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5.ネタ探し①ーー転職失敗屋(上)

12月21日(木)


「あ、璃紗(りーしゃ)、一成…」

「照は今日も用事?」

「え?」

学校の放課後、照は神野のところに行くため、今日も先に帰ると璃紗や一成に伝えようとしたが、逆に質問された。

「あ、うん、今日もちょっと…」

「わかったわ。じゃあ、一成、行こう。」

「おう。照、また明日な。」

「…うん、また明日。」

璃紗と一成は照に簡単の挨拶だけして、振り返らずに教室を出た。

それを見送った照は、心の中に寂しさを感じた。


(でも、決めたことだから。)

『大手作家の元で勉強してる』と伝えたら、二人は驚くだろう。そして喜んでくれるかもしれない。でも、

逆に自分を止めるかもしれない。


『あ、照、小説書いてる、すごいじゃん!』

『え、マジ?すげぇ、お前そんなに文字いっぱい書けるのか?俺は文章見るだけでもう眠くなるよな。』

『一成は脳筋バカだからね。』

『なんだと!?』


照は昔のことを思い出す。

二人はいつも笑いながら自分の小説の話してるけど、ただあくまでも趣味の話だけ。本気で書こうとしたら、何言われるが分からない。

正直言って、怖い。

だから、しばらく隠そう。

それにあまり周知されると、先生に迷惑をかけるかもしれない。最悪の結果、『もう来んな』と言われるかもしれない。

こんないいチャンスは二度とない。諦めてたまるか!


照は決意し、学校を後にした。



    ●



『明日は(うち)に来なくていい、商店街で待合せしよう。』

昨日帰り道に紫咲から神野のLoine(ロイン)教えてもらった照は、神野にスタンプで挨拶したら、最初は驚いて『なぜ僕のLoineを?』、ただすぐに察しがついたらしく、何事もなく、その一言だけ残した。

約束通り商店街の入り口に着くと、そこはカジュアルの恰好した神野が立っていた。

T-シャツと紺色のジーンズで、割とどこでも見れる普通の衣装だが、神野の綺麗な顔立ちに死んだ魚のような目のギャップで、通行人はみんな彼をチラ見してる。


『ね、あの人恰好よくない?』『でも目がなんか怖いよね。』『それはそれで萌えるじゃん。』


…あの人のプライベートの姿、見せてやりたいよね。

などと考えずつ、照は神野に近づいた。

「すみません!お待たせしました!」

「お、来たか。で、その後ろの二人は?」

「え?」

神野の視線を辿っていくと、自分の後ろの電柱の陰に、見知った顔の二人が隠れていた。

「やっば!気づかれた!?」「いや!もしかしたら偶然こっちを見ただけかもしれない!もっと陰に隠れよう!」


会話は丸聞こえだが。


「…あはは、悪い人じゃないです。」

「そう?このまま無視してもいいか、君はどうしたい?」

「僕は…ちょっと行ってきます。」


照は小走りで二人のところに行った。そんな照を、神野は静かに見守った。

「璃紗、一成!」

「きゃ!」

「くそ!やっぱりバレたが!」

「それはバレるよ。二人はそんな上手に隠れてないし。」

「ほら、だからもっと離れた場所で尾行した方がいいって言った!」

「離れすぎると、照に何があった時に助けられないじゃん!」

璃紗と一成は、いつものように口ケンカを始めた。

「ストップ。二人は何でここに?」

「こっちのセリフよ!照は最近用事あると言って、早めに学校出たのに、家に帰るの遅かったじゃん!昨日の夜も!それで照のお母さんが電話かけてきて、照の様子を確認して欲しいと頼まれたよ!」

「え…」


照は昨日の夜ことを思い出す。


「はあ…はあ…ただいま!」

照は紫咲と少し話して、別れ告げた後に、全力で走って家に帰った。それでも19時30分。

「照。ちょっといい?」

玄関で汗だらけの状態で靴を抜いてる照向けに、リビングからただならぬオーラを発してる女性がゆっくりと近づいてきた。照と似てる顔立ちだが、しっかりした大人の雰囲気出していて、ルーズサイドテールの髪型でさらに成人女性の魅力を引き上げた。

