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6.ネタ探し①ーー転職失敗屋(中)

「買ってきたぞ。」

てんちゃんーー転職失敗屋の部屋の中に、神野は無表情のままで、手に持って袋をこたつの上に置いた。

その周りに、照、璃紗、一成三人が仰向けになったてんちゃんを介護してる。

「いつも悪いな…」

「まあ、いつもの事だ。気にすんな。」

「いきなり倒れることはいつもの事ですか!?」

照は驚きを隠せなかった。それもそうだ。先、神野の紹介終わった途端、てんちゃんがそのまま失神したから。どうやら、お腹空きすぎて倒れたらしい。

「ああ、いつもだな。少なくとも、こいつと知り合った以来、会うたびにこういう感じだな。そうだろう?」

「好き好んで…こういう感じにしてるわけじゃないけどな…」

てんちゃんはゆっくりと体を起こして、袋の中を漁りはじめた。

「おお…マーポー弁当!」

「確か君の好物だよな?」

「お前すげぇな…人の好みをしっかり覚えてやがる。」

「まあな。」

「いただきます!」

てんちゃんは飢えた獣のように、弁当を開けて、驚異のスピードで食べ始めた。

「君たちも食べていいぞ?」

「え?私たちも?」

「ああ、好み分からないから、適当に買ったけどな。」

「あ、ありがとうございます!あ、先生は…」

「僕は最後の残ったのでいいから、先に選べ。」

『あ、じゃあ、遠慮なく。』

三人が残った弁当を話し合いながら取っていく、そして最後に残った弁当を神野は自然に取った。

5人は六畳の小さい部屋で、ご飯食べ始めた。

小さいからか、装飾品とか、大きい家具とかもなかった。てんちゃんと同じぐらいの高さ(180cm)本棚一棚と、こたつの他に作業用机一台、テレビも付いてる。シンプルの部屋だ。

「で、今日は用事あるって?」

もぐもぐ。

「ああ、この子に君を紹介しようと思ってな。」

もぐもぐ。

「この子?」

てんちゃんは神野の視線先を追って、照の方に辿った。

「ん?んん?彼?彼女?」

「男です!」

「お、わるぃ。」

「あ、いえ。大声出して失礼しました…」

「境とどういう関係?」

「えっと…」

照は返事に困るように、神野の方見て助けを求めた。

「弟子だ。」

「ほおーー弟子?あの神野 境が?」

「まあ、一応な。財布を拾ってくれた恩人だから。」

「ん?んん?どういうこと?kwsk(くわしく)。」

神野は照と出会った経緯を細かく説明した。隣で聞いた璃紗と一成も『なるほど』と納得した。

『照が、小説家に…』

璃紗と一成は神妙な顔になって、照はそんな二人を見て、心が騒めいた。


やはり、僕を止めるかな?


そんななれるかどうかも分からない職業に、力を入れるというのが、現実的ではない。

より将来性のあるものに、確実お金になれるものに力入れるのが、『常識』だ。

AI産業、不動産、株。それらの知識。

動画編集、文書処理、ゲーム作り、それらのスキル。

しっかり勉強すれば、いつか実るもの。


ただ作家は、そんな確約はない。


神野みたいに有名の作家もいれば、一生費やしても名もなき人もいる。

それが現実。

そんなことに、自分の時間を突っ込んでいいの?

