮して椅子から立ち上がった。
「ただし、学校の授業を疎かしてはいけない。それが条件。成績明らかに悪くなったら、その小説書くことを止めるわよ。」
「わかった!」
「やったね!照!」
「璃紗、ありがとう!」
照は璃紗の手を握った。突然のことで、璃紗はどう反応すればわからず、ただ頬を赤らめた。
「照、嬉しいのは分かるけど、もう時間遅いから、先に璃紗を家まで送ってきなさい。」
「あ、はい!行こう!璃紗!」
「え、あ…」
照は璃紗と手を繋いだまま、家を出かけた。そんな照を見て、月子と昭彦が小さく微笑んだ。
●
照と璃紗は夜の道を歩きながら、今日までに起きたことを話し合った。
住宅街で時間も遅い関係で、通行人もあまりいない。
二人の声だけが、周りに澄み渡る。
「今日はありがとう。璃紗いなければ、お母さんは絶対納得しなかったと思うよ。」
「どういたしまして。でもお父さんは照のこと応援してる感じだから、別に私がいなくても、うまくいったと思うよ?」
「いや、璃紗の説明があるのが、一番大事だと思う!」
照に力強く言われて、璃紗はきょとんと目が開いた。
「そこまできっぱり言われると、ちょっと恥ずかしいなー」
「それぐらいいつも璃紗に助けられてるからね。チャンスあれば何かお礼したいな。」
「お礼…」
その単語を聞いて、璃紗は照と繋いでた手を放し、突然足を止めた。
「?璃紗、どうしたの?」
「あのさ、私にお礼したいだったら…」
璃紗は自分の両手を胸の前でもじもじしながら、自分の願いを伝えた。
「今度のクリスマスイブ、一緒に過ごさない?」
「ん?いいよ。一成も一緒だよね?」
『いつも通り』と言わんばかりの照の返事を、璃紗は否定した。
「違うの。二人きりで、照と一緒に過ごしたいの…ダメ?」
「…え?」
思いもよらぬ希望に、照は手や足、口もどう答えた方がいいと分からないぐらいに、あからさまに狼狽えた。
クリスマスイブ、後3日。