23.W.L.C.閉幕!①
2029年7月15日(日)
W.L.C.最終日 夜 結果発表
「諸君!待望の結果発表の時間だ!この5日間の努力の結晶、今ここで実る!」
ビッグサイトの逆ピラミッドーー会議棟の真下のステージに、天道・領主は初日と同じように演説をしてる。
しかし最終日ということもあって、みんな期待してる、最強の座は誰なのか。その答えを生の声で聞くために、作家はもちろん、一般参加者も結構な人数が残ってる。そして世界中にも、また中継されてる。
みんな、高揚感を抑えて、結果発表を静かに待っていた。
照、璃紗、一成も、ステージの近くにその状況を見守った。
「勝者はーーーー」
天道はわざとらしく声を伸ばして、中々答えを言い出さない。
みんなが心の中に『ふざけるな』と思ってるが、場を乱す行動はよくないと思い、自制した。
そして数秒後、天道は一冊の小説を掲げ、勝者の作品の名を唱えた。
「勝者は、『再臨のラグナロク』の新作!小説家・神野 境だーーーーーー!!!!!!!!!!」
神野が呼ばれて、ステージに上がった。
『90万5000部ーースカーレットの90万部と僅差で、勝利を勝ち取った!!諸君!!彼に喝采を!!!!』
『おおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!』
その小説の名を、その作家のペンネームを聞いた瞬間、全会場、
いや、中継を通して、その現場を見た世界中の人が、みんな、歓声を上げた。
ただ一人除いてーー
「マジかよ…」
スカーレットだ。彼女はステージの正面エリアで結果を待っていた。そして今発表を聞いて、引きつった顔で、壇上の神野を見上げた。自分の勝利は揺るがないと思った彼女は、負けた。
彼女は最終日のことーーつい数時間前の事を思い出した。
●
朝8時
スカーレットは先日と一緒で、自分のエリアの状況を確認するために早めに到着した。
在庫確認、特典の用意、他のエリアの売り上げの状況など。
最終日だからこそ、気を緩めない。慢心してはいけない。
女王の矜持、そして敗者に対する尊重ーー
強い思いがあるこそ、彼女をここまで押し上げてきた。
しかしーー
ブオオオオオーーーーー!!!!
外から大きなトラックの音が聞こえた。
自分のエリアは一階ではなく、屋上なのに、はっきりと聞こえた。
それも、一台だけではなく。
彼女のみならず、早めに会場に着いた作家はみんな、音の発生源を探すために外を出た。
そして彼らが見たのは、
数台のトラックが道路を占領したという、おかしい光景だ。
「何だそりゃ?」
スカーレットの疑問は、現場いる全員もそう思った。しかしその答えは、すぐに分かった。
一台のトラックから、人が降りた。
その姿を、スカーレットが見間違うはずがない。
「カミノ?」
神野は、トラックのドライバーに何かを話した後に、ドライバーはトラックのコンテナの門を開けた。
すると、コンテナの中に人がたくさん道路に降りた。
『え?』
コンテナで人を運ぶ?
という不思議なことにみんなの思考が追いつけないが、彼らのその次の行動に、誰もが驚いた。
降りた人たちは、ドライバーと同じ服着てることから、同じ会社の作業員だろうと、スカーレットは考えた。
でも何故、この時間に、これぐらいのトラックを、人を手配したのか。
「まさか…」
その可能性に気付いたスカーレットは、震え出した。
作業員たちは足早で他のトラックに移動し、その中身を取り出し、会場に運び込んだ。
彼らが運んだのは、段ボールだ。
しかし、一台の量ではなく、数台分のトラックに積んでた、段ボールの山だ。
「スカーレットさん!?どこに行くつもり!!?」
それを見たスカーレットは、興奮した気持ちを抑えきれず、現場管理スタッフの制止を無視して、神野のところへ走っていた。そして彼女と同じ思いの人たちも、同じ行動に移った。
「カミノーーーー!!!!!」
数分後。ビッグサイトの広さの関係で、神野の場所行くのに時間かかったか、でも今はそんなことどうでもいい。重要なのは、
「お、スカーレットじゃないか。おはよう。」
目の前にいる、かつて『神』と呼ばれた存在が、今何をしてるのか、一番大事だ。
珍しく眼鏡をかけてない神野の顔に、見惚れたスカーレットは、最初の質問を投げた。