正直言って、分からない。

ただ今は、チャンスあるから。それを手放すことは、しちゃいけない気がする。


照はネガティブの思考になっていく。が、そんな照の考えを打ち破るように、璃紗と一成は、


『すごい!』


と、キラキラしてる目で照を見つめながら大声を出した。

「え?え?」

「いいじゃん!小説家。照の夢が叶えるチャンスじゃん!なんか分からないけどすごい先生もいるみたいだし?もう一歩踏み出してることじゃん!」

「そうだね。照ならいけるよ。俺が保証する。」

「一成の保証は何も根拠ないから信じられないよねー」

「なんだとー!」


二人はまだわーわーと騒ぎ始めて、そんな二人を見て、神野とてんちゃんは、

「ふむ、やはりいい(ネタ)持ってるな。」

「若くていいな…」

それぞれ違う感想をボソッと出した。

そして応援されると知った照は、重荷を降ろしたように、明るい笑顔になった。


「まあ、友たちが応援すると分かったのはいいこととして、俺と何か関係あるのか?」

てんちゃんはご飯食べた関係で元気出たのか、声に力がしっかりと入るようになった。

「あるとも。そんな未来ある若い人に、先輩としてお手本見せることも大事だ。」

「お前、それ嫌味だろう。」

「とんでもない。どんな逆境でもチャンスはある、と示すには、君ほど分かり易いサンプルないから。」

「よし、ぶっ殺す。」

「わ、わ!待ってください!」

てんちゃんは立ち上がり、神野を殴ろうとした様子で、照は慌てて仲裁に入った。

「…ふん、冗談だ。」

「え?」

「ああ、冗談だぞ。」

「いや、お二人は結構真剣な顔でしたけど。」

「真剣に冗談を言ってるからな。」

「先生、ちょっと意味わからないですけど?」

照は不機嫌そうに頬を膨らませた。

「境、俺はサンプルと言ったが、何をすればいいのか?」

「いや、何も。」

「は?」

「照君、彼はどういう人、知ってる?」

神野は、自分の言葉の意味を理解できないと言わんばかりのてんちゃんを無視して、照に質問投げた。

「てんちゃん、さんですか?」

「てんちゃんでいいよ。そんな長い名前呼ばれてもめんどくさいし。」

「あ、はい。ではてんちゃんですね。たしか…」

照は考える様子で天井を見上げた。


「3ヶ月前、『転職活動に失敗した俺は、○○して異世界転生成功し、スローライフを始めた。』というタイトルの小説で、特別賞を獲得して、デビューした新人作家ですよね。」


「お、君、俺の事知ってるか!?」

てんちゃんは嬉しいそうに笑った、が、神野は彼を嘲笑うように説明を補充した。

「照君は、小説に対する熱量あるから、小説に関係あること大体知ってると思うぞ。」

「なんだ。そういうことか。まあ、それでもすごいな。」

「あ、ありがとうございます…>_<」

「それはそうと、彼が特別賞取れた原因も、知ってるよな?」

「えっと、それは…」


照は3ヶ月前の関連記事のことを思い返す。

「タイトルは『スローライフ』と書いてるけど、そのプロローグの内容はスローライフとは全然関係ない上に、あまりにも現実過ぎて、予想外の共感を引き起こし、特別賞授かった、と。」

「その内容までは覚えてる?」

「はい!本当に生々しい感じだったので、しっかりと覚えています。」

「言って御覧。」

「分かりました…では。」


照は神野の指示で、てんちゃんの小説のプロローグの大まかの内容を話し始めた。



    ●



主人公は36歳の男性で、この年になってやっと自分のやりたいこと見つかって、それは専門ライターになること。

ただ転職しようとしたところ、今は販売職で、やりたい仕事は手に職つけるという、完全に別の業界。つまり未経験。そんな状況で前職で活かせるスキルもちろんそんなにない、実績あったとしてもあまり関係ない。

なにより転職向けに、何ならかの資格を取ることもしなかった。

『未経験でもOK』と書いてる仕事を探せばいいと考えたから。


しかし現実はそう甘くなかった。


最初は10社ほど応募して、落ちた。

書類選考で。

まあ、10社は普通だろう。

そこからさらに10社。20社。30社。同じく大体書類選考で落ちた。運よく面接行けた会社でも、結局落ちた。落ちる。落ちまくる。


元々一つの職種を絞って応募したが、あまりにも落ちすぎて、探す職種の範囲を広げた。

広げざるを得なかった。そうしないと仕事がない生活に送ることになる。一番の問題は、金だ。

生活費すらないようじゃ、やりたいこと云々前に、生きられないんだ。

販売職に戻ればいいという人もいるだろう。


それだと転職の意味はない。


()()()()()()()()()()()()()()()


仕事してる間に、笑顔出せるものの、心が軋む。

偽りの笑顔は、もうたくさんだ。

『販売に繋がるように話術を使う』、聞こえはいいが、要は嘘を言うことだ。

自分たちに不利なことを言わない。商品に欠点あるのにも関わらず。

100%完璧なものは存在しない。ダイヤモンドでもない限りは。


ただ、その若干の欠点を誇張して、理不尽な要求を言い出す客は、いる。

やたらと商品にケチをつけて、値引きをしようとする人も。

その対応もうんざりだ。そんなこと言うぐらいだったら、最初から来なければいいじゃない?


『お客様は神様』なんで、ク〇喰らえ!