「あ、か、母さん、ただいま…」

「お帰り。でも、今何時だと思う?」

照の母ーー月子(つきこ)が、笑顔で話してるが、言葉の中に含まれてるプレッシャーは尋常じゃないと照は感じた。

これは、怒ってる。

「…19時すぎ、です。」

「何があったの?心配したわよ。昨日もそうだったし。たまたま用事があって遅れたと思って、聞いてなかったけど、二日連続は、今までなかったわね。そうでしょう?」

「…たまたま二日連続用事があったです。」

「…私が、信じると思う?」

信じないだろう。でも本当のこと言えるわけがない。

照が返事に困った時、リビングから明るい男性の声が響いた。

「まあまあ、照も年頃だし、無理に聞かなくてもいいじゃない?」

「あなた!」

「父さん…」

「でもな、照、もしトラブルに巻き込まれたら、ちゃんと言いなさい。一人で悩んでもいいことはないんだぞ。」

「…はい、わかりました。」


その後、照は気まずい空気の中に、家族で晩ご飯を食べて、あまり話さず夜を過ごした。


「母さんがそんなこと…」

「それに、私たちも心配してるんだよ?突然一人で帰るようになって、今までと違うから、何があったじゃないかと思ちゃう。」

「そうだ、そうだ。」

「あ…ごめん。そう…だね。心配するよね。」

照は完全に機嫌斜めの璃紗を見て、頭を下げるしかなかった。だが璃紗は、照ではなく、ちょっと離れた場所に立てる神野の方を見て、照に質問した。

「で、照はあのお兄さんとは何の関係?まさかパパ活?」

「パ…!?何言ってるの!?違うよ!あの人は…!」

『大手作家』と言いかけそうな照は、慌てて自分の手で口を抑えた。

『あの人は?』

璃紗と一成は同時に疑問の声出した。

「…あの人は先日、偶然僕が彼の財布を拾って、家まで届けたら、仲良くなった人です。」

『え?財布を?家に?』

二人はまた同じタイミングで声を上げた。

「と、とにかくそういうことだから、別に怪しいことしてないよ!」

「怪しいでしょう!どう見ても!」

「あーちょっといいか?」

照と璃紗の口論終わらなさそうのを見て、神野は三人に近づいた。

「どうも。二人は照君の友たち?」

「え、あ、はい。私は璃紗。」

「俺は一成。」

「璃紗と一成だね。よろしく。二人は照君が心配でついてきた、だよな?」

「ええ、悪い人に騙されていないか確認するために後をつけたわ。」

璃紗は明らかに警戒してる様子で神野に返事した。ただ神野は一切気にせず、

「そうか。まあ、これから行く場所一緒についてきたら、僕が悪い人かどうかも分かると思うよ。」

「場所?どこ?」

「ここから歩いて10分ぐらいのところだ。別に危険の場所じゃない。仮に危険を感じたら、途中帰ってもいいぞ。もちろん照君連れて、な。行くぞ、照君。」

「あ、はい!」

一方的に告げて、神野は振り返って、商店街の奥を目指して歩き出した。

「あ、ちょっと待って!行くわよ、一成!」

「おう!」

璃紗と一成は慌てて神野と照の後ろに、ちょっと距離を置くように付いていた。そんな二人の様子チラと見て、神野は隣に一緒に歩いてる照に声かけた。

「…あの二人は君の一番仲がいい友たち?」

「はい!お馴染みで、僕が困った時いつも助けてくれる、相談も聞いてくれる、大事の友たちです!」

「なるほど、それが『姫』と『親友』か。」

「え!?先生、それは…!」

キーワード聞いた途端、照は狼狽えた。

「二人のイメージは、君の小説の書いた通りだから、一目で分かったよ。」

「~~~」

勝手に友たちを小説のモデルにしたことを指摘され、照は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

「でも、いい友たち(ネタ)持ってるな。」

「…え?」

一瞬だけど、照はその言葉を聞き逃さなかった。


ネタ。


照は昨夜、紫咲と話したことを思い浮かんだ。

『先生の目ああなったのは、人をネタとしてしか見てないから。デビュー当時は何もなかったけど、3ヶ月過ぎたある日、私が仕事で先生の家に行ったら、そうなった。本人曰く、『見すぎてるから』だそうよ。本当かどうかわからないけど。でもそのお陰で、色んな作品書けたとも言えるわ。』


(先生は人をネタとしか見てないーーそれで、人に対する感情はどうなの?)