「はあ…はあ、お前、このトラックの量だなんだ?あの段ボールの山もなんだ!?まさか…!!」
「落ち着け。走ってきただろう?休んでから話しても大丈夫だぞ?」
「落ち着かせるか!あれの、段ボールの中身の正体分からない限り、冷静になれないんだよ!」
『そうだ!そうだ!』
次から次へと走ってきた作家、運営スタッフ、他の関係者も、期待に満ちた目で神野を見つめた。
その眼差しに、神野は、
「…まあ、小説だ。」
その答えに、全員が騒めいた。しかし、
「だれの、小説だ?」
スカーレットは追求した。
それはそうだ、『中身は小説』ということは予想できてる。ここは小説の特売会だから。
問題なのは、誰の小説だ。
「…そんなの、聞く必要あるか?」
神野は、悪意に満ちた顔で、笑った。
ゾクっ。
スカーレットは背筋が凍ったような感じをした。
「は、はは…書けたのか?本当か?」
「ああ、楽しみしてくれ。今日で、やっと君と戦える。」
「…!かかってきな!あたしは毎日20万部を販売したから、今はもう80万部を超えてたぞ!今日の販売分の予想も含めると、」
スカーレットは右手の人差し指立て、神野に見せた。
「100万部だ。お前はあたしに勝つために、今日一日で100万部を販売しないといけないんだぞ。勝てると思うのか!?」
「勝つさ。俺は、たくさん思いを背負ってるから、もちろん、君の思いもな。」
「…!」
まるで告白のようなこの言葉に、真っ赤の恰好してるスカーレットはさらに赤くなった。
「ふん、じゃあせいぜいがんばれ。あたしを失望しないでくれよな!」
「ああ、君が思う以上に、やってやるさ。」
●
朝9時前
運営が開場前の注意事項を説明するのと共に、追加の情報を全員に伝えた。
「急劇ですが、本日、新エリアブースを展開しました。場所は西ホール『フィールドエリア』、ブース名は、『神の境界』です。繰り返します。『神の境界』です。みんなさん、ぜひ足を運んでください!」
そのアナウンスに、元々情報を知ってる天道と紫咲以外、照、璃紗、一成、ビッグサイトにいる人が全員、
『なにぃいいいいいいいいいいいい!!!!!????????』
と暴動を始めた。一般参加者は『走らない』ルールを無視して走り出し、作家陣の中に、販売を中止して、神野のブースへ向かおうとする人たちもいた。
「先生が!?嘘!?何で!!?何も教えてくれなかったのに!」
もう小説を完売した照は、一応自分のブースで待機するようにと言われた。璃紗と一成も一緒。
そしてアナウンスを聞いた彼は、急いでスマホを取り出し、神野に連絡しようとしたが、
ピロン。
向こうから連絡が来た。内容は、
『君たちの分の新作を取り置きしてるから、急いでくる必要はない。聞きたいことあったら、後で時間を作る。』
と、いつも通りの共感能力を発揮して、先に答えを言ってきた。
「え…これは、ここで待ってろでこと?そんな待ってないよ!」
「では行きましょうか?」
「え?」
隣のブースにいるメリュジーヌが声かけてきた。
「私も、彼の新作に興味あります。何よりこの最終日で、どうやってスカーレットさんを追い越すのが、気になりますね。」
「…!そうですね!僕も気になります!」
「私たちも、もちろん行くわ!」
「照を一人にするわけないだろう!」
「璃紗、一成!」
「じゃあ3人まとめてご案内~どいうことですね。」
メリュジーヌはテントの一か所にまとめてる大型道具箱の中に、立て看板を取り出し、自分のブースの前に置いた。その看板に、『本日分終了』と書いてる。
しかし、テントの中に、まだ開けてない段ボールは数箱はあった。
照がそのことを気にしてるのに気づいたのが、メリュジーヌは優しい笑顔で話した。
「ダイジョウブですよ。元々こっちは趣味でやってるから、向こうは本命です。それに彼が戻ってきた今、尚更ですね。」
照は思い出した。彼女は世界3位。つまり、スカーレットと同じ、自分のエリアブースを持ってる。そして今、そっちに行くということは、神野と戦うつもりだと。
でも、
「先生は、負けません!」
「…それは楽しみですネ。」
彼女は仮面を取り外した。仮面の下は、細い目と、清楚で、淑女らしい顔立ち。彼女が書いた小説と同じ穏やかな印象。なのに、どこか危険な雰囲気が隠されてると照は思った。