もちろん、そんなことを面接の時言えるはずもなく、建前(うそ)を伝える。

内定を取るために。

世間体を気にして、自分の弱みをいい感じに言い換える。できもしないことをできるように話す。

嘘、嘘、嘘。

嘘でキャリアを積み上げる。

大学卒業する前の就職活動から、この年齢まで、結果のところ、嘘を吐くしかない。


本音が言えない世界なんで、いらない。


そんな考えのまま、落ちる。どこまでも落ちる。途中で矜持を諦めて、前職と同じ販売職も探し始めたが、それでも、

落ちる。


気づいた時、落ちた数は、200社超えた。


そこまで至る過程で知ったのは、多くの会社は、キャリア形成という理由で、採用年齢に制限かけてる。

28歳までのあれば、35歳までのもある。求人詳細に書いてなくても、面接の時『実は…』という裏面がある。

だから36歳、ギリギリアウトだ。


もう一つは、『未経験でもOK』というのは、本当は『not OK』だ。

未経験の上に関連スキルもない人は、採用されない。


その二つは、書類選考で落ちる大きな原因だ。


それで思い知った。自分が甘かったと。

そして絶望した。もうつまらない人生送るしかないと。

今からスキル勉強しても、また半年、一年かける。それだと年齢も重なる。よほど頑張ってスキルを取得しない限り、死ぬ気で勉強しない限り、年齢の差を埋めないだろう。

他に自分より若くてスキル持ってる人、絶対いるから。そういう人から採用されていく。


気付くの遅かった。巻き返せないところまで来てしまった。

ああ、そうすると、残る方法は一つ。


ある日の夜、ニュースで、あるサラリーマンが飛び降りで死んだと放送された。

しかし、さらに不可解なのは、その死体が翌日消えたと、別のニュースが放送された。

それで都市伝説が増えた。

『飛び降りた人は異世界行った』、と。



    ●



「…あの、これはホラー小説ではなく?スローライフ?どこ?」

照の話聞き終わった璃紗は、もっともの質問を繰り出した。

「スローライフはこのプロローグの後だよ。ただみんな璃紗のように、最初から重い話が来ると思わなくて、結構『騙された』という意見もあった。一時SNSでも話題になったよ?」

「…あ!思い出した!確かにニュースで見た記憶ある!え!?待って!その小説の作家はこの人ってわけ!?」

「そうだが。何か?」

「いや…何かイメージ通りていうか。」

ぐさ。

「ふ…ふふ…どうせ俺は能無しだ。生きる資格もないクソゴミくずだ。」

てんちゃんは部屋の隅に移動して、背中を4人に向ける形で座り込んだ。

「え?え?私、何かまずいこと言った?」

「まあ、あれだ。小説書くには、想像力以外に、何かをモデルして書く、という方法がある。それぐらい知ってるだろう。『この話はフィクションです。』と説明があっても、一部実話入ってる作品は、それなりに存在する。」


『え、つまり…?』

照、璃紗、一成たちは、暗いオーラを放ってるてんちゃんの方を見た。


「ああ、その小説の主人公の原型は、彼自身だ。つまり、その小説はある程度、自伝小説とも言える。そして、『事実は小説より奇なり』、という言葉も、彼に適用できる。」

「え、それどういう…」照が疑問を出した。

「ふむ、僕から言っていいか?」

「はあ…いいよ。そのために来ただろう?」

てんちゃんは諦めて、長いため息を吐いた。

許可を得たといいことに、神野は遠慮なく言葉を放った。

「彼は、仕事でメンタルやられて、自分から退職出したものの、転職活動で250社応募して、全部落ちた挙句、最後の救済とばかりに趣味である小説に手を出して、自分の話を半分入れることで、小説コンテストに参加し、そして特別賞を獲得した、奇跡を起こしたダメ人間だ。」

ドス。

「改まった言われると、痛いな…」


『250!?』

照たち3人は、信じられない顔でてんちゃんを凝視した。


「ああ…本当のことだ。年行ってるおっさんでスキルなしの俺は、どこも必要がなかったよ。」

「え、実話なの?だっててんちゃんの見た目は、20代と言ってもおかしくないと思うよね?」

璃紗は照と一成の方を見て、同意を求める。二人も自然と頷いた。

「ありがとうな。でも見た目若くても、実年齢それだから、意味ないよねー」

自虐気味でてんちゃんは話した。

『そんなことが…』

「自分がバカだったのもあるしね。異業種に転職しよう思ったのに、『未経験でもOK』なんで言葉を信じるなんで。転職向けに役立つ実績とスキルも一つも用意してなかった。それで自分の能力で、すぐに何らかの実績を作れるもの考えたら、小説だ。」