疑問を解けないまま、照たち4人は夕方の商店街を通り抜けた。



    ●



「着いたぞ。」

10分ほど歩いて、神野は足を止めた。

『なに、ここ…』

神野以外の三人は、息ぴったりで同じ言葉を言った。

それ程目の前の『場所』は、普通じゃない、と。


彼らが着したのは、商店街から離れた場所。普段あまり人通らず、車も少ない、商店街と距離あまり離れてない割には静かでいい所。

ただ一点除いて。

4人の前に広い敷地があり、その右端にに建物が建てられた。築年数結構あると連想するぐらいに、壁が崩れ落ちて、階段も錆付いて、控えめに言っても『お化け屋敷』の雰囲気のある2階建てアパートだ。冬の関係で、空も若干暗くなり、そういう感じをより一層強めた。


「よし、照、帰ろう。」

璃紗は素早く照の手を取り、来た道をそのまま歩いて帰ろうとした。

「え、いや、ちょっと待って。」

「待たないわよ!明らかに危険な場所だよ!?廃墟だよ!バイ〇ハザードだよ!?これ以上付いていったら、何されるか分からないわよ!?」

元々不信感ある璃紗は、場所のせいか、さらに冷静さを失って、大声で叫びだした。

それとは逆に、神野は、

「まあ、そうなるよな。でもここ、ちゃんと人が住んでるから。」

と軽口を叩いた。

『…嘘。』

三人は目を丸くし、信じられない顔になった。

「心配だったら、僕が先頭を歩くよ。君たちは2,3メートル後ろついてくればいい。」

そして神野はまた歩き始めた。照は璃紗の手を振り払って、急いで神野に追いつけた。「あ、もう!」璃紗は不満の声出しながらも、一成と一緒にアパート向けて足を動かした。



    ●



ギシッ。ギシッ。

4人が階段を上ると、階段が悲鳴を上げた。

「…これ、壊れない?落ちない?大丈夫?」

神野は何事もなく先頭を歩いてるにも関わらず、璃紗は照の裾を掴みながら階段を上った。

「大丈夫、だと思う、よ?」

「なんで疑問形!?」

「璃紗はこういうのが弱いよな、昔から。」

「一成うるさい!」

そんな3人をさりげなく観察しながら、神野は2階までの階段を上った後に、すぐ隣の部屋の前に立ち留まった。

「着いたぞ。」

『着いた…?』

部屋の外見は、アパートの外観と階段と異なり、普通の部屋だ。ただ、部屋の中も普通だと限らない。

神野はインターホンを押そうとした時、璃紗は、

「ね、何か出てこないよね?ゾンビとか?お化けとか?」

心配そうな顔で神野に確認するが。神野は、

「出ないよ、そんなもん。」

簡単の一言を返すだけで、迷いなくボタンを押した。そして、

「まあ、それらよりやばいのが出るかもしれないか。」

『え…!?』

3人が神野のその言葉を聞いて、目玉が飛び出すかぐらいの勢いで目を開いた。

部屋の中からインターホンの反響が聞こえ、そして数秒後、部屋のドアがゆっくりと開いた。


中から、前髪で顔が隠された、皮膚が真っ白で、生きてる感じあまりしない「何か」が現れた。


「きゃーーーーーー!!お化け!お化け!」

その何かを見た璃紗は、とっさに照に抱きついた。

「ちょ…!?苦じぃぃぃ…!」

抱きつかれた照は、璃紗の意外と大きい力に首絞められて、顔がみるみるうちに真っ白になっていく。このままだと照の方が本当に死ぬじゃないかと思った一成は、璃紗を止めるために彼女の手を掴んだ。

「お、おい!璃紗、落ち着け!あれはお化けじゃないんだよ!」

「…へぇ?お化けじゃない?」

璃紗は涙目で「何か」の存在を確認する。

確かに、一見、ホラー映画の幽霊みたいなものだが、しっかりと両足あって、着てる服も普通のジャッジ姿だ。

「お化けとは…失礼な…」

「ひ!?しゃべった!?」

「それはしゃべるよ…人だから…」

「何か」が自分が人と主張するが、あまりにも気力のない声で、それこそ幽霊の囁きみたいな感じだった。

「相変わらず死にそうな顔だな。てんちゃん。」

「お前も…相変わらず…死んだ魚のような目をしてるね…」


『ハハハハハ』と二人同時に意味わからない笑い声を出して、異様な光景になった。


「あの…先生、この方は?」

璃紗から解放された照は、深呼吸をしながら神野に話しかけた。

「ああ、紹介しよう。彼はてんちゃんーーペンネーム・転職失敗屋。3ヶ月前に、転職失敗した人が異世界に転生したテーマで小説を書いて、特別賞取ってデビューを果たした新人作家だ。」

「どうも…」


『え…えぇーー!?』


照、璃紗、一成は、信じられないばかりに、疑いに満ちた声を放った。

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