てんちゃん話を一回止めて、水を少し飲んで、一息した後に話を再開した。


「ライター系の仕事は大体、何ならかのライティングの経験、実績が必要だ。小説も一応対象になっている。だから小説投稿サイトとコンテストをうまく使えば、実績作れる。もちろん同じく時間かかるけどね。ただ今の自分が持ってるスキルと言えるものは、小説を書く能力しかないんだ。」

「だから投稿サイト使って、『自分はライティングの能力ありますよ』と、アピールしたんですか?」

「まあ、そうだね。」

てんちゃんは本棚に置いてる自分のデビュー作を取り出した。

「今色々と規制は厳しいから、『自殺』に関する内容は、そもそも無理じゃないかと思ったけど。でも小説に関しては、自分の気持ちに嘘吐かないと決めた。だからタイトルだけを○○(まるまる)にして、内容はしっかりと書いた。それでまさかの運よく特別賞も取れた。」

『なるほど…』

「ぶっちゃけ、僕の状態じゃ、仕事探す時に、転職エージェントを使っても無理だったしな。これはさすがの転職の魔女様も無理じゃないかな。ははは。」

『転職の魔女?』

「あ、最近のドラマだよ。見てないのか?でもお前たち若いから、まだ無縁のことだね。俺には結構刺さったがな。死ぬほどに。」

「まあ、こんな感じで、彼は自分のコンプレックスをテーマにして、問題作を作り上げて、そして成果を得た。」


「問題作…!!」

その言葉を聞いた照は、目が星みたいに閃いた。


「おい、忠告するけど、真似るなよ。こういう経験は体験していいものじゃないから。」

「そうですね…肝に銘じます。」

照は苦笑いしながら返事した。

「で、俺の話はとりあえずこれぐらいかな。これ以上のネタはないぞ。」

「いや、もう一つある。」

神野は秒でてんちゃんの話を否定した。


「うん?なんだ?」

「特別賞を得た後の生活について。」

「あ…確かに、言っといた方がいいかもな。」

神野とてんちゃんは、真面目に照を見つめた。

「え、な、何ですか?」

「一つ確認するが、照ちゃん。デビューしたらお金持ちになれる、とは考えてないよね?」

「え、そ、それは…」

「え、そういうものじゃないの?」

言い淀んでる照に代わって、璃紗が答えた。

「ああ、そうじゃない。デビューしてすぐにお金持ちになれるんだったら、俺はこの場所に住んでなかったよ。」


『確かに。』


「そこは仲良く返事すんな。まあ、そう思ってる人、少なからずいるだろう。でもその考えは危険だ。デビューしたところで、デビュー作だけで食っていける作家、そんないないよ。重要なのは、その後の続き。より早く、しっかり人気を高められる、もしくは維持できる新作を次々出さないと、稼ぐところか、生活維持もできない。」

「今のてんちゃんみたいにな。」

「お前本当一言多いな。でもそういうことだ。境はまさにそれをしっかりこなして、今一番売れる作家になったわけだ。ああ、でもおまえ、スランプ中だっけ?じゃあ今一番は別の人か?」

「さあ?もうあまりそっちに関心しないな。」

「そうか。まあ、俺みたいな下っ端が口出していいことじゃないか。」

「そういえば、先生とてんちゃんは知り合って3ヶ月だけですよね?何でこう、結構昔からの知り合いみたいに、仲がいいていうか…」

「それはコイツ、編集経由で勝手に俺の家の住所を聞き出して、『ネタが欲しいからしばらく邪魔するぞ』と、訳の分からないことを言って、そこからお互いの家が近いからと、用事あってもなくてもこっちに来るようになったよ。」

「でも食事代しっかり出してるぞ。」

「そこは感謝してる!神様!」


てんちゃんは両手を合わせて神野を拝み始めた。


「ちなみに、WLCに関する企画、君のところにも届いたか?」

「うん?ああ、昨日貰ったよ。紫咲さんが、先にお前のところに行ってからこっちに来たと言ったな、たしか。」

「そうか。で、君は参加するのか?」

「当たり前だ。」

てんちゃんは何の迷いなく答えて、目に情熱の炎が燃え上がるように見えた。

「去年の一回目は絶賛人生の道に迷って、参加することを諦めたが、今回は違う。しっかり自分と向き合って、自分が納得するものを書いた上に参加する。もう、迷わない。」

「ーー」

照はてんちゃんの言葉を聞いて、考えた。


自分は、どうするべきか。

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